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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
180/350

見上げる明日は(6)

 ルオン・カンテのカハール2は残り二機。エシュメールは四機が健在のまま試合は進んでいる。逆転を狙うしかないルオン・カンテは立て直すべく後退し、再び探知戦へと戻っていた。


「意外な展開となっておりますが、解説者のドワイト選手。ここまでをどう分析なさいますか?」

 リングアナは空き時間に尋ねる。

「先手を打ったのはエシュメールのほう。開始一番、スナイパー機の弾幕作戦でルオン・カンテはいささか消極策に出た。それが誤算だったのかもしれません」

「ですが、古参チームならではの堅実な試合運びだったと思えます」

「堅実だったがゆえにエシュメールの心理戦に嵌まってしまったのでしょう。読みやすかったともいえます」

 動きが予想できたと見たらしい。

「すると、最初からエシュメールの流れだったと?」

「今思えば、そのための速攻だったと思えます。逆にいうと、ルオン・カンテはいつでも巻き返せるという驕りがあったのではないでしょうか」

「クラス差を考えれば仕方ないことなのかもしれませんが、いや、クロスファイトとは奥が深いものですね」


 始まってまだ十年に満たない競技(ゲーム)である。当然といえば当然なのだが、あまりに異質な風が吹き込んでいるように思えてならない。


「狙撃はマルチプレイヤーの技能の一部という考え方を改めなくてはならないかとも思います。明らかにキーになっています」

 ドワイトは真剣に説く。

「砲撃戦が戦場の主役だった時代に逆戻りするのでしょうか?」

「いえ、そうではないでしょうが……、なんとも」

「お話を伺っている間にも試合は動いております」


 ルオン・カンテのカハール2の二機は一時撤退で切り替えている。相手チームが単機行動なのを逆手に取って別個に動きはじめた。


「一対一であればパイロットスキルで負けないという狙いでしょう」

 解説者もそれ以外に逆転の目はないと見たか。

「すでに格下という思いは捨てていると思います。本気の強豪選手は怖いですよ?」

「怒らせてしまったと?」

「エシュメールが詰めに掛かるのならば、ここからは連携が重要になりますな」


 それも承知ということか、エシュメールのマルチプレイヤー三機は緩やかに距離を取って網を張るように移動している。いざ探知したら複数で当たるのだろう。


「おっと、ここで大胆に動きます、ルオン・カンテ。エシュメールの前衛三機の配置を確認して一機が逸れました」

 大きく迂回している。

「挟撃を狙っているのでしょうか」

「あるいはスナイパーを撃破して動揺を誘う気かもしれませんな」

「なるほど、考えてもいませんでした」


 一機でエシュメール前衛を誘導しつつ、一機がスナイパーを撃破。後方支援を絶たれた前衛が体制を立て直す前に崩してしまおうという作戦か。


「すると、ショートカットのコースを取るのでしょうね」

 接敵報告で支援に向かうスナイパーを途上で迎撃するはず。

「もう間に入っています。判断が早いですな。気づく暇も与えない」

「再びの逆転劇もあるかもしれません。これは目が離せない」

「面白いですよ」


 ルイン・ザの前にカハール2が立ちはだかる。思ってもいなかったのか、スナイパー機は立ち止まって動かない。


「これは動揺が激しいか?」

「優勢と高をくくって掛かったとしたら大間違い……」

 そこで解説者は目を見開いた。


 ルイン・ザは自然にビームランチャーを前に。カハール2も逃さないとばかりにビームランチャーを突き出す。発射されたビーム同士が衝突してプラズマボールと化す。カハール2は移動しながら連射した。そのことごとくがビームで迎撃される。


「なんだそれは! なんなんだ、お前は!」

「スナイパーですよ」


 驚愕したルオン・カンテのパイロットが堪らずオープン回線で吠える。対するルオー選手は冷静に受け止めていた。


「ぐ、偶然ではなかったのでしょうか?」

「しかし……」


 ビーム迎撃は続き、先にオーバーヒートでトリガーが落ちなくなったのは当然カハール2のほう。両手持ちのルイン・ザはそのあとも砲撃を続け、頭、足と撃ち抜き、倒れたところを一撃してノックダウンを奪う。


「の、撃墜(ノック)判定(ダウン)……。いえ、エシュメールの勝利です」

 もう一機も三機掛かりで倒されている。

「なんと、トリプルエースのルオン・カンテが敗北です」

「これは、なんといえばいいのか……」


 解説に困るドワイト選手にリングアナは同情した。


   ◇      ◇      ◇


「いえーい、勝利ぃー!」

「かんぱーい」


 ルオン・カンテ撃破の翌日、閉店後のカフェ『エシュメール』で祝勝会をしている。乾杯の音頭を取った整備士(メカニック)のチャルカは上機嫌そのものだった。


(負けて当然みたいな試合だったものね。嬉しくて仕方ないんでしょ)

 ケイティも友人のハグに応える。


「こんな額の賞金とか初めて」

 携帯端末に表示させて掲げている。

「贅沢にいこー」

「有意義に使おうぜ。新品の配膳ロボ、買えるだろ?」

「二台くらいはいけそうだよ」

「この調子だぁー!」

 アルコールも入って盛り上がっている。

「これからですよ」

「水差すなよ、ルオー」


 手で制した青年は投影パネルを一つ表示させる。膝に抱えられているフュリーとレンケが覗き込んでいた。


「ファン投票枠でクワンシーカップへの参加が決定しました。ここからが本当の勝負です」

 ルオーの言葉に一同は三者三様の反応をしている。


 ケイティは彼のコップに自分のそれを合わせて音色を響かせた。

次はエピソード『二度あることは三度ある』『希望を胸に(1)』 「完敗です」

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