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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
火のないところに煙は立たない
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足が遠くも(4)

 人がいいのはルオーも認める。だから父に人徳があるのは理解できる。それがリーダーとしてプラスだとは限らないのも事実なのだ。特に経営者としての場合、変な悪戯心は周囲を振りまわすに足る。


(今は家族と接する時間が長いからだろうけど、振りまわすことに変わりないんだよなぁ)


 面前の父は娘のサリーに叱られている。彼は父のルーサンに帰郷するのを伝えていたのに、驚かせようとして黙っていたからだ。不意打ちを食らった妹は兄に醜態をさらす羽目になる。


「そんなに怒らなくても」

 ルーサンはおののいている。

「恥ずかしいじゃないの!」

「照れ隠しに僕に八つ当たりしないでよ」

「うるさい! 父さんが余計なことしなきゃこんなことにならなかったの!」


 泣きすぎて目を赤くしたサリーは噛みつく。反動が大きいのは、彼女が「泣かないでぇ」とクーファに言われるまで客の存在にも気づいていなかった所為もある。本人も涙目になっている猫耳娘に慰められて激しく動揺していた。


(幼かったころ以来かなぁ、あんなに可愛らしいサリーを見たのは)

 ルオーは少し安心している。


「そんなに責めないであげなさい。お父さんだってあなたが喜ぶと思って内緒にしてたんだから」

 母のポリンが仲裁する。

「嬉しく……! なくもないけど」

「ほらね。そろそろ大人になりなさいな。ルオーが出ていって一番落ち込んだ……」

「落ち込んでなんかない!」


 心根の優しい妹である。それなりには察していたが、そんなに自分を責めているとは思ってなかった。もう少し早く帰ってやればよかったと後悔している。


「父さんはいつもいつも突然なんだもん。コシュカを連れて帰ったときだって急だったし」

 サプライズが過ぎる。

「そうだったんです?」

「いやぁ、喜ぶかと思って」

「サプライズっていうのは好むタイプと好まざるタイプがいるんですよ。サリーは明らかに後者でしょう?」

 激しい感情の動きを見られるのを恥ずかしいと思うタイプだ。

「でも、サリーさんは優しいです」

「いや、君が来るのを嫌がったんじゃなくて、心の準備をできなかったのが面白くなかっただけですから安心してください」

「よかったです」

「兄さんもコシュカを受け入れ過ぎじゃない?」


 当たり前に接している兄を訝しげに見る。それほど社交的な人だとは思っていなかったらしい。


「変です?」

「来る者拒まず去る者追わず。その裏で計算高さもある人だった」

 よく観察されている。

「仕事のお陰で多少はスキルアップしているかもしれませんね」

「だからって、小さい子を連れてくる?」

「小さいけど幼くはないですよ。クゥは僕より一つ年上です」

「えええっ!」


 クーファの見た目年齢は三年前の妹くらいだろうか。サリーは今では彼よりやや背が低いので160cmくらいだろう。144cmの猫耳娘をまじまじと見下ろしている。


「あー、ごめんなさい」

 素直に謝る。

「いいのぉ」

レジット人(レジトリアン)という種族の人です。仲良くしてくださいね」

「聞いたことない。レジト……?」

 戸惑っている。

「バロッタにもレジット薬局があったんじゃないですか?」

「知ってる。すごくよく効く風邪薬売ってくれるって噂になってた」

「レジット製薬社長の娘さんです。ライジングサンを手伝ってもらってますけど」


 サリーはクーファを凝視している。主にウサ耳のほうを。とてもお嬢様には見えないとか思っているだろう。


「ああ、それは通常装備なんで気にしないでください」

 一応断っておく。

「気にするわ!」

「神経質ですね」

「そういう問題じゃなくない?」

 兄の適当さに呆れているようだ。

「ルオは死なないから泣かなくていいのぉ。クゥもついてるしぃ」

「それは忘れてぇ! って、女の子つれて危ない仕事してるってどうなの?」

「臨機応変です」


 どんぶり勘定のルオーに眉根を揉んでいる。だから、不安にさせるのかもしれない。


「クゥのウサ耳は危険を察知できるのぉ」

 自慢げに言う。

「本能的な感じの人?」

「0.2%くらいの確率でぇ」

「低すぎ!?」

 すでに巻き込まれている。

「いい人センサーに反応してるサリたん、好きぃ」

「見込まれた!」

「手遅れですね。とことん付きまとわれますよ」

「迷惑系!?」


 どうにかウサ耳の長さ分の高さでアドバンテージを奪おうとピョンピョン跳ねているクーファ。なんとか許すまじと合わせてジャンプするサリー。サイズ的には逆転しているが、まるで姉妹のような振る舞いの二人に安堵する。


「最近はどうです?」

 父のルーサンに訊く。

「大人しくしてるよ。ライジングサンの株式配当で普通に暮らせる」

「代わりにサナクル生化学の株式には手を出さないって約束ですからね」

「あれは会長に任せたものだ。今さら口出しする気はない」


 かなりの資産になる。そちらの配当もあるのだが、父は今の邸宅のローン代わりと言って受け取りを拒んでいた。それが余計に会長の歓心を買っているとも思わずに。お人好しもここに極まれりだ。


「事業は順調なようだな」

 配当金から予想できるはず。

「それなりに名も売れましたから忙しくしてます」

「たまには戻ってこい」

「それも考えものです。こんな稼業ですので、多少は恨みも買うものですから」

 足が遠のいた理由の一つでもある。

「自分に恥じないならかまわないよ」

「それだけは肝に銘じてます」

「なら、いい」


 父も年齢なりに落ち着きが出てきたようだと息子として感じた。

次回『足が遠くも(5)』 「え、兄さん、管理局の仕事もしてるの?」

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更新有り難うございます。 血筋を感じるw
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