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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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ぬくもり感じ(4)

 待機エリアでシュナイクを前にオーサム・スリバンは困惑している。ノービスクラスで揉まれていたはずが、いつの間にかおかしなポジションになっているのに気づいたからだ。


「なんでチーム『ウェイデガー』なんかが平場に出てくるんだ? カスタマーチームでもそれなりに実力者だぜ?」

 ルオーが「平場?」と首をかしげる。

「マッチ戦のことだよ。トーナメントより格下の試合って意味で平場って呼ばれてる」

「賞金が出ることに変わりないんじゃないですか?」

「桁が違う。そりゃ、トーナメントは上位入賞しないと賞金出ないが、額は十倍とかそんなだ」


 だから、参加するのも賭けになる。早々に敗退などしようものなら試合に向けて整備した手間暇も使った資材も回収できない。まんま赤字である。

 ワークスチームやカスタマーチームは実戦データそのものも商品のようなものなので問題ない。しかし、プライーベーターは資金に余裕がなければ死活問題になる。


「どっちにせよ勝たないといけないんです。うちは賞金ないと大赤字なんですから。宙港使用料もリフトトレーラーのレンタル料も出ません」

 言われると、彼らのほうがリスクを負っている。

「まあ、資材だけで済んでるっちゃ済んでるんだけど。それでも、だ。いきなりダブルエースのカスタマーチームがマッチメイク受けるとか考えられない」

「厳しいよね。運営もなんでこんなことするんだか。負け確定みたいな試合組んで」

「オッズ、すごいことになってるらしいし」

 エシュメールの投票権(チケット)買っているのは貢物気分のファンだけだろう。

「なに、騒いでんだって話。相手がカスタマーだろうがなんだろうが勝つしかないんだぜ? 次のメジャートーナメント出て優勝狙うんだろ?」

「はぁ? そんな大それたこと考えてないって。冗談はよしてくれ、パトリック」

「んじゃ、どうやってカフェの援助資金作るんだ? マッチ戦でちまちま稼ぐのか? オレたちに何年付き合えって?」


 色男の言っていることは間違いではない。カフェの経営を軌道に乗せるには結構な額の資金が必要になる。トーナメントでガツンと稼ぐのが手っ取り早い。


「収益体制を整えるには、今回レンタルで誤魔化した機材を購入しなくてはいけません。敷地も拡張しなくてはなりませんし、ゆくゆくはパティシエも増員しなくてはならないでしょう」

 ルオーが指折り数えて挙げ連ねていく。

「ざっくりでも数十万トレド(数千万円)の投資となります。優勝狙いですね」

「嘘だろ。ノービストーナメントじゃ駄目か?」

「それって優勝賞金は幾らです? さっき言った額に届きます?」

 比較にならない。

「十回くらい優勝したら」

「あのな、それだって期間考えたら年単位じゃん。馬鹿言うな」

「敗退して賞金ゼロよりマシだろうが」


 パトリックはともかくルオーまでとんでもない考えを持っているとは思ってもみなかった。オーサムは頭を抱える。


「オレとルオーでいいとこまではいける」

 色男は自信満々に暴言を吐く。

「だが、戦力差はいかんともしがたい場面があるだろう。お前たちもそれなりに戦えるレベルになれ」

「簡単に言わないでくれよ」

「弱音を吐くな、ストベガ。シュナイクもペルセ・トネーもティムニが手を入れてるだろうが。σ(シグマ)・ルーン学習も進んで、どんどん使いやすくなってるはずじゃん」

 否めない事実ではある。

「だからって、上の化け物連中と対等にやるのは……、厳しいって」

「トリプルエースやリミテッドの選手たちか、オーサム?」

「あいつら、腕前買われて企業に雇われてんだし、使ってる機体も試合用にチューンしてある。パイロットも整備士(メカニック)もクロスファイトを知り尽くしてる古参ばっかなんだよ」


 パイロットスキルだけでも格差がある。そこに機材の性能差や投入される新技術を加味すれば勝負にならない。総合力の違いはプライベーターと隔絶している。


「オレに言わせれば、選手は日常的に本物のビームを撃ち合ってるパイロットより落ちる。危機意識が違うから勝負勘は比べるまでもない」

 傲然と言い放つ。

「聞けば、シュナイクもペルセ・トネーも元はそういうパイロットに向けて、本場の新宙区で造られた一点物。十全に性能を発揮できる状態に近づけた今はメーカーの機体に見劣りしないはず。あとはお前らの覚悟次第だ。そろそろ腹決めろ」

「勝手すぎるぜ」

「パットが勝手を言うのは昔からです。でも、君たちの目標がカフェの経営改善で、それを依頼として請けている以上、譲歩はできないと思ってください」


 眠そうな男もいざビジネスの話となると妥協を許してくれない。フュリーたちと遊んでいるときの姿は面影もなかった。


「ですが、すぐにといかないのは理解してます。現在の状況は慣らしに最適なんです。最初からあきらめずに、本気で挑んでいってくれないと困るんですよ」

 相手が徐々に強くなっている状態を指しているようだ。

「わかったよ。本気なのはいつもだから、死ぬ気で掛かればいいんだろ?」

「気負わず行け。この段階で落ちるのは許容できる。自分の悪いとこを洗い出せ」

「許容って、ほんとに二人で勝てるってんだな」

「オレもルオーも全部を出してるわけじゃないってことさ」


 平然と言うパトリックをオーサムは信じられない思いで見つめた。

次回『ぬくもり感じ(5)』 「まさに賞金稼ぎ(プライベーター)というわけですね?」

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