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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
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行く手迷えど(3)

σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。(スリー)(ツー)(ワン)機体同調成功シンクロンコンプリート

 機体同調が始まる。

「戦闘出力でセット。派手なデビューと洒落込むぜ」

『ベルトルデ、出力120%に設定。武装セットはノーマルです』

「あいよ。よろしくちゃーん」


 昨日一日掛けて初期設定と、実機シミュレータで慣熟をすませている。外装はもちろん、主に駆動系も変わっているがタッチは大きく変化している感触ではない。ただし、パワーゲインは比較にならないものになっていた。


(全身マッスルスリング仕様にしてくれるとはティムニもサービスしてくれたもんだ。少しくらいは気に掛けてくれてるのか?)


 当人はイオンスリーブの調達が面倒くさいなどと言っていたが多少は配慮してくれているのだろう。実際、クアン・ザの性能を見るとカシナトルドではバランスが悪くなっていた。


(クアン・ザはルオー専用に手の構造とか非格闘仕様に変更されてるって言ったな)

 スムースかつ繊細な駆動が可能になっているらしい。

(だとすれば、本来の格闘仕様になってるベルトルデはどれだけパワーがあるんだ? 想像もできんぞ)


 クアン・ザも格闘ができないわけではない。が、あまり拳で殴りつけるような使い方をしていると問題が生じても仕方ない強度に抑えられている。それができるマッスルスリング搭載機を格闘仕様に仕上げたらどうなるのか、乗って戦ってみないと理解が追いつかない。


「数が多いです。手分けしますよ」

「そうだな。市街地戦じゃ狙撃援護も効果が薄い」

 クーデター軍の目標は議会ビルなので高くも飛ぶまい。

「国軍はどうなってるんです? 監視カメラで把握できる分だけですが、80%くらいがクーデター参加者ですよ?」

「そこまで浸透してないはずだ。おそらく手札を地上勤務にこっそり入れ替えしたんだと思う」

「発覚後に軌道部隊が降りてくるまでが勝負と思ってますか」


 国軍兵士としては機動部隊が花形である。優秀なパイロットほど宇宙に上げられる。結果、地上部隊の檜舞台はこの首都防衛訓練のみとなるのだ。

 軍学校卒業後、着任訓練をして新任一年目二年目あたりは地上勤務となる。成績を挙げて防衛訓練の舞台を最後に軌道に上がっていくのがエリートコース。パトリックも過去はそこを目指していた。


「マッズいな。軌道にも呼ばれず地上であぶれて引退待ちだった連中が自由銀河党とやらの口車に乗っちまったか」

 起死回生の一撃と思い込んだか。

「それでも年季が入ってるだけ新任連中にゃ荷が重い。簡単に制圧される」

「少し派手に行って目を引きましょう。議会ビルを制圧すれば勝負ありだと気づく前にこっちに注意を向けさせます」

「そいつだ」


 ライジングサンの舷側から射出してもらう。空中で姿勢を整えて足から着地した。重力波(グラビティ)フィンを展開して即座に加速する。


「警察機には浸透していない可能性が高いです。断言はできませんが」

 ルオーも確認できていない。

「たぶん手を出せてないはずだ。手広くやるほど発覚しやすくなる。だからこそ、先に発進口を潰しにいったんじゃね?」

「おそらくは」

「とはいえ、協力するには不足だな。軍用機にはパワー負けする」


 逆にいうと、警察機などはパワー抑制された仕様になっている。街中で使用されるのが日常なので致し方ない。


「建物上手く使えよ。奴らもあんまり被害を出したくない。市民を敵にまわせば終わりだってわかってるはずだ」

「なんとでもします。君こそ気を付けて。近づくだけ包囲されやすいんですから」

「おう、わかってるわかってる」


 クアン・ザと分かれて首都中心部へと向かう。すでに混乱の度合いは深まっていた。なにしろ、クーデター参加者以外は誰が敵で誰が敵でないのか区別できていない。


(慌てまくってて機転は利かないよな。要は警察機を攻撃してるのがクーデター機だって思えばいいのにさ)

 パトリックもそれくらいしか思いつかない。


 警察機に力場刃(ブレード)を振り上げているパンテニールの後ろに降り立つ。背中を浅く薙いで制御部破壊を試みた。駆動停止した機体が崩れ落ちる。


「なんだ、お前は? どこの機体だ?」

 警察機パイロットもかなり混乱気味だ。

「オレは民間軍事会社(PMSC)『ライジングサン』のパトリック。業務上武力行使中だ」

「業務上だと?」

依頼(オーダー)は『防衛訓練中に首都に被害を及ぼす可能性のある敵性アームドスキンの排除および戦闘抑止』。依頼者はビスト・ゼーガン。これが依頼書面になる。問題あるか?」

 武力行使のベースとなる根拠をパネルに映して示す。

「確認した。事実なんだな。協力を請う。我らじゃ歯が立たない」

「住民の警護に当たってくれ。オレたちでどうにかする」

「了解だ」


 元から住民保護目的の行動が限界だろう。武装もパワーも違いすぎる。対してクーデター部隊は当初からディープリンクを繋いで効率的に行動しているはずだとルオーも言っていた。


「こんにゃろ」

「どこから出てきた! なんてパワーだ、くそ!」


 肘打ちで頭部を叩き潰し、抵抗する機体から操縦殻(コクピットシェル)を掴み出して放り捨てる。爆散させないよう戦闘不能にするのは非常に骨が折れた。


(ヤバいな。ルオーの奴が気にするはずだ。初手でこれはキツイ。ビームランチャー使いたくてもあいつみたいに正確無比に当てる自信はないぜ)


 ベルトルデのパワー頼みの戦術に限界を見るパトリックだった。

次回『行く手迷えど(4)』 「なにが起こったの?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 戦場、作戦毎に装備を変える。 当然の事だけど、個人事業主だと⋯⋯。 お高いんでしょ?
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