ぬくもり感じ(2)
「これなら問題ないでしょう」
「ほんと、道具には頼るものね」
ケイティはルオーの言に頷く。
腰までの高さの箱型配膳ロボは最新式とは言いがたい。それでも数台入れただけで彼女一人分以上の働きをする。
メニューパネルと連携しているので、注文された商品をセットするだけで間違いなくテーブルに運んでくれる。客が席を立てば食器をアームで掴んで回収し、清掃アームでテーブル上を拭く。食器を食洗機にセットするまでを自動でしてくれる。
「厨房のレンタル自動調理器もルオーがオリガ仕様にソフトを調整してくれたから使えるようになったし」
「あれはティムニの仕事です」
基礎的な作業は任せられるようになった。
単純作業は機器に任せ、オリガは味のチェックと肝心要たる飾り付けに集中できるようなルーチンを組み上げた。生産性は数倍に跳ね上がっている。
「問題はレンタル料だけど」
そこが難点で導入できていなかったのだ。
「これくらいの客入りなら収支的に釣り合うと思うんですが」
「うん、ありがとね。初期費用だけこの前の賞金で賄ってくれて助かっちゃった」
「貸しただけですよ。チームのほうも火の車なのは変わりありませんので」
パトリックは快く、ルオーもちゃんと計算しながら借金に応じてくれた。
「パワーアップした分だけ消耗が激しくなる部分もあるんです。そこを手抜きすればまた負けが込むようになってしまうでしょう」
「チャルカが目をまわしちゃう」
「アームドスキンの自動整備機器となるとレンタルでも馬鹿にできません。頑張っていただくしかないでしょう」
全体に上手くまわるようになってきた。週末はまた混み合うだろうが、配膳ロボ増員の手配もしてある。不安がないとはいわないまでも目処はついた。
「落ち着いて試合に集中してね」
チームにも結果を残してほしい。
「店はどうにかなりましたが、お二人の子育てが終わったわけではありません。そっちはまだフォローがいるでしょう」
「でも、クゥがいるだけでずいぶん楽になってる」
「そうです? 子どもが一人増えただけな気がしなくもないんですが」
青年は迷惑じゃないかと心配げだ。
「案外気遣いできるのよ。ルオーには甘えているだけじゃない?」
「かもしれませんね。僕と会う前はどうしてたんだか」
「ずっと一緒ってわけじゃなかったのね」
その言葉が口を突いてでて驚く。ケイティは安心しているのだ。二人の間に割り込めないほどの関係が築かれていないことに。
(え、わたし? 意識しちゃってる?)
目の前に座っているのはいつも眠そうな冴えない青年だ。女性の目で見れば、バディのパトリックに比べると雲泥の差である。それなのに、いつの間にか目で追っていた。
「以前はたらい回しにされてたそうです」
猫耳娘が自由奔放すぎる性格の所為か。
「突拍子もないこと言い出すもんね」
「子どもなら面白がるでしょうが、大人はどうしても振りまわされてしまいますから」
「フュリーたちにちょうどいい感じ」
思い出し笑いをしているとルオーも微笑んだ。
(なんで、こんな笑い方できるのかしら?)
不思議な感覚に陥る。
(まるで似たような苦労をしてきた人みたい。外のアームドスキン乗りの人ってもっと物事に雑な印象しかなかった)
急にオーサムたちに雇用を持ち掛けたりして、彼も自由な性格なのかと思っていた。ところが、蓋を開けてみれば実に計画的に行動している。カフェの混雑対策もテキパキと調べて解消してくれた。
(普段どんな生活してるんだろう?)
宇宙生活者の普通がわからない。
(ルオーみたいにロジカルに思考できる人って、なにが起こるかわからない宇宙暮らしは向いてない気がする。どこかに落ち着くつもりないのかな? ……いけない)
膨らむ想像を慌てて打ち消す。自分の都合のいいように解釈している。本当は彼らなりの生活があるのだろう。時折り、届いたメッセージに困った顔で返事している様子を見掛ける。
(頼りにされてるのよね。だって、会って間もないわたしたちがこんなに頼りにしてるくらいなんだもの)
寄り掛かっていると楽なのだ。クーファが彼と一緒にいたがる気持ちが心底理解できる。任せていれば、なんでも上手くいくような気分にさせてくれる。
「あまりオリガさんの邪魔をしてはいけませんよ、クゥ?」
気に掛けては注意を与えている。
「でも、生クリームは多いほうがいいって言っても聞いてくれないのぉ」
「多すぎるわ! キロ単位の話をするんじゃない! だから自動調理器の設定をいじるな!」
「駄目ですよ。バランスが大事なのは味わった君が一番良くわかっているでしょう?」
クーファは「そうだったぁ」と舌を出している。
「ああ、早く帰ってきて、レンケ。前はもっと学校が長ければいいっていっつも思ってたのに」
「二人が帰るのを心待ちにするようになっちゃったわね」
「そうそう。早くこの娘の相手をしてあげてー」
姪っ子たちとの関係も良くなっていると感じる。前は忙しくて、時々我儘に苛立つことも少なくなかった。どうにか自制していたが、メンタルがヤバかった時期もあったのだ。
(子どもの扱いも慣れてくるものね。ルオーも参考になるし)
青年の懐の大きさを真似するようになったケイティだった。
次回『ぬくもり感じ(3)』 「ルオお兄ちゃん、今日ね」