今に至る(5)
「何人?」
パトリックはルオーに訊く。
「アームドスキンが四、生身が十二ですね」
「ただの生身か。それでもボディガードの警官六人の倍ね」
「こちらの数は把握されていると思っていてください」
襲撃者は生身、つまりボディアーマーなどの装甲服を用いていないということ。軍人やそれに準じる戦闘部隊ではない。
「さっさと生身蹴散らしてアームドスキン対処するぞ」
カシナトルドへと走りながら言う。
『そんなに簡単じゃないのはルオーが言ってるでしょ。見えてるだけなら一人で大丈夫なんだもん』
「あの話、マジなん? 信じられないじゃん」
『第一陣が崩れたらすぐわかるから。早く乗れ』
ティムニに釘を差される。
ボディガードに警告を発してオーグナー一家を守らせる。彼はそのままカシナトルドに乗り込んだ。相方の呑気男はすでにルイン・ザを起こしている。
「生身のほうは気にせずアームドスキンが動くと同時に牽制を。死人を出すほどじゃありません」
「オレが対物レーザー下手だって言いざまじゃん」
ルイン・ザの背中のスナイパーランチャーが下にスライド、アームが右脇へと回転して差し出す。それをルオーが右手で掴む。同時に左手を突き出し攻撃を始めている。不可視のレーザーが生身の戦闘員を狙う。
(足か腕撃って沈黙させる気だな。まあ、喋らせなきゃならんけど)
事態を終息させるには根こそぎ制圧しないといけない。そのために証言を引き出す相手が必要。アームドスキンのパイロットを生かして捕らえようとすると難易度が跳ね上がる。確実を期してまず確保を狙うというのだ。
「来ますよ」
「おうよ」
姿を現した荒事師の集団が音もなく発せられた対物レーザーで撃ち抜かれていく。損害が大きくなればすぐにアームドスキンが出てくるはずだと言っている。
「さて、レーシュちゃんに格好いいとこ見せなきゃね」
「爆散はさせないでくださいね」
対消滅炉が破損したらアームドスキンは爆発してしまう。炉殻の外側を覆う形でターナブロッカーが充填されているので放射能の漏出はほぼ防げる。しかし、爆発の衝撃は一家を襲ってしまうので避けなければならない。
「出やがったな」
アームドスキンが飛行してくる。プラズマスラスターの光の尾を引き接近。如何にも旧式の不揃いな機体なので組織だった動きではない。
(例の非合法組織のほうか。なんてことないんだけどよ)
対してパトリックのカシナトルドは金色の光翼を展開する。
それは重力波フィン。機体周辺の任意の場所に重力場を形成する機関である。その重力場に対し、アームドスキンの各所に配置されている反重力端子の端子突起が重量を軽減するとともに反発力を生み出し、空を飛べるはずもないような重い機体を飛行させるのである。
「さあさあ、大立ち回りの時間だぜ!」
「なに? まさか、そんな高性能機がいるとは聞いて……!」
「使い捨てられてるってわからんかな?」
直線的な加速は得意なプラズマスラスターだが、重力波フィンは滑らかで底力のある加速をする。旋回能力も比べようもなく、頭を取ったカシナトルドに一機がいきなり肩口から斜めに斬り裂かれた。
「馬鹿なぁ!」
「遅いんだよ」
残った左腕とスラスターが撃ち抜かれて小爆発を起こす。ルオーのバックアップがあるので後処理を考えなくていい。パトリックは次の敵へと向かう。
ブレードを抜いた敵機と斬り結ぶ。右手のビームランチャーが彼を照準しようとするが、振り向ける暇も与えられず狙撃されて爆散する。
「うおおぉ!」
「くぬおっ!」
押し合いになる。
力場刃はその名の通り力場形成された刃である。力場そのものは発光しないのだが、周囲の分子に与えるエネルギーが還元して青い発光を起こす。さらに力場内部で乱反射した白い光が加わり、全体では青白い光となる。
現行技術で最強と思われる力場は分子結合力、つまり核力をも打ち砕いて凄まじい分断力を持つ。しかし、ブレード同士は力場の干渉で通り抜けることはない。干渉時に放出するエネルギーの余波が紫色の稲妻を発してその力の大きさを語った。
「ったぁ!」
縛られるのを嫌ったパトリックは敵機の腹を足で蹴る。地上でしか役に立たないと思われがちな脚部も格闘戦では大きなウェイトを占める。アームドスキンが人型である所以であった。
「もーらい」
「このぉー!」
腰から下を斬り裂きながら横をすり抜け、背中から斜め上に貫く。それでアームドスキンは停止して落下していった。
コクピットの後ろ側の背中には機体全体を動かしている制御部がある。有機コンピュータであるそれを破損したアームドスキンは稼働不能になるのだ。
「上手いですよ」
「お前もな」
カシナトルドを撃破しようと照準していた別の機のビームランチャーが撃たれて半ばから折れる。爆発の衝撃で裏返ったアームドスキンが背中を削がれるような狙撃を受けて墜落する。反重力端子の余力で落下速度はそれほどでもないが、パイロットが昏倒するには十分な衝撃だろう。
「もひとつオマケだ!」
三機を見る間に失って躊躇した最後の一機を鳩尾から一気に貫く。ブレードは制御部を破壊して背中まで突き抜けていた。
「いただきだぜ」
ブレードを引き抜きがてら蹴り落としたパトリックはポーズを付けて観戦するレシュニアのほうを窺った。
次回『今に至る(6)』 『たまに当てたほうが病気が治っていいような気がすることあるけどー』