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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
177/350

見上げる明日は(3)

「本日のメインゲームはマッチ戦となります。なぜなら、クワンシーカップが間近に迫る時期、このチームが登場するからです」

 リングアナも珍しい事態に言及せざるを得ない。


 平日でもその日の最後に行われるメインゲームともなれば普通はトーナメント戦が割り当てられる。リミテッドはさすがにないが、エースやノービス、ときにはビギナーのクラス別小規模トーナメントは常に行われているからだ。

 クワンシーカップという年に数回レベルの企業スポンサーも付くメジャートーナメントが近いタイミング。有望チームはそこに向けて調整に入っているのでトーナメントにも出てこない。そこにマッチ戦の話題カードなのでメインゲームに取り立てられたのだろう。


「トリプルエースチーム『ルオン・カンテ』。ルオン社のワークスチームが挑戦者を迎え撃ちます。それも話題騒然のノービス2チーム『エシュメール』。強者の風格を魅せるか、それとも異例の快進撃は続くのか。期待の試合が今始まろうとしています」


 入場してきたルオン・カンテの編成は変わりない。ランカーチームはまず全員がマルチプレイヤーである。中には利き手にブレードを持つストロングスタイルの選手も見られるが、ほとんどの場合戦術の中で役割分担は変わる。編成で作戦を読むのは困難といえよう。


「いつもどおり整然と入場してきます、ルオン社の『カハール2』。勇壮なシルエットに歓声が飛びます」

 間繋ぎの実況を入れる。

「対するは最新鋭の洗練されたボディ『カシナトルド』が、重厚な攻撃型アームドスキン『シュナイク』『ペルセ・トネー』を伴って歩いてきます。そして、異色の機体、両手持ち(ダブル)ランチャーの『ルイン・ザ』が続きます」


 特にどちらが優位と定められているでもない、単に赤と青に色分けされたゲートから入場した2チームが障害物(スティープル)のないセンタースペースで対峙する。これはどこで開催されるクロスファイトでも採用されている作法だ。


「位置取りが決まり、今カウントダウンが開始されました」

 3Dモデルの数字が空中に浮かび、「60」から減っていく。

「解説のドワイト・カルスナキー選手、今夜の試合、どんな展開が待ち受けているとお思いですか?」

「皆の期待を削ぐようで申し訳ないが、エシュメールは厳しいと思います」

「それは何度も対戦されてきた、同じトリプルエースのチーム『ルオン・カンテ』だからの予想ですか?」

 実力を知っているからかと尋ねる。

「それもなくはないのですが、エシュメールは前回の試合からすでに力量差を見せつけられているからです。からくも勝利した展開を見るに、さらに力のあるチームとの対戦となると勝率は推して知るべしですな」

「対戦を受諾したのは勝算がまったくないではないとの見方もありますが?」

「売出し中です。ここでは退けないでしょう。彼らは負けるまで止まれない状態なのだと思われます。そういうときってあるものですよ」


 解説者が経験に基づいた予想をしてくれるのはありがたい。説得力のある論調は観客にも伝わりやすいからだ。


「なるほど。仮に敗北を知っても、それを乗り越えられたチームこそ強くなれるということでしょうか?」

 ドワイト選手は大きく頷く。

「人気が出ていれば、負けるなり即座に叩かれたりもします。乗り越える精神的強さがクロスファイト選手には不可欠なのです」

「確かに。黎明期には数多のチームが名乗りを上げたものですが、今残っているのはそのうちの何%でしょうか。かなり低いものと思われます」

「ルオン・カンテのような古参チームは選抜された強者です。酸いも甘いも噛み分けた選手を向こうにまわし、助っ人を入れた急造チームがどこまで戦えるか。そこが見どころとなるでしょうね」


 少々偏った予想といえばそうなのだが、解説者の言わんとしていることは理解できる。話題性は高いものの、リングアナもこの組み合わせ(カード)はどうなのだろうと首をひねったのだから。


「注目点といえば、エシュメールはアームドスキンの性能差を前面に押し出さない作戦展開が目立ちます。他チームはその違いに戸惑っているのではないかとの意見も各所から聞かれますが」

 メインゲームともなれば六十秒と長い試合前解説時間もあと少しというところ。

「そこですね。まるで実戦の戦術をそのままリングに持ち込んだような試合がエシュメールの持ち味ともいえます。どこまで通用するかはわかりませんが、今回の快進撃が今後のクロスファイトを変える可能性は捨てられませんな」

「それはチーム『ゼクセローネ』も参考にしている部分があると受け取ってもよろしいですか?」

「我がチームもワークスである以上、実戦運用を加味した開発も考慮すべきかもしれません。とにかく性能向上を目指すのではなく、集団戦闘での運用のしやすさも開発のほうの議題に登っていると聞きます。そうしたチーム運用も増えてくるかもしれません」

 エシュメールの存在が一石を投じたのは事実のようだ。

「参考になりました。ご意見ありがとうございます。さあ、カウントも残り僅か。注目のカードのゴングが今鳴らされます。ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 リングアナはテンポ良く試合開始を宣告した。

次回『見上げる明日は(4)』 「この驚くべき事態をなんと表現すればいいのでしょうか!」

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