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灼翼の瞳に(3)

 追跡者のリフトカー二台は斜め後ろに付けてくる。リニア道路区間とはいえ、車体の重いリフトリムジンでは容易に追いつかれてしまう。


「当ててく?」

「いえ、そのままで」

 乱暴な手段に訴えそうなジュリアをルオーは諌める。


 同乗のレジット人(レジトリアン)三人のガードをパトリックに任せ、彼はウインドウを下げてハイパワーガンを突き出した。一閃したレーザーは追跡車両の前方の路面を薙いだのみだ。


「外したぞ、下手くそめ。腕の悪いボディーガードなんぞ怖くもなんともない」

「さっさと停めて引きずり出せ」


 反撃を怖れなくなった相手は乱射してくる。ルオーはウインドウを上げて細めに射撃スペースを残す。立ち上がると狙いをつけ、二射だけした。

 追跡車両をレーザーが焼いたかと思えば、急につんのめってフロントが路面と火花を散らす。ついには前転を始めて大破しながら後方へと流れていった。


「今のは?」

 レパは瞠目している。

「最初に一発撃ったじゃん? ルオーはあれで路面のホコリを舞い散らしたのさ」

「それでどうなる」

「相手の車のどこに噴射口が付いてるかわかる」

 パトリックが説明を加えている。


 リフトカーは車体下各所に配置されているイオンジェット噴射で推進している。つまり、その位置をホコリの巻き上げで確かめたのだ。

 あとはその噴射口の奥にあるイオンジェットを狙撃するだけ。噴射バランスの狂った車体は先ほどのように捲れて転倒する。


「そんなことが可能なのか?」

「目が良ければな」

「ルオなら簡単なのぉ」

 驚くレパとアーギムを余所にクーファはのほほんとしている。

「あれだと中身も当てになりませんね」

「大怪我してるし意識もないかもな」

「もう一台を停めましょう」


 もう一台は警戒して距離を取っている。リアウインドウに視線を走らせて様子を窺った。


「一発で狙える?」

 ジュリアが尋ねてくる。

「どこをです?」

「エンジン」

「後ろか上からなら。抜かせます?」

 彼女は「ううん、こうする」と言って素早く複雑な操作をする。


 唸りを上げてリムジンのリアが浮く。フロントでこすれる音がしたと思うと、破裂音並みの噴射が起こり車体が宙に浮いた。


「っと!」

「やって」


 ルオーは慌ててウインドウを全開にすると身を乗り出した。急に止まれなかった追跡車両が下を抜けていくところだ。彼は正確にキャビンの後ろ、燃料電池の本体があるであろう位置をハイパワーガンで貫いた。


「お上手」

「どうも」


 とんでもないのはジュリアのほうだ。初めて乗った車に空中機動をさせるテクニックは普通ではない。そもそも安全装置を解除するだけでも一般人にはできまい。


(さすが『全知者』とも呼ばれる司法(ジャッジ)巡察官(インスペクター)ってとこかなぁ)

 ルオーも舌を巻く。


 イオンジェットを噴かして着地する。ふわりとした感触がして、道路に接触することなく走行を再開した。

 下を行き過ぎていた追跡車両はエネルギーを失って浮揚(リフト)することも適わない。車体の腹をこすりながら激しくスピンしていた。停車してドアが開くと目を回して降車する。


「警察待ち?」

「いえ、ここで吐いてもらいましょう」


 腹の中身ではない。情報をである。ルオーは追手の正体ではなく内情を欲していた。


「入り込む隙を狙ってました? 脅迫すれば重要人物の誰かがレジット製薬の工場に向かうと思ってたでしょう」

「それがどうした!」

 果敢に吠えるが、武装を放り出した追跡者たちは銃口を突き付けられて黙る。

「人質を取って中に入ったらどうしろって命令されてます?」

「誰がしゃべるか!」

「侵入するよう指示されていたのは間違いないですね」


 聞きたいことは聞き出した。目的が彼らの殺傷ではなく身柄の略取だったのが判明する。手順が必要だったのだ。


「来ちゃったわよ?」

「もういいです。引き渡します。そのあとがどうなるか(・・・・・)わかりませんけど」

「ふぅん、そう思うのね?」


 近づいてくる警察車両のサイレンが響いてきた。パトラインを明滅しながら走ってきたパトカーの警官たちがテロリストを確保していく。事情聴取に同行を要請されたが、ドライブレコーダのコピーを一通り渡して勘弁してもらう。


どうなるか(・・・・・)わからないものね」

「スケジュールどおりにいきましょう」

「さあ、乗った乗った」


 パトリックが首をひねっているレジット人たちを促す。再び車中の人になった一同はようやく郊外の工場へと到着した。


「見られてるか?」

「結構。思ったより組織的です」

「やっぱ、一機くらい持ってきとくべきだったぜ」


 状況からして監視者がアームドスキンまで装備しているとは思えない。周囲はだだっ広い丘陵地帯である。ただし、人数が多いのをパトリックも懸念しているのだ。


「ミソノーにはそんなに大勢のテロリストがひそんでたのか」

 レパは気づいていなかった事実に怯えを覚えているようだ。

「問題はそこであり、そこじゃないんですよね」

「わかるように説明してくれないか?」

「その前に中を見学させてもらっていいです? 連中が破壊でなく進入したがってた理由が知りたいんです」

 あまり秘密を持つと信用を得られない。

「そこよね」

「警備や設備が厳重で、中からでないと破壊活動ができないとかじゃないのか?」

「地上施設の破壊なんてその気になればいくらでも。今どき、アームドスキンの一機も所持してない国際テロリストなんていません。だから、僕たちみたいな民間軍事会社(PMSC)なんて商売が成り立つんです」


 ルオーの説明でレパは納得したようだった。

次回『灼翼の瞳に(4)』 「とんだ勘違いね」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 テロ組織にも一家に1台アームドスキンの時代かぁ⋯⋯。
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