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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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希望を胸に(5)

「さて、クワンシーカップも後半戦の四回戦。残っているチームは皆様ご存知の強豪チームが目立つようになってまいりました」

 リングアナは声を張る。

「そんな中、異彩を放っているのはファン投票枠から駆け上がってきましたチーム『エシュメール』。週末のメインゲームとなった今日の試合もいつもどおりの編成で挑みます」


 赤いゲートからは最大枠の五機に一機満たない四機のアームドスキンしか出てこない。それも機種はバラバラという雑っぷりに思える。メジャートーナメント後半戦となるとカスタマーチームかワークスしか残っていないという固定観念からか。


「対するは優勝候補でもあるチーム『ベリフォード』。アームドスキン『ストーリア』を駆って、アコース・クワン社の操機士たちがやってきます」

 本拠地は地方にありながらも大企業のワークスチームである。

「ヘヴィマシンに定評のあるアコースの最新機がリングに唸りを上げるぅー!」


 やはりリミテッドクラスのベリフォードの登場となるとアリーナからの歓声は大きい。比較にならない実績と人気がある。彼らの優勝投票権(チケット)を持っている観客も少なくないはずだ。


「お待たせしました。それではクワンシーカップ四回戦第三試合を行います」

 観客の盛り上がりを確認しつつ宣言する。

「ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 試合開始からベリフォードは慎重姿勢で応じる。片膝を突いてリフレクタを展開。その体勢であれば足を掬われる危険はない。エシュメールのビームにリフレクタを叩かせるに任せている。


「これは固い。解説のロバートさん、ベリフォードは随分と消極的ですね?」

「どうあっても崩されないぞという姿勢ですな。開始からペースを相手に持っていかれるのを極端に警戒しています」


 エシュメールの試合は砲撃戦で意表を突かれてその後に影響する展開が多いという分析なのだろう。奇襲潰しに堅実な戦術で対抗している。


「リミテッドのチームともなると侮って掛かりません。しっかりと研究している。だからこその強さなのでしょうな」

「エシュメールの場合、物理的にも足元を掬ってきますからね」


 リフレクタの隙間から足を狙ってくるのを揶揄する。一機でも歩行不能が出ると作戦展開は難しくなる。それを避けたいのだろう。


「油断を微塵も見せないベリフォード。エシュメールは攻めあぐねているか?」

「下げてきましたな。それならばとスナイパーをスティープルエリアに紛れ込ませるつもりでしょう。させてもらえるとは思えませんが」

「ここからの動きも計算済みなのでしょうか?」


 センターのオープンスペースからゲートに至るロードには障害物(スティープル)が置かれていない。ロードまで下がればスティープルまでの距離は短く中に入りやすいのだ。


「エシュメールがロードに到達します。仕掛けてくるでしょう」

「片や、阻止してくるはずですよ」


 リフレクタを掲げた前衛三機の後ろでルイン・ザがロードを外れる挙動を見せる。すかさず左右のベリフォードメンバーがビームで両サイドを弾幕を張った。しかも、射線は下げ気味で、リングの地面を叩いて人工土を巻き上げて壁を作る。


「ほら、動きを許しません」

「ロバートさんの予想どおりでした。しかも、足元を荒らして走りにくくするというオマケ付き」

「エシュメールは目算が外れましたな」


 その後もエシュメールは下がっていく。合わせてベリフォードもじわりじわりと前進する。時々ルイン・ザが横っ飛びの気配を見せるが丁寧にスペースを潰していく。頑として譲らないつもりだ。


「このまま下がればゲートまで押し込まれます。距離が縮むと包囲されたも同然。エシュメールはなにもできなくなってしまいますね。防御フィールドを抜けてゲートの向こうへと入れば自動的に撃墜(ノック)判定(ダウン)になります」

「無言の圧力がエシュメールに掛かっています。これは手厳しい」

「まるでリミテッドのチームが、上は甘くないぞと教育しているかのようにも見えます」


 再びスナイパー機が横を向いてスティープルエリアに飛び込む挙動を見せる。後ろはもう距離がない。痺れを切らしたかのように思えた。


「追い込まれて賭けに出るか、エシュメール!」


 ベリフォードはルーチンワークのようにリフレクタをずらしてビームランチャーの筒先を突き出す。敵チームのフォーメーションの左右に弾幕を張ろうとした。

 その瞬間、中央にいたカシナトルドが伏せに近い姿勢までしゃがみ込んでいる。しかも、ルイン・ザは機体を横向きにしながら右手だけを残していた。


「なんですと?」

「これは狙っていたかぁー!」


 たった一撃のビームだった。ただし、一機のビームランチャーを正確に撃ち抜いている。反動で銃器は弾き飛ばされ、誘爆判定で二度と使えなくなった。


「ランチャーを失ったー! これは痛いー!」

「フェイントだったと? くり返し横っ飛びの姿勢を見せていたのはこのためか? なんと巧妙な」


 次の瞬間、前傾姿勢からカシナトルドが全力疾走に移っている。もちろん、ベリフォードに向けてだ。堪らずビームを集中させようと砲口が動く。

 ところが、見透かしたようにシュナイク、ペルセ・トネーにルイン・ザが横っ飛びでスティープルエリアに。カシナトルドも同じく横滑りして消えていった。


「攪乱されたベリフォードぉー! 為す術なく立ち尽くしているー!」

「追い込まれたと見せて、このタイミングを狙ってたのですな」


 リングアナも呆気に取られたリミテッドチームの姿などほとんど見たことがなかった。

次回『希望を胸に(6)』 「時間切れになれば自動的に敗北が決定します」

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