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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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希望を胸に(4)

「チーム『レイ&ジル』全滅で試合終了ぉー! エシュメールの快進撃は続くぅー!」

 リングアナは絶叫する。


 プライベーターとはいえ、たった二年でダブルエースまで上がってきていたチームまでもが手玉に取られた。そんな試合展開だった。


(強豪チームと当たって敗戦しても爽やかに退場していた好印象のチームなのに)


 それが今夜は下唇を噛んだまま無言で去っていく。まるで、自分たちがなぜ負けたのかもわからないかのように。


「それでは勝利チームのエシュメールにお話を伺いましょう」

 センタースペースに戻ってきたアームドスキン『シュナイク』に尋ねる。

「勝因はなんだったでしょう、リーダーのオーサム・スリバン選手?」

「んー、勝因か。やっぱ、パトリックがきっちり二機抑え込んでくれてたからかな。あれで、俺とストベガがルオーの援護受けながら三機相手するだけでよくなった」

「なるほど。ですが、オーサム選手の最初の突進がタイミングよくなければレイ&ジルは崩れなかった気もいたしますが」

 流れが変わった瞬間である。

「あれは我ながらいい感じだったな。ストベガもきっちりついてきてくれたし。何度もやってきた甲斐があった」

「それでは訓練どおりということですか? 試合のようなシチュエーションでの対処もくり返していると?」

「どこも似たようなことやってると思うけど。うちは実機シミュレータで効率よくやってるだけで」


 きちんとした施設も持っていない彼らがなぜ急激な成長を遂げているか疑問だったが自ら明かしてくれる。かなり高性能なシミュレータシステムを用いているようだ。


「ストベガ選手も同じお考えなのでしょうか?」

 少しカマを掛けてみる。

「はい、ほとんど反射的に動けるようになってきました。練習の成果だと思います」

「実機シミュレータで相当密度の濃い訓練をされているようで」

「ですね。厳しいですけど、やっただけ身になるような感じです」

 隠し立てする気もなさそうだ。

「環境再現はともかく、相手チームの再現はなかなかだと思いますが」

「どうかな。結構精度よかった気がします。なんか、こう来るかと思ったらそのとおりだったり」

「ほほう、相手チーム分析もされているのですね。それが最近の強さの秘密ですか」


 尋ねてみるが、そこは曖昧な返事しかない。ストベガ自身が知らないのか、理屈を理解していないかのような返答だ。


(バックアップスタッフが充実しているのか)

 そう分析する。

(確か整備士(メカニック)も一人だったはず。もしかして助っ人民間軍事会社(PMSC)のスタッフが優秀なのか?)


 常に実戦に身を置く部隊(ユニット)である。戦力分析も綿密なバックアップをしていても変ではない。


「パトリック選手、今日の試合もご活躍でした。相手チームの分析は進んでいたのですか?」

 彼のほうが詳しいはず。

「あんま気にしてない。女子選手がいないかくらい」

「そうはどういう?」

「だって、オレくらい凄腕パイロットが本気出しちゃったら申し訳ないからさ。痣できたりしたら可哀想だし。レディには優しくする。当然じゃん?」

 空とぼけているのか本気なのか不明だ。

「では、男子選手ばかりのレイ&ジルはやりやすかったと」

「男なら痣は勲章くらいに思えってな」

「そうですか」

 大笑しているパトリックからは、これ以上突っ込んだところでまともな情報は引き出せそうにない。


(とはいえ、一番捉えどころのない選手しか残ってないんだが)

 モスグリーンのアームドスキンを見る。


「ルオー選手、今日は相手に姿も見せないスナイピングショットを決めていましたね。作戦だったのでしょうか?」

 眠そうな目がカメラを見る。

「いえ、作戦というほどでは。勝因といえば……」

「なにかあるのですか?」

「これですね」

 取り出したウサギ耳のアクセサリを頭にぺたりと貼り付ける。

「は?」

「これで相手の位置がわかるんです」

「まさか」


 アリーナには爆笑している観客も少なくないが、尋ねた立場ではおちょくられているとしか思えない。つい黙ってしまった。


「冗談はさておいて、そのルイン・ザの電子戦装備のお陰なんだろう?」

「まあ、そうですね」


 クワンシーカップの解説は現役選手に任せない。今後の対戦チームの試合を実況席から見せるのは不公平だという配慮からだ。なので、今日も退役国軍士官のロバート・ゲッツ氏に来てもらっていた。


「慣れです。観察眼には多少覚えがありますので」

「観察眼で語るのは少々物足りない気がするがね?」

「企業努力と思ってください」


 ロバートでさえ煙に巻かれる。この童顔の青年からなにかを引き出すのは難しそうだ。時間もそんなにない。


「四回戦進出おめでとうございます、オーサム選手」

 話を切り替える。

「次の対戦相手は不運にもリミテッドクラスのチーム『ベリフォード』となっております。熟練パイロットのリーダー、ガイナン・デクスト選手に対し勝算はお有りですか?」

「エシュメールはいつも崖っぷちだからな。全力を尽くすまで」

「番狂わせを期待しています。チーム『エシュメール』の勝利者インタビューでした。皆様、拍手でお送りください」


(研究もされてるだろう。そろそろ、このチームも頭打ちだろうな)


 経験から、そんな思いを内心に隠しているリングアナであった。

次回『希望を胸に(5)』 「どうあっても崩されないぞという姿勢ですな」

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