暁光映る(3)
ルオー操る新たなアームドスキンが収束ビームを放つ。ジュリアがフィン発生器だと思っていたものは固定武装だった。
(この距離で?)
空中を一直線に貫いた光が遥か彼方に飛んでいく。その先で爆炎が一つ開き、煙の筋を引いて部品をばらまいている。
(ほんとに当てるんだ)
危うく爆笑しかけて口を押さえる。
(戦気眼の一種らしいから見えているのは金線っぽいもの? 飛び先がわかってるにしても、そこまで見通せるカメラ性能もとんでもない。それを正確そのものに照準できる彼の腕も半端じゃない)
彼女の知っている戦気眼持ちはリリエル・バレルただ一人。敵の戦気、つまり攻撃意思が金色の筋となって見えていると言っていた。
ルオーの場合は自身の攻撃意思が見えるし、敵対する者の意思も見える。さらには範囲が極大ともなれば効果はすさまじい。
(ただし、射撃限定ってのが玉に瑕ね)
微妙な制限が掛かっている。
(まあ、これだけ見えるんなら至近距離でブレード振られても見えてるでしょ)
ビームも大気圏では含有する質量体やプラズマそのものの影響で一秒に3000mしか進めない。それでも物理的に振りまわす力場刃は比較にならないくらい遅い。目が良ければ初動から攻撃まで丸見えだろう。
「オンニ、見ててぇ。花火始まるぅ」
「花火だって? なんのことだい?」
勘だけの応射が開始される。ただ、撃たれているのでは削られるので当然だ。ろくに見えない位置から狙撃される恐怖も手伝って激しい。
それでも、一部のビームはどうしても工場へと流れてくる。新たな光条が走ると、流れ弾と衝突して紫色のプラズマボールと化した。
(攻撃も防御もビームランチャーオンリーで完結。普通じゃ敵わないわけだわ)
ジュリアは興味深そうに戦闘光を見上げていた。
◇ ◇ ◇
首都防衛機構が働こうにも敵は都市側から来ている。方位からして、ライジングサンと前後して宙港を発してやってきたのだろう。船籍を偽装してタイミングを計っていたと思われる。
(さっきの襲撃も、晩餐会の破壊工作もそこから出てきたテロリストがやってたんだろうし。首都のガードがそんなに甘いってのは考えられないんだけどねぇ)
都市間近の上空の砲撃戦では防御フィールドも作用してくれない。工場だけに特別にフィールド展開設備などない。仕方ないので、流れ弾は丁寧に処理するしか方法がないのだ。
(二丁持ちだから楽でいいなぁ)
左のスナイプフランカーで敵機のリフレクタの端を叩いて傾いだところを右のスナイプフランカーの一撃で薙ぎ斬る。ヒートゲージの消耗は実質二分の一に抑えられるので神経質にならないですむ。
「とはいえ、これだけ出力大きいとプラズマ燃房の消耗が激しいですか」
考えを口にするとティムニの3Dアバターが姿を現す。
『スナイプフランカーがフローティングモードのときはショルダーユニット経由のチャージができないから注意ぃー』
「定期的に解除しないと駄目です?」
『手首のチャージプラグ使ってガングリップ経由でチャージぃー』
普通のビームランチャーへのプラズマチャージと同じく、手首から打ち出すタイプのチャージプラグを使用する。それでスナイプフランカーの燃房レベルが回復した。
「なるほど。ロックモードのときはショルダーユニットから、フローティングモードのときは腕からの供給になるんですね」
『そうー。ちなみに弾液もチャージガンで換装しないとだから忘れないでー』
「チャージガン?」
コンソールパネルのスナイプフランカー構造モデルに目を走らせる。クアン・ザに握らせているガングリップはただのグリップではなかった。引き抜くと単体でハンドガンになる。
腰のラッチにビームランチャーを吊るせないのは不安だった。それを解消する仕組みがチャージガンで、さらにビームに含まれる質量体が充填されている弾倉も付随しているスタイルだった。
(確かに僕の要望を全て満たすような機構を備えてるんだねぇ、クアン・ザは)
感心する。
「なによりスナイプフランカーは反動が小さいのが楽でいい」
『でしょー?』
「これもリニアキャッチのお陰です」
スナイプフランカーとショルダーユニットを繋ぐシリンダは固定や可動をさせる機構ではない。ショックアブソーバーなのだ。フローティングモードのときはリニア機構とこのシリンダの緩衝作用で本体に反動が伝わりにくくなっている。
『ほら、もう使い慣れてきたでしょー?』
「そうですね。これだけ使いやすいと早いうちにマスターできそうです」
説明を聞いている間にも迎撃を続けている。十一機までは爆炎を確認したが、他の直撃機も大破しているはず。すでに二十数機は戦闘不能になっている計算である。
「おいおい、近づいてもこれないじゃん」
「工場上空まで入れたくないんです。守りが全然なんですから」
「言えてるな。んじゃ、オレ、前に出るわ」
言い残してパトリックはカシナトルドを加速させる。ディープリンクで相対位置が正確に表示されているのを確認して迎撃に戻った。
(スナイパーランチャーとしてはこのスナイプフランカーで必要十分だなぁ。すると、背中に背負ってるこれはなに?)
意識するとコンソールで背中のランチャーの説明が始まる。
(冗談みたいだ。それでこのパワーゲインかぁ)
ルオーはクアン・ザのオーバースペックに呆れた。
次回『暁光映る(4)』 「放っといていいですよ」