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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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見上げる明日は(5)

 分散して単機行動するチーム『エシュメール』の各機。対してチーム『ルオン・カンテ』のアームドスキン『カハール2』は三機と二機に分かれて探索を開始する。遭遇戦になった場合、どちらが有利かは言うまでもない。


(意外に脆かったか)

 リングアナはエシュメールが作戦を誤ったと見る。


 ところが、変化があったのはそのエシュメールのほう。モスグリーンの機体がするすると移動を始める。スナイパーという性質から電子戦能力に優れていると思われるルイン・ザが先に探知したらしい。


「ルイン・ザが動きます。しかし、三機分隊の進路上にはペルセ・トネーの姿が。救援は間に合うのか?」

 そう言いでもしないと盛り上がりに欠ける結末が待っている。

「このままでは各個撃破の憂き目に遭います。ペルセ・トネーも連絡を受けたか逃げにまわる。これは早く接敵したほうの勝利が確定かぁー!」

「いえ、エシュメールの他の二機も援護に向かえば形勢逆転も……、は? 遠ざかってどうする?」

「確かにシュナイク、カシナトルドとも離れていきます。まさかチーム回線を聞いてないとも思えませんが」

 メンバーの窮地から逃げる僚機の反応に困惑する。

「作戦失敗を覚って立て直しと集結を図る気かもしれませんね。ペルセ・トネーを犠牲にしてでも」

「ですが、ルイン・ザは救援に動いています。味方を的にして敵機を落とそうという作戦でしょうか」

「狙うにしても動きがバラバラです。なにを考えてるのか私にもわかりません」


 ペルセ・トネーを視認できたか、三機のカハール2は幅を取りつつ接近する。ストベガ選手は様子を見つつ後退していた。牽制の砲撃も入れないのが気に掛かる。


「ストベガ選手はあきらめて迎撃するのでしょうか。重量級の性能を信じて接近を許すつもりに見えます」

 彼我の距離は縮まっていく。

「しかし、不用意に白兵戦に持ち込まれるほどルオン・カンテは甘くない。ビームランチャーを構えて追い込みに掛かります」

「中距離を保たれたら為す術ありませんよ?」

「このピンチに仲間はどう……、ルイン・ザが狙撃姿勢! その位置から決まるのか!」

 注意していたから気づけた。

「あの距離では当たったとしても一機足留めできれば御の字ですが」

「スナイピングショットが放たれる。エシュメール、一矢報いるか!」

「は?」


 解説のドワイト選手が疑問を呈したのも当然。ルイン・ザの狙撃はカハール2を狙ったものではなかったからだ。手前に着弾したビームは盛大にリングの人工土を巻き上げて三機に被せる。


「目眩ましぃー! これはまた変則的な作戦だぁー!」

 ルオン・カンテの機体を注視していたリングアナは他の動きを見逃していた。

「ペルセ・トネーが反転攻勢に出ますよ」

「しかし、相手はまだ土埃の中。突っ込むのでしょうか」

「無茶しますな」

 そこでブザーとともに表示が出る。

「はい? 撃墜(ノック)判定(ダウン)? ルオン・カンテに撃破機ですか?」

「馬鹿な。なにをどうして?」

「土埃が収まります」


 ペルセ・トネーが倒れたカハール2にのしかかってブレードを突き立てている。間違いなく撃墜判定が出る胸部だ。しかし、なにが起こったのか実況席では見て取れていない。

 そこへ、もう一撃の光条が襲い掛かる。受け止めるかと思われたカハール2が足元の土を掬われて転倒した。即座にビームランチャーを向けたペルセ・トネーがトリガーを絞って撃破する。


「もう一機が撃墜(ノック)判定(ダウン)! これはもしかして!?」

 おそらく土埃の中でも同じことが行われたのだ。

「足元を崩して転倒させ、その隙にペルセ・トネーが攻撃だと? 反射的にリフレクタで守るのは胴体だとしても……」

「心理の裏側を突いた狙撃ですか? そんなことが可能だとは」


 これまでの試合展開から狙撃があるのはルオン・カンテのメンバーも承知していた。なので狙撃を受けたら一発撃墜(ノック)判定(ダウン)の胴体を庇う。ところがルイン・ザはその心理を利用して転倒させ、とどめをペルセ・トネーに任せたのだ。


「三機が残り一機になってしまったルオン・カンテ。ペルセ・トネーの攻撃に防戦の構え。味方の救援を待つか」

 優位性は逆転している。

「しかし、一方の二機分隊はまだ遠い。一瞬の逆転劇でした。また転倒ぉー!」

「足を狙われましたな。一対一の戦闘中では防ぎようもありません」

「三度の撃墜(ノック)判定(ダウン)! ストベガ選手、三機目も撃破ぁー!」


 エシュメール不利にしか見えなかった試合展開が一気にひっくり返った。低迷していたチームの選手がトリプルエースの選手の向こうを張って対等以上の勝負をしている。


「もしかして、動けなかったのか」

 解説の選手がぽつりとこぼす。

「どういうことですか?」

「ルオン・カンテとしてはエシュメールが集まってくれたほうがやりやすかった。ところが、接敵した以外のメンバーが集まってこなかったんです。後ろを気にしての移動で救援が遅れました。その少しの時間が命取りになった」

「シュナイクとカシナトルドは離れることで陽動を仕掛けたのですか? 全てが心理的作戦だったと?」


 解説者の言葉どおりであれば辻褄が合う。しかも、それは最初から打ち合わせてでもいなければ実行できない高度な作戦に思える。


 リングアナはエシュメールの巧妙さに戦慄した。

次回『見上げる明日は(6)』 「本気の強豪選手は怖いですよ?」

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