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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
197/353

いずれは明ける(4)

「運営審判のカウントダウンも残りあとわずか。では、試合が始まります」

 リングアナは観客席(アリーナ)の目をリングに向けさせる。

「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 豪然と突き進むリーダーのデラ・グストミン選手率いるチーム『ブル・アックス』。対して『エシュメール』はそのスピードを抑止しようとビームを散らしてきた。その程度ではトリプルエースのトップチームは止まらない。


「どうするのでしょうか、エシュメール。ここで迎え撃つか?」

 今回も開幕から主導権を握ろうと能動的な行動はしない。

「出方を窺っている暇などあるとは思えませんが」

「いえ、彼らの場合、対戦相手の初手次第で作戦を変えてきているフシがありますよ?」

「なるほど。それで試合の度に変化しているようにも見えると?」

 相手が待ちなら動き、攻めなら待って動きを読む。

「当然ですが、エシュメールもしっかり分析してきているということです。対戦チームの作戦パターンを解析し、それぞれに合わせた行動パターンで対処していると考えてます」

「すると、今夜の試合は?」

「そろそろ対策が見えてくるでしょう」


 正対したまま、ルイン・ザを先頭にバックで障害物(スティープル)の林へと下がっていく。意表を突くスナイピングショットの決めやすい彼らの主戦場を選ぶようだ。


「これではエシュメール優位に思えます」

 ブル・アックスは作戦を誤ったか。

「そうともかぎりません。この対処を最初から加味しての攻めの可能性もある。いや、その可能性のほうが高いでしょう」

「序盤から加熱する相互の読み合いが絶妙。これは見応えのある試合になりそうです」

「ブル・アックスがスティープル突入前にシフトを変えますね。彼らの今後の動きを見定めるうえで重要ですよ」


 するすると各機がスライドする。五機が、二、一、二の形に分かれる。エシュメールの四機のうち、スナイパーを除いた三機にそれぞれ当たるようだ。このマッチアップはオーソドックスな作戦にも思える。


「リーダーのデラ選手は左寄りで一機を率いて追っていきます。狙いはオーサム選手のシュナイクか?」

 機影を追っているように見える。

「このままではないでしょう。スナイパーのルオー選手が狙いやすいシフトです」

「変化を見せるか、それとも速攻か。最初のポイントになりそうですね?」

「エシュメールの前衛三機は、移動時は意外と機敏です。速攻は難しいかもしれません」

 相互の距離は簡単に詰まらない。

「時間を掛けるとスナイパーが狙いを定めてしまいます。間に合うのか、ブル・アックス?」

「ある程度、計算のうちみたいですな。正面でなく、側面にリフレクタを掲げている。これはコマンダーがスナイパーの動きを把握しているのでしょう」

「確かに、その方向にルイン・ザが確認できます。さすがにスティープル内部ではリフレクタの隙間を狙うほどの精密狙撃はできないと読んだみたいですね」


 狙撃対策を打ちつつ各個撃破を狙う。順当な戦術といえばそうだ。


「しかし、それはエシュメールにとっても想定内の対策と思えるのですが」

 リングアナでも分析できる。

「ええ、そうですね。おそらく、ここからが両チームの本領と私は思ってます」

「互いの作戦が姿を現すとおっしゃいますか?」

「さて、どっちが動いてくるんでしょうね?」


 俯瞰映像で見ていると、先に変化したのはエシュメールだった。中央にいて、一機だけを引っ張っているパトリック選手のカシナトルドがシュナイクのほうへと進路を変える。


「合流しての激突を狙っているのでしょうか? パトリック選手、動きます」

 コースは交わっている。

「二対三にするのは悪くありませんな。各個撃破の難易度は上がる。ですが、混戦模様になるだけ狙撃にはマイナスだとも思えます」

「困難な狙撃でも可能だと自信の表れでしょうか。それとも異なる思惑があるのかもしれません」

「そうですな。もうじき判明します」


 カシナトルドを追っていたブル・アックスのカリナンタがシュナイクへと狙いを変えた。三機で一気に落としに掛かるかと思われる。ところが、デラ選手含む二機のシフトがスライドしてカシナトルドを追いにまわった。


「これはなんだ? マッチアップが入れ替わりました。パトリック選手をフリーにするわけにはいかないということですか?」

 予想外の動きだった。

「もしかするとブル・アックスはシフトを変えないつもりなのかもしれませんね?」

「というのは?」

「常に配置の同じ2ー1ー2の体制で攻めていくということです。そうすればスナイパーとの相対位置を意識しやすい」

 あまり変化しないので意識を割かれないで済む。

「対してエシュメールの作戦は?」

「合流しなかったということは幻惑しつつマッチアップした相手を引っ張りつづける計算でしょう。それで、狙撃のタイミングを作ろうとしている」

「互いの思惑が交錯するリング。このあとはどんな戦いが披露されるのか? 地味に思えて、熾烈な主導権争いが行われております」


 一機を引っ張るだけとなったシュナイクが今度はペルセ・トネーとの交錯コースへと動く。そこでもブル・アックスのシフトはスライドするだけであった。どちらが先手を取るかの展開を見せている。


 リングアナは両者の素早い動きから目が離せなかった。

次回『いずれは明ける(5)』 「余裕がないということですね?」

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― 新着の感想 ―
更新有難う御座います。 まぁ、戦略はジャンケンみたいなものですし?
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