暁光映る(4)
シュルカ・レトの反獣人種のテロリストが戦闘艦まで持ち込んでいたのは、レジット製薬の工場を制圧して人質にする算段だったと思われる。速やかに実行しなければ阻止される可能性が出てくる。
(それも保険みたいなもののはず。本当は簡単に侵入できると踏んでたよねぇ)
ルオーは相手の心理を読む。
侵入をいとも簡単に妨害され、さらに仲間の一部が都市警察の手に落ちたとなればゴリ押しするしかないと計画を第二段階に移した。それも出鼻をくじかれれば焦りを生む。
「ぬるいんだよーん」
急いでいなければ、突出してきたパトリックのカシナトルドなど恰好の的でしかない。しかし、目標を切り替えようと注意が逸れれば逆にスナイパーの標的になる。
「ほい」
力場刃を振りかぶったカシナトルドを足留めしようとリフレクタを構えるテロ機。ところがパトリックは寸前で軌道を変える。そこへクアン・ザの収束ビームが突き刺さり爆散した。
「そろそろ数も怪しげになってきたじゃーん」
紫髪の青年に煽られる。
原理主義に染まって過激な行動に走る者たちだ。危険だと覚っていても挑発に乗ってしまう。注意が逸れればスナイピングビームの餌食だ。
逆に集中できていなければパトリックが容易に見透かす。ブラインドを使わず、真っ向から墜としにいく。相方の敵ではない。
(主義主張、思想が強いのが悪いとは言わない。場当たりに生きるのが正しいわけがない。ただ、他者からどう見られても構わないと思うほど酔ってちゃ駄目だなぁ)
ルオー自身もだいたいに場当たりな生き方をしている。
(しかも、酔ってるつもりが酔わされているのがいただけないねぇ。自分のも他人のも命を軽くする)
今や半数以上を失って作戦続行を危ぶむレベル。相手が武力を持たないのであれば十分な数でも、反撃能力があるならば撤退もやむ無しだろう。それでも退くことを考えられないからテロリストなどやっているのか。
「あれれ? 逃げちゃうんかーい」
生き残っているのは少しは頭のまわる者たちか。薄く広がったかと思うと高度を下げてくる。カシナトルドがビームランチャーを構えるも発射はしない。背景に街並みが入ってくれば躊躇う。
「引っ張り上げるか。面倒くさ」
「放っといていいですよ」
「来たのか、ルオー」
初動から予期してクアン・ザを前進させている。残り数機となったテロ機は分散しつつ工場を狙おうとしている。上空に入ってビームランチャーを突き付けて人質に取ればまだ間に合うと目論んだらしい。
「僕が外すと思います?」
スナイプフランカーを下に向け、丁寧に一撃ずつで仕留めていく。ただし、爆散はさせず制御部かコクピットを狙って戦闘不能にするだけ。動かなくなれば反重力端子の余力で不時着する。下が都市でも問題ない。
「全滅かよ。ほとんど自爆攻撃みたいなもんじゃん」
「そうではなかったはずですよ。戦闘艦二隻分の戦力を投入したんですから確実を期したつもりなんです」
それくらい製薬工場に手を付けたかったはず。
「まあ、落ちたやつを締め上げればシュルカ・レトに代償を支払わせるくらいはできるだろ」
「いえ、こんなのは潰しとくにかぎります」
「とことんやっちまう気か?」
パトリックは彼と同じく離脱撤退しようとしている戦闘艦に気づいている。見過ごしてミソノーの判断に任せる気になっていたと思われる。
「次はないと思わせときましょう」
「直掩も残ってないから楽だけどさ。って、そいつか?」
クアン・ザの背中から長大なビームランチャーがアームで脇にまわされる。右手に収まるとさらに砲身がスライド展開して、全長が15mの化け物ランチャーに変じる。
『ラジエータギル、複層展開』
砲身が伸びると同時にウロコ状に重なっていた冷却器が二ヶ所三方向に開いた。
『スクイーズブレイザー、チャージアップ。発射可能です』
「いけるのか?」
「計算上は」
離脱する戦闘艦は遠ざかって小さくなりつつある。ルオーは無造作に照準するとトリガーを押し込んだ。まばゆいばかりに絞り込まれた細いビームの青光が真っ直ぐに伸びていく。
「防御フィールド解除してるわけないんだけどさ」
さも当然のことをパトリックは言う。
スクイーズブレイザーは防御フィールド表面に衝撃すると紫色の干渉光をリング状に弾けさせる。抵抗は刹那のことで、ビーム本体は一瞬にして駆け抜けた。戦闘艦の後尾から前頭に向けて。
まずは機関部が火を噴く。全てを飲み込む一万℃を超えるプラズマ炎が艦体を食み、侵食していくと全体を爆炎に変えてしまう。
「ひょおぅ、派手だね」
「あればかりは首都に落とすわけにはいきませんね」
間を置いてのもう一隻に向けた一射は推進機をかすめさせただけ。ふらふらと惰性で進んだかと思えばあらぬ方向へと落ちていく。
「使えるじゃん」
パトリックが見つめてくる。
「お前ばっかりティムニに贔屓されてさ。ズルいぞ?」
「火力の塊みたいなもんですよ。とても最近のアームドスキンとは思えません」
「設計思想としては古いが、お前にはぴったりじゃね?」
否定する要因はない。短い戦闘の間に使いやすさは実感している。
(ルイン・ザはお試しだったみたいだねぇ)
ルオーは自慢げに踊る二頭身アバターの頭を指で突付いた。
次回『暁光映る(5)』 「そうでしょうか? 不思議だったんですよ」