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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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希望を胸に(3)

「差し入れ、預かってきましたよ」


 ルオーがチーム『エシュメール』が本拠にしている倉庫に戻ると男二人組はテーブルでヘタっていた。朝からパトリックにしごかれていたらしい。


「甘いもんはいい。カロリーを寄越せ」

 オーサムが手を伸ばす。

「そう言うと思ってオリガさんがしっかりとしたものを準備してくれてます」

「助かった。危うく意識が飛ぶとこだった」

「ゼリー飲んでたし、カロリーバーも食ってたじゃん。それで足りないのか?」

 ゼリーパックを口にしながら長身のパトリックが見下ろす。

「腹膨らまないと元気出ないって。なんで、そんな軽いもんで誤魔化せるんだ?」

「がっつり食って再出撃なんて掛かったら吐いて悲惨なことになるじゃん」

「はいはい、君たちは本物のアームドスキン乗りですよ」


 実力は付いてきたもののスタミナが追いついていない。パトリックはそれがわかっていて厳しめに追い込んでいる。


「オーサム、弱ぃ?」

 一緒に来たクーファが覗き込んでいる。

「少なくともクゥより胃は弱そうですね」

「弱い言うな。メンタルまで打ちのめす気か」

「この程度でまいっては困りますよ。三回戦は明日の夜なんですからね」

 中盤戦だが、有力チームと違って平日開催に組まれている。

「頑張ってるって」

「頑張るはクゥにもできるぅ」

「お前がなに頑張ってんだよ」

「試食ぅ!」


 嬉しそうに言うので二人はげんなりとしている。如何にも同じにするなという視線を投げていた。


「必要なことです。君たちだってカフェが上手くいくよう頑張ってるんですよね? だったらクゥのやってることと同じです」

 屁理屈をこねる。

「同じぃ」

「同じじゃない。重みが違うだろが」

「では、試食して彼女と同じだけ意見ができます? 結構舌が肥えてますけど」

 オーサムは「う……」と反論を封じられる。

「自分たちだけがすごいことをやっている気分にならないことです。さすがにクワンシーカップを持って帰れば別ですが、そこまで行かなければクゥと同レベルです」

「厳しくね?」

「次も勝てればいいな、くらいの感覚で頑張ってるうちは駄目ってことです」

「駄目駄目ぇ」


 猫耳娘に突っ付かれて「うがぁ!」と起き上がるオーサム。猛然と差し入れを詰め込んで気合を入れ直していた。


「君は本気で優勝するつもりなのかい、ルオー?」

 ストベガが改めて訊いてくる。

「もちろんです」

「でも、次勝ったらあとは有力チームとの対戦ばかりだよ? ぼくたちで勝ち抜けるとは思えなくてね」

「ええ、強いチームなんでしょうね。だからこそ二人が戦えなくては困るんです。僕とパットだけでは勝てないでしょう」

 リングは広い範囲をフォローするのが難しい戦場設定になっている。

「強くなれぇ」

「クーファの魔法で強くしてくれるかな?」

「付けるぅ?」


 クーファがウサ耳を取り出して渡そうとする。今付けている青いウサ耳ではなく、オレンジのウサ耳だ。予備らしい。


「これ付けると強くなるのかい?」

 ストベガは付き合っている。

「うん、センサーだもん」

「マジで?」

「これは、おうち帰ってシャワー浴びたときボディソープを切らしている人センサーだよぉ」

「狭いな! っていうか強さ関係ないし!」

 堪らずツッコむ。

「いえ、わかりません。明日の試合で当たる選手の中に、おうち帰ってシャワー浴びたときボディソープを切らしている人がいるかもしれません。そのときは絶大な効果を発揮するでしょう」

「ルオー、本気かい?」

「ぜひとも着けて出てください。確実に相手を察知できます」

「貸してあげるぅ。お礼はパフェでぇ」


 畳み掛けるようにボケるとストベガは脱力してしまう。変な緊張を抱えたまま明日を迎えるよりマシだろう。


「俺にもなんか貸してくれ」

 あきらめたようにオーサムも乗ってくる。

「じゃあ、これぇ」

「何センサーなんだ?」

「エレベータ乗ったらニンニク臭い人が一緒でちょっとイライラな人センサー。珍しいのぉ」

 白地に黄色い水玉があしらわれている。

「珍しいですね。しかも確率高い。かなり有効かもしれません」

「そんなニッチなのばっかりかよ。なあパトリック、お前、疲れない?」

「こいつらはいつもこうだ。気にするだけ無駄」


 笑い転げているチャルカに平然としているパトリックと、助けを求める相手に困っている。気が紛れたところで訓練に戻るべきだろう。今日は夕方までで切り上げて、明日のために体力を回復してもらわねばならない。


「仕方ないから、散歩している犬が近づいてきたから撫でようとしたら避けられちゃう人センサーを出してあげるぅ」

「いらんわ。幾つ持ってんだよ」

「各種取り揃えておりますぅ」

 にこにこのクーファがポーチを探っている。

「そろそろチームを『ラビットイヤーズ』に改名するときが来たようですね」

「するか!」

「では、僕には音感センサーを」

「はぁい」

「お前だけ普通なのかよ!」


 程よくテンションが上ったオーサムをシュナイクへと追い立てる。ストベガもペルセ・トネーへと向かった。


「ヘルメット被るときはセンサーを外すのぉ。折れちゃうからぁ」

「意味ねえし!」


 リアルな忠告をするクーファにルオーは吹き出した。

次回『希望を胸に(4)』 「これで相手の位置がわかるんです」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 日用品なのに近未来ぽい(?)ゼリー飲料とカロリーバーw
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