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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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新しい朝に(7)

「マイク選手だけではありません。各所で熾烈な戦いが繰り広げられております」

 リングアナはファジータ3とルイン・ザの戦闘だけを実況している暇はない。

「試合開始から五分が経過。各機とも目まぐるしい戦闘となっています。お互い立て直しを図ることもない異例の激戦ではないでしょうか」


 カシナトルドを追っていた二機は障害物(スティープル)に入るやいなや迎撃される。パトリック選手に誘い込まれただけの形だった。

 シュナイクとペルセ・トネーと対峙していたファジータ3はカシナトルド反転の焦りから一度間合いを外してしまっていた。そこを二機に押されて合流も叶わない。


「二対二の攻防に変化してしまっています。エシュメールは今まで見せていなかった連携が冴える」

「目立ちませんが、オーサム選手とストベガ選手も試合巧者に成長してきましたな。単機よりは効率的なダメージを与えられています」


 ファジータ3の斬撃をリフレクタで叩き落としたシュナイクは肩から当たりに行ってスティープルに押し付ける。すぐさま下がった機体のブラインドを使ってペルセ・トネーが肉薄し、横薙ぎをくり出した。

 堪らず両腕のリフレクタで守りを固めたところへシュナイクのビームが足元をえぐる。同時にペルセ・トネーの背中を狙ったもう一機のファジータ3には大上段からの斬り落とし。パワーで弾き飛ばすと追い打ちを掛ける。


「撃破には至らないが完全に押されています。タイタロスの選手は皆、単機での戦闘力も高いと思っていたのですがエシュメールの二人も決して見劣りしません」

「実に見事です。私には彼らがなぜノービス2でくすぶっていたのかわかりません」

「勝利が才能を開花させたか。見応えのある試合にアリーナも騒然だ!」


 それぞれの選手を応援する声が湧き起こる。いつもの観客席とは異なる盛り上がり具合だった。純粋に試合に熱狂しているように見える。


「これぞアームドスキン戦闘! これぞクロスファイトです!」

「エンターテインメントとして十分通用する熱さがあります。これは楽しい」


 身が入る試合状況にリングアナも声を枯らして実況した。


   ◇      ◇      ◇


 ようやく捉えたかに思えたマイクの一射もルイン・ザは躱す。ビームは障害物(スティープル)で弾けたのみ。濃緑の機影は真横のポールを宙で蹴りつけている。


「くうぅ!」


 すかさずビームランチャーを振って照準するが、ルオーは三角飛びの要領で別のスティープルに移る。狙いを付ける暇もなく発射。ヒートゲージだけが虚しく上がっていく。


(俺のほうがトリガーをコントロールできてない。こっちがランチャーをオーバーヒートさせてどうする)


 そうは思うが、牽制を入れないと自由にさせてしまう。相手ほど上手にフェイントを混じえられていない。今になってビームランチャーの扱いが下手なのだと悔いる。


(ブレードに頼りきっていた。いや、アームドスキンの真髄はブレードアクションにあると思い込んでいた)

 格闘戦ができる構造を持つからこそ多用してしまう。

(駆動力も高い人型機械ならではの砲撃戦というのもあるんだ。それがショートレンジシューターということなのか。なんで中央(メルケーシン)の試合を観て気づけなかった)


 慢心があったのだろう。武装を限定するからただのエンターテインメントに落ちていると感じた。コッパ・バーデのクロスファイトは実戦色が強いのだから格上だと。

 しかし、実際は違った。武装を限るレギュレーションだからこそ、それに応じた特質を高める技術が発生してくるのだ。取り入れれば総合力も高める特質が。


「間違っているとは言わないが!」

「なにがです?」

「劣っているとは認めたくないんだよ!」


 マイクの内心の葛藤などわかりはしないだろう。アームドスキンの真髄に触れているだろう、この男は。


(悔しい。妬ましい。俺もこんな自由でいたかった)

 パイロットという括りでしか考えられなかった自分が悪い。


 ルオーはアームドスキンでなにができるかを考え抜いたのだろう。兵器を操る者ではない。汎用性の高い道具を使う者として。


「俺もそこへ……」

「そういうことですか。でも、それはアームドスキンを試用する立場では難しいんじゃないです?」


 現実を突き付けられる。テストパイロットも兼ねている以上、兵器として受け止めねばならない。逸脱すれば、自身の分を超えてしまう。


民間軍事会社(PMSC)のパイロットって楽しいか?」

「そうですねぇ。あなたが思っているより自由ですよ」

 胸に刺さる。

「やりたいことをしたいから選んだ道です。思いきり勝手でいようとしてます。その分、苦労も抱えますが」

「俺には不向きかもな。リング(ここ)で歓声を浴びるのが快感になってしまった」

「それだと宇宙を飛びまわっていては満足できないです。残念ながら」


 なにかが吹っ切れた。フェイントも無視していつも以上に踏み込む。そこに新たな間合いがあった。敵手だけでない彼の間合いが。


「捨ててこそ!」


 渾身の一撃はリフレクタを叩く。逸らしきれず、正面から受けなければ止められないものだった。ルイン・ザの足が止まる。


「意外と余裕ありますね」


 マイクはルオーの言葉に頭が沸騰した。

次回『新しい朝に(8)』 「不運にも犬に噛まれたと思ってください」

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