いずれは明ける(6)
助っ人二機になってしまったチーム『エシュメール』。試合時間も十二分を超え、残りを考えるとまさに絶体絶命という状態であった。
(ゲリラ戦をする時間はない。このままで終わるな)
リングアナはこれまでの経験から予想する。
「デラ選手、素早く反転。これはルオー選手を狙っています」
「当然でしょうな。時間切れを待つまでもない」
解説者のロバートも終了を見越している様子。
ペルセ・トネーを落としたメンバーも同調する。二機で確実にルイン・ザを落としに行く模様。オープン回線に声が乗る。勝利宣言だろうか。
「見誤りましたわね、エシュメール。ここまでですわよ」
ルオー選手は応じない。
「あなたが教えてくれたんですわ。ミスしない相手にはプレッシャーを感じると」
言いながら障害物を避ける。奥まで入っていただけに多少の時間は要する。その間にルイン・ザは再び逃げてゲリラ戦に持ち込むかと思われたが動かない。
「あきらめましたの?」
デラ選手は続ける。
「あなたはかなりの手練れ。数多の経験でミスを排除したのでしょう。でも、元からのメンバーは別。彼らも戦闘経験はクロスファイトメインの選手ですのよ。トップチームのわたくしたちと低迷していたチームの選手、どちらがミスしにくいかしら?」
ブル・アックスが作戦を開陳する。それは準々決勝でエシュメールが使ったプレッシャーを逆手に取ったものだという。
「どういうことですか、ロバートさん?」
「徹底してシフトを変えなかったのは、その効果も含んでいたということです。追撃スピードをあげると同時に安定感も出る。トップチームの選手ならミスしにくくなりますな」
逆にプレッシャーを覚えつづけたオーサム選手とストベガ選手が力尽きたのだという。二機が脱落すれば、如何に手練れの職業パイロットだとて数と時間には勝てないと読んだ作戦だ。
「悪いがもう終わりだな。あきらめろ」
パトリック選手と対峙するメンバーも迫る。
「スナイパーもあきらめて動かなくなったろ? ギブアップしろよ」
「なんでだ?」
「なんでって、うちのリーダーともう一機、あんなオープンスペースでスナイパーがもつわけない。一瞬だ、一瞬」
それにはリングアナも賛同する。
「二機か。足りんな。ルオーを墜としたきゃ、その十倍連れてこい」
「なんだと?」
「あいつは腹括ったんだぜ。見てろ」
「そんなんで油断するか。俺たちを平らげて応援になんて行かせないからな」
パトリック選手の言い草が気になる。彼らは全くあきらめている様子がない。
「これは……」
「なんですと?」
ルイン・ザの姿勢が低くなる。両手のビームランチャーを翼を広げるように横に掲げると、姿を現したデラ選手のカリナンタに向けて疾走を始めた。
「いったい、なにをするつもりだ、ルオー選手! 自暴自棄か?」
「な、速い!」
ダッシュの速度が普通ではない。まるでスプリンターのようにリングの地面を蹴る。巻き上げた土煙の尾を引いて突進した。
「これはどうしたー!」
「まさか!?」
デラは左手のブレードを引いて迎え撃つ。カウンターで高速の突きをくり出した。まずは躱せないスピードの攻撃に思える。
ところが、ルイン・ザはしゃがみ込んで斜め下へと頭を振る。右手が跳ね、背中越しにビームランチャーがデラ機を照準する。その一撃を仰け反って回避できたのは奇跡のようだった。
「あなたは!」
ルイン・ザは止まらない。走り抜けると軸足を固定してシットスピン。両手のビームランチャーが砲口を向ける。咄嗟に地面を蹴ったデラ機は突っ伏した。
「この野郎!」
「やめなさい! あなたでは!」
駆けてきたメンバーのカリナンタが振りかぶったブレードを一閃する。しかし、直前にジャンプしていたルイン・ザはもう頭上を超えている。背中にビームが直撃し、まろび転んで機能停止で動かなくなった。
「これは、まさかのショートレンジシューター!」
リングアナは吠える。
「中央のクロスファイトでスタイルの一つとして確立されているショートレンジシューターだー! とうとう、このコッパ・バーデにも上陸してきたのか!?」
「それも両手持ちのショートレンジシューターですぞ」
「ダブルショートレンジシューター! ルオー選手、脅威のパフォーマンス開始!」
前宙をしたルイン・ザが着地する。必死に立ち上がったデラ機だったが、あまりに距離が取れていない。咄嗟にビームランチャーを向けたが、そのときには緑色の機影は消えている。
足音に反応してブレードを突き出すも空振り。それどころか手首を撃たれて反動で跳ねる。回避手段はない。自然に立っているルイン・ザに一撃をもらって静かに倒れた。
「リーダー!」
「オレを前にしてそんな余裕ある? なくなくない?」
パトリック選手のカシナトルドが唖然とする一機をひと薙ぎで落とす。もう一機も抵抗らしい抵抗もできないまま連射を受けて撃墜判定する。衝撃のあまり茫然自失の体だったらしい。
「一瞬の逆転劇だー! チーム『エシュメール』の勝利でクワンシーカップ決勝進出が決定!」
「驚きですな。まだ、これほどの隠し玉を持っていたとは」
リングアナは興奮のままに実況を終えた。
次回『いずれは明ける(7)』 「勝てると言ったんですか?」