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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
世の中ままならない
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今に至る(7)

(素晴らしい戦闘技術だ)

 マイス・オーグナーは雇った二人の強さに感服する。

(しかし、いかんせん多勢に無勢。兵士ほど戦闘に精通した相手では限界がある。こちらを生かしておく必要性を排除した瞬間に形勢は逆転してしまうだろう)


 襲撃犯の行動からして最初は彼ら家族を捕らえるのが目的だったと思われる。しかし、事態は変わってしまった。思わぬ抵抗を受けて、おそらく最終手段である戦力まで使う羽目になっている。


(その戦力まで撃破されそうになったらどう考えるか。今度は目撃者を一掃しようとするするはずだ。つまり、ここも狙われる)


 ルオーという青年のスナイパーとしての腕も一級品だと思う。ただし、相手方からすれば彼ら家族の傍という、直接狙えない位置に狙点を置いているのも功を奏していた。それを放棄したときどうなるか。青年は皆を守るのに防戦一方になるしかない。


「私たちは退避しよう」

 上陸艇に向けて家族を誘導しようとする。

「いいえ、そのままでいてください。もうそんなに時間は掛かりません」

「だが、君は?」

「問題なしですよ」


 やはり、狙いはこちらに変わった。国軍機がビームランチャーを向けてくる様がゆっくりと見える。光条が放たれればルオーはリフレクタで防ぐしかない。

 防御機構である力場盾(リフレクタ)は確実にビームも弾いてくれる。ただし、出力の関係で形成面積に限度がある。複数の場所から発射されたビームを防ぐには動かねばならなくなり、攻撃にまで手が回らなくなる。


(そうなったら前面に出てくれているパトリック君も不利になる。悪循環で手詰まりになろう)


 ビームがこちらに向かって発射される。無慈悲な光は五千mの距離を一秒で駆け抜ける。即座に動かねば防げない。ところがモスグリーンのアームドスキンは動かなかった。


「なんだって?」


 砲口がついと滑り、それまでと変わらないようにビームを吐き出す。その光が向かってきた光と衝突した。ビーム同士が干渉して紫色のプラズマボールと化す。


「偶然……か?」

 意図的になどあり得ない。

「幸運に恵まれた……、いや、嘘だろう?」

「大丈夫ですから。できるだけ引っ張らないようにします」

「まさか、狙ってやっているのか?」


 現実とは思えない。凄まじい速度で飛来するビームを同じくビームで狙撃するなど見たことも聞いたこともない。激しい戦場でならたまたま起こると聞いたことはある。

 まるでブレードでビームを斬り裂くような離れ業をスナイパーランチャーでやってみせる人間などいるものだろうか。しかし、彼の前の青年は平然とやって見せていた。


「ああ、そんな……。美しいとまで感じるなんて」

 妻が口にしている。


 四機がそれぞれに狙ってきたビームがビームで迎撃されてプラズマボールになる。それはまるで昼日中に空に咲く花火のようであった。紫色の花火がほうぼうで上がる。


「すごいですわ」

「ルオー、格好いい」


(これほどとは……)


 ずっと眠そうな面立ちだった青年の仕事にマイス氏は驚愕した。


   ◇      ◇      ◇


「おいおい、オレを無視するとはいい度胸じゃん」

「早く片づけてくださいよ。ラジエータギルだっていつまでももってくれるものじゃないんですから」

「あいよ」


 レモンイエローのカシナトルドが狙われないのをいいことに縦横に飛び始める。背後を取っては制御部に一突き加えて墜落させていった。程なく全ての国軍アームドスキンがのどかな風景の空から排除された。


「まだです?」

『もう着いたー。ほらー』

「じゃあ、あとは任せましょうね」


 上空を通過するのは重力波(グラビティ)フィンを装備したアームドスキンの集団である。胸に『GSO』のロゴを備えている機体は管理局警察機関のもの。ティムニの通報に従って到着したのだ。


「ふうー、ひと仕事したぜ」

「お疲れ様です」

 カシナトルドも戻ってきた。

「あとは星間(G)保安(S)機構(O)に任せましょう」

「いやいや、それはない。これからがオレの見せ場じゃん」

「令嬢に格好つけたいだけでしょう?」


 パトリックが金色のフィットスキン姿で身をひるがえして機体から降りていく。ルオーも仕方なく後を追った。無事に収拾がつくとは思えない。


「ありがとう。君たちの活躍で私たちは無事だ」

「なんてことないですよ、オレにとってこのくらいは」

 鼻をそびやかしている。

「それより、君の柔肌に傷一つ付けないですんでホッとしていますよ、レーシュ嬢」

「ええ、素敵でしたわ、パット様」

「本当に大したことないですよ」

 鼻がどんどん伸びていく。

「ところで、君たちはこの事態を把握していたのかね?」

「本件ですか? ええ、もちろんですよ、ミスター」

「説明してくれないか?」


 勢い任せに前に出たもののパトリックはそこで固まった。視線を彷徨わせながら頭の中を整理している。


「えー、なぜダイトラバの国軍が出しゃばってきたかというと……」

「なぜだね?」

「あー、そもそも最初の襲撃犯というのがー、えーと、なんだっけ?」

 しどろもどろになる。


 口だけがパクパクと動き、目だけでフォローしろと言ってきた。ため息を一つついて肩をすくめる。


 ルオーはマイス氏に説明を始めた。

次回『今に至る(8)』 「それでもなにも出てこなかった。そこが不自然なんですよ」

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