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暁光映る(7)

 星間管理局の社籍を得るのはレジット製薬にとって破格の好環境だとはルオーも思う。ただ、問題がなくもないのだ。


「ここでレジット製薬が星間管理局の大きな傘の下に入るのはキリクさんたちも安心できるでしょう。ですが、人間種主義者の反感も強くなってしまいます」

 切々と説く。

レジット人(レジトリアン)が皆、レジット製薬の社員というわけではありませんでしょう? 関わりのない同胞が脅威にさらされかねません」

「確かにそのとおりだ。娘は君が守ってくれようが、他の者までは」

「なので、管理局を除いた強力な守護者の保護下に入るのをお勧めします。心当たりありません?」

 別口を求める。

「そう言われても、星間銀河圏にそれほど伝手もなくてな。現状を思えば、管理局のお世話になるのが最善に思えるのだが」

「そこまで言うんなら君の伝手を使いなさいな」

「僕です?」


 藪から棒に指名される。問題はあると思っても、いつものどんぶり勘定で発言していた。ここはジュリアが収拾してくれると考えていたのだ。


「当てですか」

 手を振って近隣宙図を開く。

「ここって案外パルミット宙区寄りなんですね。だとすると、あそこなら口利きできるかもしれません」

「どこか知っているのかね?」

「僕はパルミットのマロ・バロッタ出身なんです。近場で周りに睨みが利くほど軍事強国となると……。聞いてみましょう」


 繋がりのある連絡先を開き、一つを選ぶ。現地時間を調べるのを忘れたので慌ててチェックしていると相手が通信画面に現れた。


「ルオー、久しぶり! やっと今年も契約してくれる気になった?」

 頭ごなしである。

「ご無沙汰しています、ミアンドラ様。残念ながら別件です。お父様に顔繋ぎしてくださいません?」

「違うの? つまんない。なにごと?」

「ちょっと込み入った話でして」

 不機嫌になる少女に困り顔で応じる。

「お父様なら去年の国軍観兵試合の結果でガンゴスリ軍閥内での力がアップして、今年は国軍長官に任命されたの。あなたのお陰もあるから大概のことは聞いてくれると思うけど、わたしも聞いていい」

「実は……」


 ミアンドラの政治の素質を認めている。ここで蚊帳の外にせず、ちゃんと考えさせてやることは将来のためにもなると思ってすべてを打ち明ける。


「レジット製薬ね。ガンゴスリにも薬局あるわ。評判いい」

 少女の視線が動いて情報を集めているのがわかる。

「軍事においても医療や薬品は不可分よ。間違いなくいい返事をあげられると思う。わたしからも掛け合うから」

「よろしくお願いします」

「だから、今年の観兵試合もお願い。カーデル家が張り切っててヤバいの」

 士官学校卒業間近のエスメリアなら気合入っているだろう。

「結局、ロワウス家の補助で新規民間軍事会社(PMSC)を立ち上げて頑張って鍛えてきたのでしょう? その成果を示すのが筋だと思いますよ。頑張ってください。あなたならいいとこまで行けます」

「もう、釣れないんだから。話が決まったら来て。新しいお店も開拓したんだから」

「それは見逃せませんね。お伺いするつもりです」


 嬉しそうにまくし立てる少女と少し世間話をしているうちに、父親のボードル・ロワウス氏から協議を進めたい旨のメッセージが戻ってきたと教わる。話がつきそうだった。


「というわけでガンゴスリに行きましょう。現地までは僕も同行します。ミアンドラ様が逃がしてくれそうにもありませんし」

 国家移籍で話をまとめる。

「驚いた。顔が広いのだな」

「ありがたいことに手広くご愛顧いただいてます。今後の販路と警備体制などに関しては現地で協議しましょう」

「それくらいは任せてくれない?」

 ジュリアが申し出る。

「星間管理局の販売プラットフォームを提供するわ。薬局は閉鎖して、代わりにオペレータ体制を確立してくれればこれまでどおりの症状確認はできるようにするから」

「おお、それは助かります」

「決まりですね」


 キリク氏と握手する。これで人類種(サピエンテクス)は好意を寄せても返してくれないと思い込ませないですむはずだ。


「ところでこれ、どうにかしてくんない?」

「クゥ?」


 猫耳娘がジュリアに首根っこをつままれて吊り下げられている。彼女の見事な赤い髪に興味津々のクーファがずっと後ろから戯れつづけていたのには気づいていたが楽しそうなので放置していた。我慢の限界に達したらしい。


「君、よくこの悪戯子猫の面倒を見ているわね?」

「これでも可愛いとこあるんですよ。えっと、ありましたっけ?」

「あたしに聞かないでよ」


 涙目でジタバタするクーファをジュリアから引き取るルオーだった。


   ◇      ◇      ◇


 一件落着して、ライジングサンの二人はロンロン家の家族の晩餐に招かれる。質素ながら素晴らしい味に舌鼓を打っていた。


「やはり、このラッチネという魚は広めるべきです。どうにか養殖プラントの開発を進められないもんです?」

「落ち着いたら考えたい」

 キリクも投資に関していい返事をくれる。

「旨味をしっかりと主張しながらも、どんなソースにも馴染む底力。馬鹿にできません」

「今日もとてもいい仕事をしててぇ。シェフを呼ぶのぉ」

「待機しておりました、お嬢様! お呼びに預かり光栄にございます!」

「それ、ネタじゃなかったんです!?」


 驚愕の事実にルオーは仰け反った。

次はエピソード『分別過ぎれば愚に返る』『足が遠くも(1)』 「帰ってみようかって」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 個人のツテなら最強クラスですかね?
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