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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
203/352

新しい朝に(3)

 クロスファイトドームはいつにない賑わいを見せている。円周観客席(アリーナ)の客層も少し違っているように見えた。


(これもチームの影響?)

 ケイティはカフェで表示させているライブパネルで観戦しながら思う。


 週末のトリアの日の夕方という人の集まりやすい時間帯のアリーナ。いつものギャンブルファンの観客よりは若い女性や男女連れ、中には家族連れの姿もチラホラと見える。

 投票券(チケット)を買っている層などはとうに負けているからかもしれない。なにせ下馬評ではまず話題に上らなかった弱小チームが決勝に挑むという前代未聞の事態である。


「それでは本日のメインゲーム、いよいよメジャートーナメントの最終盤、クワンシーカップ決勝を行います。赤青の両ゲートから栄冠目指して競い合う二つのチームが入場です。皆様、拍手でお迎えください」


 メジャートーナメント決勝だけあって試合前からの流れも違う。チャルカから聞いた話では、試合前もインタビューが行われるのだそうだ。


「まず姿を見せたのはやはりこのチーム。『常勝のタイタロス』です」

 リングアナも声を張って紹介をする。

「躍進著しいトルナード社のワークスチーム『タイタロス』。使用アームドスキンは、かの企業でも初めて導入のイオンスリーブ方式駆動機を搭載した最新鋭機『ファジータ3』を駆っての登場です」


 カラーリングこそは白ベースに赤系の差し色という派手めながら、デザインは質実剛健といった趣のある機体だ。明らかに実用機の宣伝も兼ねた力の入れようである。


「リーダー、マイク・セリック選手に率いられた我が国屈指の戦士たちが今日はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみでなりません」


 降りしきる声援に応えることなく粛々と歩を進めている。全銀河配信が行われているメルケーシンの大会に比べるとショー要素は低めだとケイティは思った。


「対するはなんとプライベーター『異色のエシュメール』」

 扱いにも戸惑いが感じられる。

「ノービス2クラスのチームがメジャー決勝のリングの地を踏むという異例の事態。それを演出したのはたった四人の勇姿だったのです」


 紹介内容から多少は見直されているとも感じられる。それでもオーサムたちが期待されているとは思えない。場違いなイメージまでは拭えてはいないようだ。


「両翼の闘士はオーサム・スリバン選手とストベガ・ラードナー選手。アームドスキンも一品物の『シュナイク』と『ペルセ・トネー』となっております」

 機体がバラバラでは紹介もしにくそうだ。

「パトリック・ゼーガン選手が評判どおりの性能を見せつけるアームドスキン『カシナトルド』を駆れば、ルオー・ニックル選手はやはり一品物とされる『ルイン・ザ』で歩みを進めます。スナイパー含めたシューター専業という特殊スタイルは、果たしてクロスファイトの歴史に爪痕を残すのか?」


 前衛三機に後衛というポジショニングは変わらない。しかし、それもカモフラージュの一種だと知られてしまっている。


「さあ、両チームがセンタースペースに到着いたしました。決勝への意気込みのほどをお聞かせ願えればと思います」


 リングの障害物(スティープル)の上、アリーナのどこからでも見える空間に各パイロットのコクピットカメラの映像が映る。インタビュー中の様子は観客からも見られるようになっており、ライブパネルでも全員分がワイプで開いた。


「まずはエシュメールリーダーのオーサム・スリバン選手。いきなりの大舞台に緊張なさってませんか?」

 余計にプレッシャーになりそうな質問が飛ぶ。

「してるって。心臓がおかしくなりそうなくらい速く打ってる。でも、試合になったら落ち着くよ。これまでもそうだった。メンバーに、どうせ練習でできたことしかできないって散々言われてる」

「確かにとてもミドルクラス以下で低迷していた選手とは思えない進化ぶりでした。そんなお話をされてたんですね?」

「決勝でも同じ。今できることしかできないから全力出すまで」

 友人は割りきった面持ちで答える。

「ストベガ・ラードナー選手も同様でしょうか?」

「そうですね。ぼくもリーダーほど思い切りのいいタイプじゃないですけど、なるようになれって感じです」

「両選手とも意外と落ち着いていらっしゃるようです」


 リングアナとしては一番意気込みを聞きやすかったところから引き出そうとしたのだろう。しかし、冷静な意見しか返ってこなかった。


(ここまで勝利者インタビューにもずっと答えてきたんだもの。度胸が付いてきたのね。頼もしくなった)

 まだ成長できるのかと羨ましくも思う。


「パトリック・ゼーガン選手。決勝でも派手に暴れる予定ですか?」

「もっちろーん。ここで決めなきゃファンの女の子たちが納得してくれないじゃん。わざわざオレを観に入場料払ってまでアリーナに来てくれてんだからさ。愛してるよ!」

「はい。あなたはいつもどおりですね」

「冷た!」


 多少でも残っていた緊張感が吹き飛ぶ。彼に懸れば大舞台もなにもない。


「最後にルオー・ニックル選手。観客はもちろん、運営関係者もあなたのショートレンジシューターとしての働きに注目しているのですが今日も見せてくださいますか?」

「断言しません。戦況次第です」

「そうはいかない。宣言する。君とのマッチアップは俺だ」


 急に発言したタイタロスのリーダーにケイティも驚きの目を向けた。

次回『新しい朝に(4)』 「そういうの、苦手なんですけどね」

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