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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
世の中ままならない
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ドンデミル号襲撃事件(2)

(スナイピングビーム!? こんな環境で!)

 オスルは焦った。


 彼の後方から発射されたビームは通常より弾速が高い。見た目も細く、高収束されて撃ち出されたスナイピング専用のランチャーを用いたものだと一目でわかる。しかし、その距離では当たらない。


(どこの馬鹿だ?)


 狙撃ポイントと思われるのは彼らの所属艦クルヌーイの位置。戦闘に備えて退避しているので、ドンデミル号までの距離は一万mを超えている。通常ビームでも二秒は掛かる位置に定位していた。


(狙撃が当たる距離じゃない。刺激するだけ。乗客を見捨てる気か?)


 粒子ビームの有効距離は宇宙空間では3000kmある。しかし、十分効果がある距離であれど当たりはしない。なぜなら電波撹乱物質ターナ(ミスト)が放出されているからである。


(クガ旅団長ともあられる方がこんなミスを)


 ターナ(ミスト)はターナ分子の化合物。電波撹乱に使われる。アームドスキンと同じく新宙区からの流入技術の一つでターナ(ミスト)は電磁波を変調させるのだ。

 ターナ分子はその化合物によって用途が分けられている。放射線を光に変調するターナブロッカー。光を電波に変調するターナラジエータ。そして電波を低周波領域へと放出するターナ(ミスト)


(レーダー照準は利かない。当たりはしない)


 戦闘時はターナ(ミスト)が周辺中域に撒かれる。電波系のセンサーの有効範囲は短距離に限られ、ゆえにアームドスキンは有視界戦闘をするしかない。もちろん射撃レーダーによる照準も不可能なので光学照準しか不可能。そして、宇宙空間の一万mは自動光学ロックでも照準が曖昧な距離である。


(機体に当たればラッキーって距離。奴らを興奮させて終わり)


 せめて、ドンデミル号と武装集団のアームドスキンとの間に飛び込もうかとフィードペダルを踏みかけた。ところが、そのスナイピングビームは正確無比に、前に出ている一機の右肩を撃ち抜く。ショルダーユニットが破砕されてビームランチャーを持った腕ごと回転しながら流れていく。


「は?」


 ビームがまた一条走り、もう一機も頭部に直撃を受けて部品を巻き散らかしている。センサーの集中する頭部を失って一時的にモニタがブラックアウトしているはず。


「当たっ……た?」


 二機の大破に気づいて最後の一機がドンデミル号の陰から顔を覗かせる。その頭までも三射目の直撃で破壊。ロールしたアームドスキンの右肘が撃たれて千切れた先が飛んでいく。そして、そのビームランチャーが狙撃されて爆炎を広げた。


「全機、突入。確保」

 クガ旅団長が冷静に命じる。


 爆発の衝撃波で取り付いていた戦闘員が弾かれている。ワイヤーで繋がっているので数珠つなぎのフィットスキンがドンデミル号から棚引いている状態。


(信じられない。狙ってやったとしか思えない結果だ)


 オスルは反射的にフィードペダルを踏み込んでいる。2000mを数秒掛けて一気に飛び越えるとドンデミル号の反対側でどうにか姿勢を取り戻したばかりの機体に追いついた。


「抵抗するな!」

「なんだ今の!」

「抵抗するなと言ったぁ!」


 残った左腕で力場刃(ブレード)を抜いた相手の肩を斬り裂いて戦闘不能にする。ビームランチャーを突きつけて機体を放棄するよう宣告した。


(終わった。犯人さえ、ただの一人も死んでない)

 他の機体も僚機が確保している。


 オスルは呆然と後方を見つめた。


   ◇      ◇      ◇


「結構だ。お疲れだった」

 クガ・パシミール旅団長は通信パネルで伝えた。

「ありがとうございます。報酬はいつものアカウントにお願いします」

「いつもながら素晴らしい」

「いえ、装甲板をお借りしてしまいました」


 そのアームドスキンは戦闘艦クルヌーイの側面に預けていた背中を離す。狙撃の正確さを保つため、大質量で反動制御をしていたのだ。


「構わんよ」

 会話を続ける。

「何度でも言うが、GPFに入隊せんか? 公務官資格の取得までは正隊員にはなれんが十分なギャランティを保証する。私の下で働け。君ならどれだけの人々を救えるか」

「すみません。やっぱり、僕は組織に向かない人間なんですよ」

「自由がないのが気に入らんか?」

 会ってスカウトしたこともある。

「GPFも警備機関です。なにかが起こって出動掛からないと動けないでしょう? 僕はそこからこぼれてしまう誰かの声に耳を傾けたいんです」

「そうか。もったいないな」

「申し訳ありません。でも、協力できる時はしますのでお声掛けください」

「うむ。また頼む、ルオー君」


 クガは飛び去るアームドスキンの後ろ姿を艦橋から目で追った。


   ◇      ◇      ◇


「ありがとう。お兄さん!」

 少女が花束をオスルに渡してくる。


 事件解決後に開かれた会見場でのこと。あわや人質になったかも知れない少女が感謝を捧げてくれている。正直に受け止めるのは忸怩たる思いがある。しかし、マスメディアの目がある以上、お首にも出さず笑顔で演じるしかなかった。


(俺なんかなにもできなかった。今回の殊勲は間違いなくあいつなのに)


 ビームの主であるスナイパーのことをクガに問い質したが満足な答えを得られていない。ただ、民間人だとしか教えてもらえなかった。


(あんな、とんでもないのが民間に?)


 オスルは得心できないまま作り笑顔で記者たちの前に立っていた。

次回『流れ流され(1)』 「そうは言ってもお前一人でなにができる?」


※本日よりスタートダッシュ集中更新を行います。このあと12時更新と、明日より7時12時に更新です。

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