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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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希望を胸に(6)

 チーム『ベリフォード』にそんな時間は与えられていない。それは、障害物(スティープル)の隙間を縫ってきたビームがリフレクタの表面に紫色の干渉波紋を描くことで証明される。

 チーム『エシュメール』はロードの同一側、向かって右側に消えていった。砲撃もその方向から飛んできている。一方的に狙われないためには彼らもスティープルへと進入していくしか術はない。


「虚を突かれたベリフォード。しかし、まだ全機健在であることに変わりはありません」

 リングアナは冷静に実況する。

「防御を固めてスティープル内部へ。散発的な砲撃が襲ってくるも、ヘヴィータイプのアームドスキンはビームの反動程度では揺るぎません」


 ベリフォードはあくまでフォーメーションを維持して集団戦闘をするようだ。数の少ないエシュメールからすればチームを割ってくれない状態は接近しにくい。時間は掛かっても防御力と組織力で押し切るつもりのようだ。


「こうなるとベリフォードは固いですよ。そうそう崩れませんな」

「攻めあぐねているように見えますね」


 エシュメールはほとんど姿を見せないままビームを撃ち込んでくる。対してベリフォードはリーダーのガイナン・デクストを中心に置き、四機が四方に向かってリフレクタを掲げて進む。


「俯瞰で見るとエシュメールはよく動いています。ですが、距離を取っているだけ有効な打撃は与えられていません」

「近づけば餌食になる。だが、このままというわけにもいきません。彼らは最初から四機しかいないのですからな」

「時間切れになれば自動的に敗北が決定します」


 試合時間は二十分。その時点で残機数の少ないほうが負けになる。エシュメールは最低でも一機は削らねばいけない。ベリフォードはそれを逆手に取ってがちがちに固めていた。


「どこかで勝負を懸けるしかない。機を窺っているのでしょうが時間を掛けるほどに難しくなっていくのです」

 解説者のロバートはエシュメールの心理を語る。

「立ち上がりがゆっくりだったので、すでに七分以上が経過しております。エシュメールはチャンスを得られるのでしょうか?」

「狙撃を警戒して固めている以上、チャンスは自分で作るしかありませんな」

「しかし、得意戦法に入ったベリフォードを崩すのは容易ではない模様です」


 ちくりちくりとビームで刺すだけでは状況は変わらない。リングアナもエシュメールの行動の変化を読み取っていた。


「徐々に接近しています。どこかのタイミングで一斉に仕掛けるか? チーム回線は忙しく働いているのかもしれません」

 モニタしていない裏側で盛んにやり取りされている可能性が高い。

「焦れているようにも見えますな。そうなると余計に苦しくなりますぞ」

「ベリフォードに付いているカメラドローンの映像でもエシュメールの機体を確認できるようになってきました」

「見えているということはそれだけ近いということです。近いということは……」


 印象的なレモンイエローのアームドスキンが露骨に姿を見せて一射入れてくる。ベリフォードは応射を浴びせつつ前進。距離を詰めにいくが、カシナトルドは持ち前の機動性でスティープルの林の向こうに消えた。


「ゲリラ戦が乱れてきていますからな。崩れるのはエシュメールが早そうです」

「追い込まれてきているのかもしれません」


 後退援護をするようにペルセ・トネーも後ろから姿を現す。しかし、ガイナンたちがフォーメーションごとそちらに転進すると慌てて逃げていった。その後も何度か仕掛けるが牙城の攻略はできない。


「時間は刻々と過ぎていきます。残り八分を切っておりますが」

「多少強引にでもと思いはじめる頃合いでしょうな」


 それまでベリフォード側からは一度も姿を確認させなかったモスグリーンの影が見える。度重なる鋭い狙撃も功を奏さないと見て、距離を詰めにきたのだろうか。しかし、それは誤算を招く。


「ここで一気に動いたベリフォードぉー! スナイパーを落としに掛かるー!」

「前衛でないルイン・ザは機動面で劣ると読みましたな。ここが落ちると形勢が傾くでしょう」


 スティープルの向こうに逃げる背中。使い慣れたフォーメーションが一体化して追う。付かず離れずの逃亡劇が開始された。


「エシュメールの各機は慌てて援護に動くぅー! しかし、ベリフォードはスティープル内部と思えないほど速いぞー!」

「まさに一糸乱れぬチーム行動を見せていますよ」


 ルイン・ザを仕留めれば決定的だという判断だと思われる。パトリック選手のカシナトルドは機敏な白兵戦闘能力を発揮しているし、シュナイクやペルセ・トネーは、ベリフォードのストーリアに類似したヘヴィータイプのアームドスキン。激突しても押し負けない。最も与し易いのは電子戦タイプのルイン・ザだと考えるのは普通だ。


「残り五分、リミテッドチームが勝負どころと決めに行くー!」

「エシュメールはゲリラ戦で実に粘りましたがここまでですかな?」


 ギリギリで躱しつつ逃げるモスグリーンのアームドスキンの背中を見る時間が長くなってきた。次のプレート型スティープルの向こうへ抜ければビームを集中させられそうだと感じる。


「へ?」

 つい間抜けな声が出てしまう。


 リングアナが注目していた、ベリフォードを追うカメラドローンの映像からルイン・ザが忽然と消えた。

次回『希望を胸に(7)』 「こんなの有りかぁー!」

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