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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
世の中ままならない

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今に至る(6)

 目に見える襲撃者がいなくなったことでマイスたち一家は喜びに抱き合っている。突然の襲撃に虚を突かれて呆然としていたところで助かったので当然だろう。ボディガードも二名を残して捕縛に走っていた。


「そのまま集まっていてくださいね」

 ルオーが緊張を解かず一家に伝える。

「別の戦力が接近してきます。そちらの対処が済むまで待ってください」

「本当か? それほどの戦力を有しているとはただの営利誘拐などの目的ではあるまい」

「だったら話は難しくなかったんですけど」


 情報どおりなら接近してきているのは小型の戦闘艦。通常は領宙警備に使用されているサイズの艦艇である。


「あのエンブレムは国軍の……。そんな馬鹿な」

「そういうことなんですよ。なので、このあとは少し大変なんです」

「大変どころではあるまい。あのサイズでもアームドスキンは十機は搭載してるんだぞ?」

「ええ、通常の戦闘艦ならさすがに厳しいですからね」


 一般的な国軍の戦闘艦だとアームドスキン三十機を搭載している。その数を二機で撃退するのは至難の業。


「少し忙しくなるので話はあとでいいですね?」

「う……む、ああ」


 話している内に中型の艦艇の船底(ボトム)から連続してアームドスキンが産み落とされる。これまでの襲撃者と違い、装備のしっかりとした国軍機だ。


「ラジエータギル展開」

『冷却液循環開始。迎撃準備ぃー』


 スナイパーランチャーの砲身から魚の鰓のように重なり合う三枚のフランジが飛び出す。十字方向に四箇所突き出たギルの中では、ビーム収束電磁場の影響で金属チップとともに冷却液が強制循環を始める。それで過熱しやすい高収束砲身の冷却を行い連射を可能とするのだ。


「わお、ほんとにお前の言うとおりだったじゃん」

「残念ながら。頭飛ばされて戦闘映像切らさないようにしてくださいね。全て証拠なんですから」

「そんなん、オレの命がヤバいって」

「君は死なせませんよ」


 本件の裏側まで説明しても参加を辞退しなかったパトリックだ。護衛対象の家族はもちろん、相方も撃破されるつもりは毛頭ない。


「問題ないさー。あの程度なら」

「おそらくは、ですね」


 連発音がルオーのところまで響いてくる。国軍のアームドスキンは少々新しく、パルススラスター搭載型である。パルスジェットを複数並列配置して噴射位置や頻度で推進制御する機構は普通のプラズマスラスターより機動力に柔軟性がある。


「当てんなよ」

「僕が君に当てたことあります?」

『たまに当てたほうが病気が治っていいような気がすることあるけどー』

 ティムニがパトリックの女癖を揶揄する。


 ルイン・ザは立ち姿勢でそのまま迎撃する。丘陵が広がる見晴らしのいい場所では護衛対象から離れるのはタブーである。そこで終わらせなくてはならない。


(まあ、こっちからも見やすいからこの場所でOK出したんだけど)

 狙点を取りやすい。


『ターナ(ミスト)、戦闘濃度ぉー』

「それで制圧できると思ったら大間違いですよ」


 先の戦闘を見ていた国軍のアームドスキンは狙撃精度を落としたつもりなのだろう。しかし、ルオーにとってはなんの障害にもならない。大胆に接近してくる一機に無造作に照準してトリガーを絞る。

 細く濃縮された高収束ビームが走る。弾速は通常ビームより若干速く、一瞬にして空間を斬り裂き頭部に直撃。木っ端微塵にする。


「すごい。当たった」

「大丈夫ですから、そのままですよ」

 ダントン少年が驚きを口にする。


 青ざめていたマイス氏も多少は余裕を取り戻しただろうか。ボディーガードに襲撃犯を行動不能にしたら戻るよう指示している。多少は本気を出しても大丈夫と思えた。


「家族を支えてあげてくださいね」

「わかった!」


 膝立ちの姿勢にすると連射を始める。普通のビームランチャーより大きな反動が機体を叩く。周囲の空気も押されて後ろへと吹き付けている。若草が波打つようになびき、マイス氏が家族を抱えて姿勢を低くした。


(守るべきものを守れる人を危機にさらしてなるもんか。こんな人が議員をやっているかぎりはこの国にも未来がある)

 ルオーは冷静に見つめている。

(でも、できるとなると思ったよりやりたいことっていっぱい増えてしまうものなんだなぁ。ライジングサン始めた頃はもっとのんびりと過ごすつもりだったのに)


 間違っても、どこかの国軍相手に戦闘する気などなかった。それが意外にもできてしまうのが難点である。


「あの位置からだと?」

「各機散開。的を絞らせるな」


(バラバラになってくれたほうが楽だよ?)

 聞こえてくるオープン回線の交信に無言で応じる。


 筒先を少しずらして発射。ビームは片足を貫く。姿勢制御推進機(パルスジェット)のプラズマ燃房(チャンバー)が小爆発を起こして機体が流れたところで頭部、両肩と破壊して戦闘不能にする。

 パトリックの攻撃をサポートしつつ一機ずつ戦闘不能にしていき数を四機まで減らした。モニタの中で国軍機は焦りから動きを雑にしてしまっている。


(そろそろかな? 一気に意欲を削いでいきたいところなんだけど)


 ルオーは敵機の様子をつぶさに観察した。

次回『今に至る(7)』 「まさか、狙ってやっているのか?」

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