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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
二度あることは三度ある
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希望を胸に(1)

 口溶けの良いチョコソースがアイスクリームの表面で固まっている。スプーンで触れればそれだけでパリパリと感触も楽しい。口に運べばまずは濃厚な甘みとほろ苦さ。

 次に来るアイスクリームにもチョコソースが練り込まれていて、舌の上でアイスのコクと甘みのマリアージュを奏でる。それなのに後味には少しミントが香り、くどさを全く感じさせない。


「やりますね、オリガさん」

 ルオーは感嘆する。


 横のフルーツを先割れスプーンで突き刺すと生クリームもしっかりと付いてくる。齧ると、こちらもシロップが流しかけられていてパリリとした食感。酸味と甘味、コクの連打が舌に嬉しい。

 彩りも鮮やかで、別のフルーツでは渋みもアクセントになっている。他にもねっとりとした食感などを味わっていると、元のアイスクリームの清涼感が恋しくもなってくる。


「これ、一つで終われない魅力がありますね」

「でしょ? 我ながら秀逸」

「完敗です」


 隣でクーファが早くも完食の勢いで、目で次を要求していた。パティシエのオリガ・ストーヴェンが「サービス」と言って次を用意している。今日は青いウサ耳の娘が楽しみとばかりに立ち上がって覗き込んでいる。


「強いていうと」

「……ん?」

 その手が止まる。

「全てが舌先で完結してしまうんです。奥歯で楽しめるような食感も混じえると面白いと思いません?」

「言われてみると。全体に柔らかすぎ? でも、フレーク使うにしても底になるから一緒にっていうのは」

「太めのココアスティックをフルーツエリアに差してみては?」

 食材の中から探して見つける。

「あり! それ!」

「本数は調整の余地ありですね。他の方の意見も必要ですのでケイティさんに頼んでみては?」

「そうね。ケイティ、こっち来て!」


 開店前の仕込みが終わった時間を利用してカフェの新メニュー開発に付き合っている。店の人気は確実に上がっているのに、オリガの向上心が留まることはない。好きでやっているだけのことはある。


「うん、苦みも加わって全体にのっぺりしてた感じもなくなった。これでいけるんじゃない?」

「ケイティの合格も出た」

「でも、子どもにはちょっと邪魔かも。2バージョン用意するのはどう?」

「食感のアクセントは捨てがたい。だったら、これはどう?」


 クラッカースティックを差し出す。それなら自由に生クリームやアイスを付けて食べられる。


「レンケたちが帰ってきたら実験ね」

「今日のオヤツはこれに決まり」

「クゥもぉ」

 早くも三杯目決定である。


 彼女の強靭な胃を信頼しつつフロアの様子を窺う。新しく入れた配膳ロボがピカピカのボディで待機していた。歩み寄ってステータスをチェックする。問題なさそうだ。

 もう一台のレンタル機もいずれ新品にしたいところ。だが、今のところ賞金が確定していないので控えている。カフェの利益だけではまだ遠い。銀行の融資も考えたが、ケイティたちが無理のない将来設計を望んだのであきらめた。


「続いてはクワンシーカップの状況です」

 オリガがクロスファイトチャンネルを開いている。

「現在二回戦までが終了し、ベリフォード、ブル・アックス、ゼクセローネなどの有力チームは順当に勝ち上がってきております。解説のロバートさん、優勝候補はやはりタイタロスでしょうか?」

「圧倒的な強さを見せていますな。彼らは最初のリミテッドクラス昇格チーム。それ以来、不動の地位を確保しています。運営のトルナード社も次々と真新しい装備を実験導入している以上、牙城を崩すのは至難の業でしょう」

「トーナメントを面白くするために、ランカーチームの面々の健闘を願いたいところですね」

 MCが表示されたトーナメント表を示しつつ言う。

「今日のピックアップは新風を吹き込むこのチーム、『エシュメール』です。ロバートさんはどう見られておられますか?」

「なんとも言い難いところですね。成長は言うまでもありません。実際に強くなってきています」

「はい、ファン投票枠のノービス2クラスながら三回戦進出という素晴らしい戦果を挙げています」


 シュナイクやペルセ・トネーの試合中の映像が流される。二機とも格上を相手に善戦し、勝利をもぎ取っていた。


「彼らがノービスクラスで低迷していた理由が見当たらない。そんな戦い方をしていると思いますな」

 解説者も感心している。

「勝ち上がっているチームの中ではかなり通好みの戦術的な試合運びをしているとの意見も多いですが」

「それも個々の実力あってのこと。ここ一月半の不敗の快進撃を見ていると、機体性能はもちろんパイロットスキルも確かなものとなっていますな。ランカーチームもうかうかしていられませんぞ」

「助っ人とされる二人、パトリック選手とルオー選手も目覚ましい活躍をしています」


 レモンイエローのカシナトルドが踊る。華麗に舞っては相手のアームドスキンを撃墜(ノック)判定(ダウン)に追い込んでいた。


「実力は申し分ない。それだけに運営サイドも困惑しているようです。今後は規制対象になるかもしれません」

 MCが相槌を挟む。

「しかし、となると、国軍パイロットが組んでいるチームはどうなるのかと議論になるところ。難しい判断が求められておりますな」

「なるほど。おっしゃるとおりです」

「それと、これです」


 ルイン・ザの戦闘映像からルオーは苦い顔で目を逸らした。

次回『希望を胸に(2)』 「そうそう真似されては困りますからね」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 通好み=地味と言うイメージw
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