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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
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行く手迷えど(2)

 あれこれと調べながら打ち合わせているうちに二日が経ち、首都防衛訓練当日がやってくる。パトリックとルオーは戦闘艇ライジングサンに集まっていた。


「せっかくの公開訓練日なんだから見物に行こうってサリーがうるさかったんですけど」

 相方はこぼしている。

「見物に行くなよ。極力外出は控えるようにお触れが出てるだろ?」

「一般人にとってはお祭りみたいなもんなんです。軍学校時代は訓練当事者もそんな認識だったでしょう?」

「チヤホヤされに出るようなもんだ」

 国軍兵士にも一年に一度の楽しみである。

「まあ、今年はちょっと物騒な感じになりそうだけどな」

「妹にも釘を差しときました。絶対に出掛けるなと」

「そういえば、サリーちゃんってどんなんだ?」


 なにせ、ルオーの妹である。端から容姿には期待していなかったので今まで気にもしていなかった。


「見せろ」

「嫌です」

 頑として拒む。

『いいでしょー? こんなに可愛いのにー』

「ティムニ!」

「なんだと? お前と似たような遺伝子持ってるとは思えない出来じゃないか」

 二頭身アバターが映し出したパネルに仰天する。

「人の妹を捕まえて出来とか言わないでください」

「いや、悪い悪い。でもな、めっちゃ可愛いじゃん。会わせろ」

「だから嫌だったんです」


 ルオーは後ろ頭を掻きながらため息をつく。兄として守ろうと思っていたらしい。


「どうして連れてこなかった? ライジングサンなら安心じゃん」

 なにが起こるかわからない。

「家は官庁街から遠いんです。訓練範囲からも外れてるし、ホームセキュリティも整ってます。下手に動かないほうが安全です。出掛けないよう、クゥを置いておきました」

「猫耳娘ならお前の注意は絶対だもんな。そんくらい信頼してる」

「家で中継で観戦してるよう言い含めてあります」

 対策はしてきたようだ。

「んじゃ、落ち着いて動向チェックといくか」

「僕としては動かないですむくらいが希望です」

「ないに越したことはないんだけどよ、オレはクラークの名前が出た時点で覚悟してる」


 三兄は策略家気取りのきらいがある。あくまで気取り(・・・)だ。早々にルオーに気づかれている時点で底が知れている。


「始まるか? いつもどおりだな」

「セレモニーみたいなものです」


 時間になって街中にサイレンが鳴り響く。本来なら非常厳戒体制への移行を示す合図である。交通システムが車両の特別制御を始め、そこら中を飛んでいた各種ドローンも主要幹線道路上へと誘導される。

 入れ替わりに国軍基地から発進したアームドスキンが首都上空へと入ってきた。昼日中では目には見えないが、ドーム状に巨大防御フィールドが展開されている。フィールドを抜けて侵入してくる敵機を迎撃して市民を守る訓練要綱になる。


「まず登場したのは国軍の主力機『パンテニール』です。官公庁周辺を中心に、市街地にも配置されます。外縁地区には状況に応じて移動します」

 ライブ映像には政府広報から説明が付される。


 着地したアームドスキンが道路を歩きはじめる。路面はその重量にも耐えられる仕様になっていて、確認する意味もあった。もし、万が一のときに国軍機が足を取られるようでは話にならない。


「市民の皆様、その勇壮な姿をご覧ください。彼らによって我が国マロ・バロッタは守られております。ご安心ください」


 武器を手にするものの、パンタニールは首を左右に振って警戒する姿勢を取りつつ歩いているだけ。官庁ビルの窓から国軍機に手を振る姿も見える。市街地を警邏する機体には、沿道家屋から声援も飛んでいる。


「続いては緊急機も危険に備えての発進となります。警察機、消防機が主要交差点に配置され、火災などの対応、市民の避難誘導および警護に当たります。目にする機会も多いと思われますが、彼らの行動にもご注目ください」


 首都警察駐機所や消防駐機所のシャッターが一斉に開くのが確認できる。地下から発進した各機が本来なら説明どおり移動するはずであった。

 ところが、突然動いた国軍機が上がってきた警察機に攻撃を始める。直撃を受けたアームドスキンが発進口に倒れて擱座した。各所で似たような状態になり、一部では機体が誘爆する爆炎が見えた。


「始まったな」

「冒頭からですか。いただけませんね」

 AIアナウンスは異常事態に沈黙する。

「ティムニ、軍用回線をモニタしてください」

『はいはーい』

「混乱してるか?」


 この時点でライブ中継も途切れる。パネルは一時ノーシグナルになったかと思うと、「政府からの指示をお待ちください」というテロップになる。


「なにやってる、お前!」

「排除」

「この!」


 その声とともに交信は終わった。結果は知れている。国軍の兵士はかなり大規模にクーデター参加者に入れ替えられている模様だ。


「出ましょう」

「様子見してる暇ないな」

 彼も立ち上がる。

「いけるかい?」

『準備かんりょー』

「よし」


 機体格納庫(ハンガー)に降りるとシーリングロックされている自機を見上げる。鮮やかなレモンイエローに彩色されたアームドスキンはカシナトルドのようでいて違っていた。改造機体である。


「頼むぞ、『ベルトルデ』」


 パトリックはパイロットシートに身を投げた。

次回『行く手迷えど(3)』 「派手なデビューと洒落込むぜ」

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