ぬくもり感じ(7)
立ち止まったルイン・ザをウェイデガーのアームドスキンが照準する。スナイパーであろうがマルチプレイヤーであろうが関係のない間合い。狙いを外すべくもない。
「このミスは痛い! 最後の最後でルオー選手は気が緩んだのでしょうか?」
「終わったな。良くて相打ちだぜ?」
ウェイデガー機がビームを発射。回避は困難な距離。リフレクタを構える暇も与えられず被弾は必死と思えた。ところが、ルイン・ザもビームを放っている。
「え?」
「なんだと?」
衝突したビームが干渉を起こしてプラズマボールを形成する。紫色のスパークをまとわりつかせながら生まれた光球はにわかに膨れ上がった。
さらに変形する。潰れかけたかと思えば穴が空き、ドーナツ状に輪を広げた。その真ん中をビームが抜けていく。ルイン・ザがプラズマボールを撃ち抜いていた。
「ああっ!」
「嘘……だろ?」
その一撃が頭部を撃ち抜く。対峙していたアームドスキンではない。その後ろでカシナトルドを牽制していたウェイデガー機である。ブラックアウトで立ち尽くした機体をパトリック選手が華麗に斬り裂いた。
「こいつは……!」
機能停止するアームドスキンを捨て置いてカシナトルドはルイン・ザの前の機体に迫る。カウンターのブレードの一閃をくぐり抜けると逆袈裟に斬り上げて仕留めた。
「連続撃墜判定! 一瞬の出来事でしたぁー!」
「驚いたな」
他方ではオーサム選手とストベガ選手が立て直しきれない相手に畳み掛け、攻撃を重ねていく。ついには撃墜判定にまで持ち込んでいた。
「なんと、チーム『ウェイデガー』が全滅ぅー! エシュメール、勝利ぃー! なんという逆転劇ぃー!」
「こうなっちまうかよ」
「幸運に幸運を重ねたノービス2クラスのチームがダブルエースを撃破しました。彼らはまるで女神の祝福でも授けられているかのようです」
(本当にそう? 幸運で終わる話? 偶然が重なるにしても重なりすぎた気がしなくもないんだけど)
「この試合の展開、どう見られましたでしょうか、ガイナン選手?」
「むずかしいこと訊くじゃねえか」
リングアナは他にやりようもなく、解説者にあとを任せた。
◇ ◇ ◇
「遊び過ぎだぞ、ルオー?」
パトリックが彼に当てこする。
「そう言われても、そろそろ二人にも自信を付けてもらわないといけないじゃないですか。ダブルエースのチームメンバーを単独撃破したとなれば程よいでしょう?」
「意表を突いたぶちかまし喰らってピヨってる相手ならあの二人でも墜とせるよな。そういうふうに持ってったんだから」
「ええ、ありがとうございます。君の追い方も上手でしたよ」
パトリックも加減して追っているのをルオーは気づいていた。相方が本気で、カシナトルドの性能が加わればさして時間も必要とせず墜とせただろう。イオン駆動機搭載機というのはそういうアームドスキンである。
「練習にも身が入るだろ。そろそろオレたちの機体も倉庫に持ち込んで連携訓練始めるか」
「頃合いですね」
これまではオーサムとストベガの強化に努めてきた。それは二人の乗機も同様である。今後はさらにチームとして練度を上げていかねばならない。
「ともあれ、まずはメンタル面ですね」
「カフェに凱旋しようぜ。オレもケイティちゃんやオリガちゃんに褒めてもらわなきゃやってらんないぜ」
「君のメンタル面を慮っても仕方ないんですけどね。十分に強いんですから」
本拠に機体を収めて後片付けもそこそこにカフェ『エシュメール』に移動する。クラス差もあって今日の試合の賞金は割といい額だ。ルオーはオードブルセットを注文する。
「おめでとう。すごかったじゃない」
テーブルは配膳ロボに任せ、キッチンの片付けを手伝っていたケイティが振り返る。
「任せろって。俺たちだってやるときはやるんだぜ」
「なかなか味わえない興奮だったよ。でも、なんだかやれるんだって気がしてきた」
「待っててね。お祝いに夕食は頑張っちゃうから」
「いえ、そろそろ届くはずです」
話しているうちに配送ロボットが連れ立ってやってくる。ルオーは端末をかざし、支払いを済ませるとオードブルを取り出して並べていく。
「たまには手抜きで、皆でゆっくりと夕食にしましょう?」
彼にまとわりついていたフュリーとレンケも歓声をあげてお皿に夢中になる。
「すごーい。豪華ぁー」
「早く早く。お腹へったよー」
「ええ、いただきましょう」
二人を座らせると取り分けていく。ケイティたちも招いてちょっとしたパーティー感覚を味わってもらいたかった。
「ほんとのほんとになっちゃうのかも。賞金で店を立て直してくれるなんて夢みたいな話だと思ってたのに」
「もう少し、ぼくたちも頑張ってみるから」
「こんなん毎日食えるくらいにしてやるぜ」
「調子いいんだから。そう願いたいものね」
ケイティはフュリーの汚れた口元を拭ってやりながらも、自身も料理に舌鼓を打っていた。皆が笑顔になってくれると胸にほんわりとぬくもりが宿る。家族に愛情が無いといえば嘘だが、こんな光景が縁遠くなっていた自分に気づかされる。
(だからかなぁ、時間を掛けてもいいと思えちゃうのは)
ルオーはこれが依頼であるのを忘れそうになっていた。
次回『見上げる明日は(1)』 「次の組み合わせも来ましたよ」