いずれは明ける(5)
チーム『エシュメール』のシュナイク、ペルセ・トネー、カシナトルドの三機をカリナンタ五機が分かれて追う。ビームで牽制しつつ後退しているが、チーム『ブル・アックス』はシフトを固定したまま流動的にマッチアップを変えて対処していた。
「奇妙な追撃戦になってきましたね」
リングアナは解説者に両チームの思惑を訊く。
「エシュメールとしてはマッチアップ機を引っ張りつつ狙撃タイミングを作って落としていく算段だったのでしょう。ところが、ブル・アックスはそれを見越し、非常に効率的な手段を選んだ」
「マッチアップのスライドによる効率化ですか?」
「そうです。エシュメール機それぞれの相対位置を常に把握し、シフトを変化させないで追撃することでスピーディな行動を可能とした。相手は逃げるのに苦労する羽目になります」
解説者ロバート・ゲッツの言うとおりになっている。当初は幻惑するかの如く交錯し、互いの位置を入れ替えていたエシュメールも変化が少なくなってきた。
「余裕がないということですね?」
確認する。
「余裕をなくさせたのです。これは上手い」
「ですが、シフトを変えないまま追撃するのはスナイパーにコースを読みやすくするリスクがあると思いますが」
「読めはするでしょう。しかし、狙点を定めるには至っていない。追撃速度が上がることでそう持っていった。実際にスナイパーも動いてはいるものの狙撃する位置取りができないで移動に終始している。これが開けた空間であれば話は別なのですが」
ロバートはルオー選手の狙いが外れたと説く。
「つまり、エシュメールは自ら反撃の難しい場所を選んでしまったと?」
「位置を気取らせず、わずかな狭隘を貫くテクニックがあると過信したのでしょうな。今回は逆に働いたようです」
「エシュメール優位と考えていた状況がいつの間にかひっくり返っていたわけですね? これは確かに上手い」
ブル・アックスは、エシュメールが基本的に単機で行動するのを念頭に置き、各機の役割を分析した。その結果、彼らが得意とする障害物内部で最も効率的に追い詰めるべく戦略を練ったということだ。
「エシュメールに対策はないか。漫然と追い込まれつつあります」
平凡な追撃戦になっている。
「打つ手がないのではないでしょうが動きにくいでしょうな。前衛三機が別の作戦を取ろうとすれば即座に捕まってしまう。二機を相手にしているシュナイクとカシナトルドはかなり厳しい」
「トップチームとの対戦の連続でかなりパイロットスキルを上げてきましたが、さすがにトリプルエースの選手相手では難しいという他ありませんね」
「それを克服するスナイパーという要を先に機能しなくされてしまいましたのでね」
現状が正確に解説される。
「本気で攻略に掛かったトップチームはやはり強いですね?」
「ワークスチームゆえに機体性能をチェックするという第一目標はあるものの、それを加味して勝ってきたのがトップチームです。もちろん運営環境がいいという優位性はありますが、選手もそれだけの実力がなければならない」
「エシュメール、万事休すか?」
これまで通用してきた作戦、全く効果がないとなれば難しいだろう。今は耐えているが、心まで折れるのは時間の問題かもしれない。
「チーム回線でどんな会話がなされているのでしょう? 聞いてみたい気もします」
打開策で紛糾しているか、あるいはあきらめが漂っているか。
「順調だっただけに、このつまづきはダメージが大きいかもしれませんな」
「致命的な敗北になるかもしれないと?」
「ええ、埋没していくかもしれません」
一時的に勝ち上がって人気を博するチームも多い。しかし、その中で残っていき、洗練されたのが今のトップチームなのである。
「おや、これは?」
「変化せざるを得ないでしょう」
ルイン・ザの移動コースに変化が見える。追撃されている前衛との並走をやめ、一方向を目指しだした。
「センターのオープンスペースへ出ますね」
「間のスティープルを減らすのが目的でしょう。より狙撃をしやすくするために。これはリスクが高い。悪手ですな」
断定する。
「それはどういうことですか?」
「狙えるタイミングは作れるでしょう。ただし、自身は前衛なしで丸裸の状態です。ブル・アックスからすると狙ってくれといっているようなもの」
「確かに。これは追い詰められて失策したのかもしれません」
スナイパー機は視線を巡らせている。オープンスペースからわずかな隙間を狙って援護を入れるつもりなのだ。しかし、それだとてメンバーが障害物奥深くに追いやられている状況では非常に難しい。
「ここで一撃! どうなるのか?」
「素晴らしい。それだけに惜しい」
ルイン・ザの放ったビームがスティープルを縫う。視界の悪い状態で不意を突いた狙撃は、シュナイクを追撃していたカリナンタの一機に直撃した。
だが、同時にデラ選手のリーダー機がシュナイクに迫り撃破する。長時間の後退戦に疲弊していたオーサム選手はなす術もなかった。
「エシュメール、とうとう一機失った!」
「それだけではありませんな」
ペルセ・トネーまでもが一閃を喰らい右腕が機能停止。連射で突き放そうとするも、見事に躱されブレードを胸に突き入れられてしまった。
リングアナは試合終了が近いと予感した。
次回『いずれは明ける(6)』 「見誤りましたわね、エシュメール。ここまでですわよ」