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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
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足が遠くも(5)

 一時騒然としたニックル家も落ち着きを取り戻す。客が一人混じっているが、家族四人が揃うなど三年以上ぶりとなる。


「サリーは公務官(オフィサーズ)学校(スクール)に通ってるんですよね?」

「うん」


 月に一度したかしないかの頻度ではあったが、家と通話したときに一言二言くらいは会話している。一年前くらいに聞いた覚えがあった。


「もう二学年ですか。頑張ってますね」

 しみじみとする。

「公務官資格があれば普通企業への就職も有利になりますけど、どうする気です?」

「そのまま、管理局アテンダントになれたらいいなって思ってる」

「それはいいです。何年か勤めたら管理局籍ももらえますしね」

 そういう制度があるのは記憶している。

『五年だよー』

「意外と長いですね」

「しょうがないじゃない。一年でもらえるようじゃ管理局籍持ちだらけになっちゃう」

 各種優遇措置を受けられるからだ。


 アバターのティムニのことはサポートAIと説明している。事業はもちろん、航宙等全般をルオーだけで賄うのは無理だという理由で誤魔化した。


「僕もよくお世話になってます」

 通信画面がメインだが管理局ビルに出向くことも。

「やっぱり宇宙に出るとそうなる?」

「手続き関係も多いです。ライジングサンは船籍も社籍も星間管理局ですからね。それとは別に仕事もいただいてますから」

「え、兄さん、管理局の仕事もしてるの?」

 妹は驚いている。

「色々勉強してる最中だけど、星間管理局って大概のこと自前で完結できるだけの組織力あるはずなのに?」

星間(G)平和維(P)持軍(F)のお手伝いくらいです」

「そういう仕事もあるんだ。へぇ」

「内緒ですよ。記録は局内にしか残ってません。クローズドの仕事です」


 サリーの視線に少し尊敬の色が混じる。半分足を突っ込んでいるだけ、その意味を正確に理解しているのだ。


「人助けができているならば良いことだ」

 父のルーサンはもっともらしく言う。

「精進しなさい」

「できる範囲のことは。なにせ、飛び込み仕事が多いんです。関わってる案件があったら抜けるわけにもいかず」

「そうよ、父さん。管理局だけで処理に困る案件なんてそうはないんだから。呼んでもらえるってすごいことなの」

 娘に詰められて目を丸くする。

「う、そうなのか」

「でも、兄さんって軍学校の成績、そんな優秀だった?」

「聞かないでください。僕は万が一にも前線に行きたくなかった臆病者なんです」


 茶化すと妹はにんまりと笑う。変わらない兄の姿に安心しているのだろう。


「サリーがアテンダントさんですか。楽しみですね」

 賛同すると表情が明るくなる。

「そうなの! 時々指導に来てくれるアテンダントの人、制服がすごく似合ってて素敵で。公務官(オフィサーズ)学校(スクール)の制服もいいけど、やっぱりあんなふうになれたらなって」

「遊びじゃないんですよ?」

「いいでしょ、母さん。みんなそう言ってるもん」

 窘められている。

「人様のお役に立つお仕事なの。そんな不真面目な動機はいけないわ」

「そうでもないですよ。お話伺うと、制服に憧れてアテンダントさんになった方は結構いるんです」

「あら?」

「でしょー? だって、格好いいもん」


 憧れの眼差しで宙を見ている。管理局アテンダントの制服を纏った自分を想像しているのだろう。


「颯爽とブースの中で応対するには少し身長が足りないかもしれませんね。僕と同じであまり高くないですから」

 軽口を交える。

「それなの。クラスでも低いほうだし」

「でも、サリーくらい美人なら大丈夫です。人気になると、なにかと用件を作って足繁く通う地元の方も少なくないっておっしゃってました」

「そ、そう?」

 照れているあたりが可愛らしい。

「お世辞まで上手になってる?」

「そうです?」

「ううん、兄さんってそういう人だった」


 ストレートすぎて思春期の少女の頃には癇に障るかと気にしていたが、内心はまんざらでもなかったらしい。過去の自分も褒めてやる。


「恥ずかしいこと平気で言うんだもん。受け入れるのも変だったじゃない」

 もじもじしながら吐露する。

「家族といえど、口にしないで伝わるものじゃないでしょう? だったら、言うしかないと思ってます」

「よかった。兄さんが美形だったら、彼女関係で大変なことになるとこだった」

「それは遠回しに僕がモテないタイプだって言ってます?」

 妹は弾けるように笑い出す。

「ごめんごめん。でも、本当でしょ?」

「認めますよ」


 家族で笑っていると、静かだった猫耳娘がムクリと身を起こす。その目が爛々と輝いていた。


「このクッキーはなかなかのものなのぉ。シェフを呼んでぇ」

「ここに」

 コシュカが名乗り出る。

「優秀なのぉ。ルオ、お持ち帰り推奨したくてぇ」

「船の自動調理器(オートクッカー)だってティムニが調整してるから結構いい物作ってくれるでしょう?」

「この手作り感が大事ぃ」

 黙っていたのはクッキーを消化するのに忙しいからだった。

「いけませんよ。ニックルの家に不可欠になってるみたいです」

「最近は頼りっきりね」

「お持ち帰りぃ」

 コシュカの手を掴んで放さない。

「彼女はサナクルの会長さんにお気遣いいただいたものだ。融通してくれるか訊いてみるか?」

「そこまでは。発作みたいなもんです」


 このときは、コシュカに秘密があるとはルオーも思っていなかった。

次回『足が遠くも(6)』 「口が裂けても言えないじゃないですか」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 軍学校⋯⋯とは違うか⋯⋯。(防衛大学?)
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