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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
200/350

いずれは明ける(7)

「非常に厳しい試合となってしまいましたが勝利のきっかけとなったのはどこだと思われますか、オーサム選手?」

「そっすね。ブル・アックスがメンバーを振り分けてきたとこかな」


 チーム『エシュメール』の勝利者インタビューが始まっている。リングアナがオーサムに質問しているのをケイティは感動に震えながらライブパネルで観ていた。


「それは作戦どおりだったという意味ですか?」

 鋭く切り込んできた。

「ああ、やっぱりルオーが言ったとおりなんだなって」

「ルオー選手が?」

「俺たちが一機でも脱落すれば焦って崩れると思ってるだろうなんて話があった」

 試合前にそんな話をしているのは彼女も知らない。

「でしたら、とにかく誰かをチーム一丸で狙いに行くのが早いのでは?」

「いや、フリーにしてしまうと厄介だからマッチアップはするはず。だったら数の調整になるんじゃないかって結論になった」

「なるほど。ブル・アックスがシフトを敷いてくるところまでは予想済みだったんですね」


 青年がいつもの眠そうな顔つきで意見を聞きつつまとめていく様が目に浮かぶ。ふわっとしているようで、いつの間にか明確な指針が決まっているのだ。


「勝利はしましたが、終盤残念ながらリーダーのオーサム選手が撃墜(ノック)判定(ダウン)されてしまう結果となりました。悔しいですね?」

 少しいやらしい質問が来る。

「悔しくないって言ったら嘘だけどな、ルオーもパトリックもギリギリまで粘れば勝てるって言ったんだ。だから、しんどかったけどいけるとこまで頑張ろうってなった」

「勝てると言ったんですか? それは……、すると、ラストの逆転劇も計算のうちと?」

「いや、どうなんだろ? そうなのか、ルオー?」

 オーサムが返答に困って振る。

「ルオー選手、お願いします」

「あれだけ安定したシフトを組まれているとほころびを作るのは難しいです。なので、彼らが勝利を確信したとき、そのときこそがチャンスだと思いました。メンバーが一人でも脱落したときシフトは崩れます。それまでにどれだけ相手を疲れさせて判断を狂わせるかが勝敗を分けます」

「冷静だったんですね。さすが実践経験がある方は違うというところですか」


 リングアナが窺うように言う。ルオーの表情に少し嫌悪感が走ったように思えた。


「実戦だったら絶対にしませんよ。それは仲間を犠牲にして勝つ作戦です。試合だからできるんです」

 質問者のほうが慌てる。

「そうですね。失礼しました。では、ルオー選手は始めからショートレンジシュータースタイルを使うつもりだったのですか?」

「決勝の切り札に取っておきたかったんですけどね。なにせ、対戦チームはもう『タイタロス』だと決まっている。王者と呼ばれる最強チームなんでしょう?」

「ええ、『常勝のタイタロス』ですから」

 ルオーはリングアナからも情報を引きだそうとしている。

「そんなチームに斬新な武器なしで挑むのは無謀じゃないです? でも、もう抜いちゃいました。どうしましょう?」

「私に訊かれましても。困りましたね」

「どうあれ、全力でぶつかるまでです。決してあきらめない気概だけは持ってないと勝てませんでしょう」


 見事にはぐらかす。リングアナも探りを入れるつもりが肩透かしをされたと言わんばかりの面持ちだ。根性論を出されたらそれ以上ツッコめない。


「チーム『エシュメール』への勝利者インタビューでした。クワンシーカップ決勝は来週末です。皆様、ご期待ください」

「勝ってみせるから応援よろしくな!」

 最後にパトリックが盛大に煽る。


 観客席(アリーナ)からの万雷の拍手と同時に、カフェのフロアからも拍手が湧き起こる。ケイティは皆の心が一つになっているように感じた。


(みんなが応援してくれてる。まさか、こんなことになるなんて)


 一生懸命努力していても、頑張ってメニューを工夫してもなかなか芽が出なかったカフェが今や人気観戦スポットと化していた。夢のような現実だ。


(ルオーが、ライジングサンが来てくれてから。本当に長い夜が明けたみたい)


 皆が笑顔だ。フュリーとレンケもぴょんぴょん跳ねまわって喜んでいる。誰もが楽しめる場所になったと思えた。


「あれが中身か。なかなか食えない男だな」

「だって、あの『ライジングサン』でしょ?」


 そんな会話が一つのテーブルから聞こえてくる。振り向くと、そこにはパイロットスタイルの男女が座っている。ブルゾンの隙間から『GPF』のロゴが見えた。星間管理局の隊員である。


「噂どおりならあれくらいはやってみせるだろう」

 男はシニカルな笑いを口の端に張り付けている。

「そうよね、『いざってときのライジングサン』なら。まさか、こんなところでお目に掛かるとは思わなかったけど」

「納得できる」

「あれくらいでないと管理局の指定事業者にはなれないもんね」

 女も小さく笑う。

「しっ! それは局外秘だぞ。人目があるところで言うな」

「そうだった。ごめーん」

「まったく、お前はうっかりなとこあるからな。気をつけてくれよ」


(指定事業者? あの星間管理局の? ライジングサンってそんな有名なとこだったの?)


 はっきりと意味はわからなかったが、あまり吹聴してはいけない話なのだとケイティにも理解できた。

次回『新しい朝に(1)』 「早く出すもの出すのぉ!」

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