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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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見つめる先は(6)

「解説お願いします」

 リングアナは、選手と兵士の違いと口にした解説者のロバートを促す。

「選手は素晴らしい最高のパフォーマンスを目指します。もちろんそれは正しい。観客に見せるための試合でもありますからな」

「はい、当然勝利を計算しながらのことではありますでしょうが」

「なので、彼らは多少のミスは仕方がないと考えます。より質の高いパフォーマンスを求めているのですから、それをリスクの一つと考えます。選手が元テストパイロットであるなら尚更ですな」

 機体性能を極限まで引き出すのなら無理をするという。

「しかし、兵士は違います」

「具体的にはどのように?」

「兵士はミスが許されないのです」


 選手なら試合に持っていく技は成功率高めで十分と考える。例えるなら練習で90%くらいの成功率であれば通用すると考える。成功すれば良し、失敗しても取り返す余地はある。


「しかし、兵士はそうはいかないでしょう?」

 逆に問われた。

「そうなのでしょうか? 少しのミスもできないのですか?」

「できないというか、ミスした者から死んでいきます」

「それを言われると……」

 相槌が打ちにくい。

「あるいは僚機を墜とされます。戦友にまで影響しかねません」

「なるほど」

「なので、戦場に持っていくのは99%成功する技でなくてはならないのです。無駄な見栄は自身の命を短くする」


 違いというにはあまりに大きい。基本的な考え方そのものが違うといっても差し支えないだろうか。


「まあ、現実的な数値ではないのも事実です。訓練で完成度を上げていくしかない。そんな世界です」

 多少は表現が和らいだ。

「選手の練習と大差ないような気もいたしますが」

「持ち込まないだけの話です。戦場で無理はしない。より確実なほうを選ぶ。そう習慣付けるのです」

「選手なら試合で使うような技を兵士は使わないと?」

 わかりやすく伝えるならばそのはずだ。

「使いませんな。だから、試合を見慣れた者には正確無比に思える。ミスしないレベルのパフォーマンスを持ち込んでいるのですから」

「だとすれば、どちらかといえば兵士寄りのエシュメールの助っ人、民間軍事会社(PMSC)の二人はさらに高いパフォーマンスが可能なのですか?」

「かもしれません。ただし、彼らは使わないでしょう。身に染み付いている」


 怖ろしい結論だった。実際にスナイパーのルイン・ザはミスをしない。カシナトルドも卒のない攻撃で遥かに格上のクラスの選手をも相手にしている。


「一つだけわかりません。その違いのどこが作戦なのでしょうか?」

 リングアナは解説者にエシュメールの作戦を訊いたのである。

「ええ、わかりにくいですな。ここから見ている分には違いはない。しかし、ゼクセローネの選手は痛感しているでしょう。違いの怖ろしさそのものを」

「そうなんでしょうか」

「試合時間は十二分を経過したところですか。ならば、そろそろ音を上げる頃かもしれませんな」


 まるで予言のようであった。ゼクセローネのアームドスキン『プラトー』は急激にパフォーマンスを落としている。動きに明らかに精彩を失っていた。


「なんだよ。なんなんだよ、お前ら! どうしてそんなの……!」

「駄目ですよ。口に出したら負けです」


 オープン回線で会話が交わされる。それは実況席にもアリーナ席の観客にも伝わる。


「追い詰められたような声ですが」

 背筋が冷たくなるような声音だった。

「追い詰められているのです。全くミスをしない相手。しかも、自身が少しでもミスをすれば確実に突いてくる相手。絶対にミスが許されない状態。そんなプレッシャーを選手は経験してないのです」

「ですが、ミスをしたほうが負けるというのは自明の理とも思えますが」

「ミスしない相手を前にすると意味が変わります。自分だけがミスできないのに耐えられますか?」

 怖ろしい質問が来た。

「無理ですね。絶対に失敗してはいけないプレッシャーは半端ではありません」

「そのプレッシャーにさらされ続けておおよそ十三分。選手には厳しいでしょうな」

「休みなしであれば確かに」


 今もルイン・ザの狙撃はリフレクタを叩きつづける。それも正確そのもので。ゼクセローネの選手はわずかでも受け損ねれば撃墜(ノック)判定(ダウン)の恐怖に耐えきれなくなってきているのだ。


「これは……、あまりにも過酷な作戦です」

「まあ、そうですな。私としても、持ち込まれたくない現実を持ち込まれてしまった気分ですし」

「両手に武装可能で現実に即したハイパフォーマンスを謳っていたコッパ・バーデのクロスファイトも、実際には戦場の現実とは乖離があったのですね」


 それからは見るも無惨な試合展開だった。疲れ果てたものから脱落していく。端的にいえばただの撃ち合いでしかないのに、倒れ伏して動かなくなる様がまるで戦死を思わせるようであった。


「三分を残してゼクセローネが全滅です。チーム『エシュメール』、準決勝に進出を決めました。彼らはどこまで行くつもりなのでしょうか?」

「これは、今後の試合にも影響するような勝利でしたな」

「トップチームはこのプレッシャーとも対峙せねばなりません。そのあたりを勝利者インタビューで問い掛けてみたいですね」


 リングアナはエシュメールの戦略ともいえるものを感じていた。

次回『いずれは明ける(1)』 「あれはパッキーの栄養補給ぅ」

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