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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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新しい朝に(6)

 マイク・セリックはタイタロスのリーダーとしての決断が間違っていなかったと感じている。対するルイン・ザはオープンスペースでもないのに凄まじいばかりの機動を見せている。


(ショートレンジシューターと呼ばれるのも伊達じゃないっていうか?)

 障害物(スティープル)を縫うのも慣れた彼でさえ追いつくのに苦心するスピードだ。

(クロスファイトの頂点にいようが、それが星間銀河のトップクラスだなんて勘違いはしてない。だが、これほどのパイロットスキルの持ち主が宇宙屋にはゴロゴロいるとしたらとんでもない)


 戦闘職に限らず宇宙を生業の場にする人間には、地上暮らしだと想像もできない異才を持つ者が少なくないのは知っている。それでも、覇気に欠けるルオー・ニックルという男が彼を凌駕する適応性を発揮しているのは否めない。


(うちのメンバーだと二機で追わせても厳しかったな。俺でさえあしらわれてる気分になる)


 スティープルの陰から現れたルイン・ザが砲口を向けている。傍のプレート型スティープルにファジータ3をぶつけるように回避した。しかし、ビームは来ない。


「フェイントか!」


 一対一での機動戦をやるなら、まず相手のヒートゲージの消耗を狙う。トリガーの利かない状態にしてやればインターバル中に料理するのは簡単だからだ。

 ところが、もっともオーバーヒートさせやすいはずの専業シューターなのにビームインターバルに入らない。向けながら撃たないフェイントでマイクのほうが動かされているからである。


(あっちはトリガーを制限してる)

 セーブしていると考えていい。

(しかし、避けないわけにはいかない。避けなければ本当に撃ってくる。これほど厄介なフェイントがあるか?)


 結果、彼は自分の間合いを作れもしないでいる。ブレードの届かない距離で釘付けにされていた。とてもスナイパーが(にわか)作りでやっていることだとは思えない。


(こいつ、普段からいつでも使えるように準備してるな。つまり、ブル・アックスが追い詰めるまで使うまでもない技だったわけだ)


 手加減というには少し違うか。ルオー選手にもリスクが伴うテクニックなはずである。これほどの機動力をどれだけの時間フルに使えるかという話だ。


「我慢比べといくか。どこまでもつ?」

「それは得策じゃないですよ」

 意図的にオープン回線で呟くと律儀に返してくる。

「ブラフは通用しない。試してみるまで」

「構いませんが、実戦で使うものです。一時間近くはスタミナ切れしないよう鍛えています。それくらいでなくては手札として使いものになりません」

「一理ある。敵中でスローダウンするようでは命がないか。それなら上回ってみせるしかないと?」


 リングの人工土は、土と銘打っているが実は砂に近い。かなりサラサラとしている。そうでなければ整備に多大な時間を必要とするからだ。

 つまり、走れば滑る。ひと蹴りするだけでも沈み込む。踏ん張っても機体は流れる。全てを計算に入れなければ意識したとおりの機動はできない。しかし、ルオーはやって見せている。


(とてもクロスファイトに来て二ヶ月とは思えない)


 彼らの初試合をマイクは見ている。スナイパーという異色のスタイルには驚かされたものだ。だが、まだ実力の片鱗さえ見せてなかったのである。


「遊びに見えたか?」

「まさか。これもアームドスキン乗りの一つの形だと思っています。とりあえず大金を手にしたかったので片足を入れたまでです」

「名誉はいらないか」

「ただの賞金稼ぎです。あなたが真剣に向き合うようなライバルではありません」


 向けられた筒先を睨むように耐える。ギリギリのところで足を滑らせ機体を沈ませた。発射された光条が頭のすぐ上を通っていく。

 砂を弾き飛ばしながらブレードの切っ先を走らせる。脇腹へと吸い込まれるはずの斬撃はスピンターンするルイン・ザにかすることさえしてくれない。それどころか背中越しの一射で弾かれてしまう。


「くぅおっ!」


 流れるボディを狙われる。ポール型のスティープルに体当りするくらいの気構えで回避するしかない。衝撃に下唇を噛みながら耐え、腕の甲で押しやる。装甲の加熱アラームが耳障りだ。血の味を舌に感じながら機体を前のめりにさせる。


「僕に付き合っても得るものはありませんよ?」

「いや、そのスタイルはクロスファイトに変革をもたらす一因になる。もっと俺に吸わせろ」

「怖いですね」


 向上心なくしてトップには居座れない。競技の世界では胡座をかけばすぐに乗り越えられていく。吸収できるものはなんでも求めてきた。


(そうか。俺は勝つための作戦だけでなく、こいつのスタイルが欲しかったのか。つまり、認めていたんだ)


 転向するのではない。シューターとしての強化にルオーのやっている機動砲撃戦が有効だと嗅ぎ取ったのだ。ショートレンジシューターも踏み台として扱う貪欲さを自分の中に感じる。


「俺はまだ落ちるわけにいかない!」

「今回だけ譲ってほしかったんですけどね」


 彼の一射はスティープル表面を叩き、ルイン・ザの一撃がファジータ3の肩口を焼いていく。構わず踏み込み、ブレードを胸元に忍ばせて突っ込む。


「ふああっ!」


 気の抜けたことを言う敵手にマイクは吠えながら噛みついていった。

次回『新しい朝に(7)』 「劣っているとは認めたくないんだよ!」

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