表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

187/399

希望を胸に(7)

 チーム『ベリフォード』が一斉攻撃を狙っていた敵機が消える。リングアナは慌てて俯瞰映像を見る。そこには確かにルイン・ザが映っていた。


「ルイン・ザ、姿を消しました! しかし、消えてはいない! これはどういうこと……、上だぁー!」

「まさか!」

 解説のロバート氏も仰天した。


 狙撃が降って(・・・)くる。ベリフォードのストーリアが掲げるリフレクタの上を抜けてビームが頭部へと直撃。角度のある、思わぬ方向からの一撃に転倒する。仰向けに倒れた機体が胸に被弾し撃墜(ノック)判定(ダウン)


「スティープル上部に登っているぅー! こんなの有りかぁー!」


 ルイン・ザは小さめのプレート型スティープルの上のほう。ビームランチャーを腰に戻して空けた左手で端をつかみ、片足を表面に掛けて身軽に留まっている。右手のビームランチャーはベリフォードを照準(ポイント)したまま。


「気づいたかベリフォード! 慌ててランチャーを上にぃー!」


 しかし、それが仇となる。ビームランチャーを撃とうと外したリフレクタの隙間を縫って次弾が一機に直撃して撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪う。応射は空を貫いたのみ。

 手を放したルイン・ザがそのまま落下。膝のクッションを利かせて着地すると横っ飛び。転がりながらの一射はビームランチャーを失っていたストーリアの足を払っている。転倒したところにもう一発を直撃させた。


「ベリフォード、あっという間に三機を失ったぁー! 大ピンチぃー!」


 決定的だった。追いついてきたエシュメールのアームドスキン。シュナイクが大胆に体当りすると、ペルセ・トネーが斬り掛かっていく。リーダーのドワイト機にはカシナトルドが襲い掛かっていた。


「勝負ありだよーん」

 オープン回線でパトリック選手が告げている。

「お前ら、あんな曲芸を……。まさか追わせたのか?」

「追いたくなりますよね、見えなかったスナイパーが見えたりすれば」

「ルオーの策に見事に引っ掛かるとはね」


 エシュメールの作戦がつまびらかになる。前衛がゲリラ戦を仕掛ける。その裏でスナイパーは散発的に狙撃を行っていた。

 そんな状況下でスナイパーの姿が見える。攻められていた側としては反射的に追いに行く。しかも、残り時間的にもう一機落とせば勝利が見えてくる局面であれば。


「またも心理戦を仕掛けていたエシュメール! これは難しくなりましたぁー!」

「いえ、決まりましたな」


 ルイン・ザが集中してドワイト機のリフレクタをビームで叩き、姿勢を崩したところをカシナトルドが攻めて一閃する。もう一機もペルセ・トネーに蹴り倒され、シュナイクのビームを受けて撃墜(ノック)判定(ダウン)した。


「ベリフォード、陥落ぅー!」

 リングアナは絶叫。

「チーム『エシュメール』、なんとなんとリミテッドチームを撃破ぁー! 大どんでん返しだぁー!」


 ベリフォードのメンバーはまだ全員が敗北を受け入れられないかのように愕然とした表情のまま。機動停止を解除されても動けない。

 エシュメールは意気揚々とハイタッチを交わし、センタースペースへと向かっていく。リングアナは静かになった横を窺った。


「解説のロバートさん、この試合のネックはどこだったと思われますか?」

 呆然としている解説者に尋ねる。

「根本的な考え方でしょう」

「考え方と申しますと?」

「我々がクロスファイトをどう捉えているかという話です」

 難しい内容になってきた。

「普通はチームを小隊(ユニット)として考えます。個々のパイロットの技量を要としている。アームドスキンの性能評価としてもそれが順当です」

「はい、本旨としては」

「チームのコマンダーは軍でいえば通信士(ナビオペ)の働きをします。リング全体の動きを把握し、各パイロットに伝えるのが役目です」


 情報統合が主たる務めとなる。チームの配置、相手の位置や数を掌握し、伝えてその後の移動なり攻撃なりに活かす。


「ところがエシュメールは、スティープルという視界が限定される状況を活かし、一機ずつをそれぞれユニットと考えて戦略的作戦展開をしていました」

 別個に役割があったという。

「しかし、彼らにはコマンダーはいませんが?」

「おそらく、あらかじめ相手チームの行動パターンを分析し、どんな対処をしてきたら誰がどう動くというのを決めていたのだと思います」

「策略に嵌まってしまったと?」

 相手の心理まで利用した巧妙な策だった。

「一度パターンに陥ってしまうと流れからは逃れられない。実に怖ろしい。私はエシュメールというチームを勘違いしていたようです」

「各々の特質を活かすだけのチームではないんですね?」

「はい。彼らは一個の戦闘単位ではなく、一個の軍なのです。そこを間違えると、勝てない」


 退役軍人の解説者をしてそう言わせるのに驚く。しかし、ノービス2クラスのチームが下剋上をくり返している現実を説明するのには最適だとも思えた。試合へのアクセスの仕方が全く異なるとなれば普通の対処では越えられない。


「それでは、勝利チームにインタビューしてみましょう」

「まあ、彼らも簡単には手の内を明かしてはくれないんでしょうからなぁ」

 ロバート氏はため息と苦笑い。


(これはクワンシーカップの嵐の目になってくるのか?)


 リングアナは適当な答えしか返してこないエシュメールメンバーに悪戦苦闘させられた。

次回『見つめる先は(1)』 「認めちゃうのね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ