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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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日向のような(7)

 チーム『レオレッタ』は『エシュメール』のシュナイクに向かった三機のうち二機を失い、残り一機でカシナトルドまで引き受けねばならない状況。リングアナはその間にスナイパー機が移動しているのに気づいている。


「試合展開は混迷を極めるぅー! 孤立するペルセ・トネーが落ちればまだ勝負はわかりません!」

 そう実況するが流れは変わっている。

「スナイパーが動いてる。これは……、間に合うわね」

「大股で移動するスナイパー機『ルイン・ザ』がここで一射ぁー! レオレッタを脅かすぅー!」

「たった一発で満足に動けなくなったわ」


 障害物(スティープル)を縫って一直線に走る青白いビーム。それが、ペルセ・トネーを攻めている二機のうちの一機のリフレクタに紫電をまとわせた。


「途端に動きが悪くなったぁー! そこへペルセ・トネーが反撃ぃー!」

「落ちるわね」


 ペルセ・トネーがブレードを叩きつける。リフレクタで受けるも、新メンバー加入後のエシュメールのアームドスキンは全体にパワーアップしていた。弾き飛ばされたところへビームランチャーで一撃を食らってしまう。


「こちらでも一機脱落ぅー!」

「勝負あり、だわ」


 後ろが気になるレオレッタ機はペルセ・トネーに押しまくられる。スティープルの影を使おうと試みていたが狙撃が左肩を貫いた。リフレクタが消え、正面からのブレード突撃が胸に決まった。


「また一機撃墜(ノック)判定(ダウン)! っと、あちらでも斬撃が決まった! レオレッタ全滅ぅー! チーム『エシュメール』の完勝だぁー!」

 一機も落ちていない。

「エースチームが惜しくも陥落ぅー!」

「というより、これがノービス2のプライーベーターチームの試合運び?」

「それほど巧みでしたか?」

 デラは平静ではいられない様子である。

「巧み? そんなレベルじゃないかも。前回の戦闘を布石にするとか低クラスのやることじゃない」

「どこまでが作戦だったのでしょうか。聞いてみましょう」

「興味深いわ」


 センタースペースに勝利チームが姿を現す。アリーナから歓声が湧き立った。前回からファンが付きはじめている。


「リーダーのオーサム・スリバン選手、おめでとうございます。今日の勝利はいかがでしたか?」

 誘導してみる。

「満足だぜ。一機落としてやったじゃん」

「そうですね。素早い反撃でした。あれはスナイパーとの連携ですか?」

「連携? まあな。狙えるところは狙っていけって話してた」

 上手く引き出せそうにない。

「ペルセ・トネーのストベガ・ラードナー選手。苦しい展開でしたが、どうにか持ち直しての撃破でしたね?」

「はい、耐えていれば援護が来るという打ち合わせはしていましたので、スティープルを使いながらではありますがどうにか」

「引き付けておくのがストベガ選手の役割だったのですね」

「そんな感じです」


 作戦の一端くらいは見えてくる。それなのに明言はしないあたりが小憎らしい。


「カシナトルドのパトリック・ゼーガン選手、ご活躍でしたね?」

 二機を落としている。

「オレに掛かればこんなもんさ。スマートな撃墜だったろう?」

「確かに。乱入タイミングもお見事でした」

「ヒーローはピンチにこそ映えるものじゃん? そのあたり、作戦どおりってとこだった。ファンの目を楽しませるのがオレの役割さ」


 早々にヘルメットを脱いで髪を掻き上げる。その様子はコクピットカメラから投影パネルに大写しになっているので、アリーナの一部で嬌声が響く。


「最後にルイン・ザのルオー・ニックル選手、今日も素晴らしいスナイピングショットでした」

 眠そうな顔に話し掛ける。

「僕は一機も落としてません。今日は話すこともないです」

「そうおっしゃらず」

「そうかしら。ちょっといい?」

 デラがインタビューに割り込んでくる。

「あの距離は計算?」

「距離です? あのくらいが限界でしょう。なにせ、僕はビームランチャーしか装備してません」

「ええ、とても珍しいわ。そして、とても興味深い動きもしてたわ」


 デラは突っ込んで訊く。面白い展開だったのでリングアナもそのまま割り込まないのが正解だと思う。


「あくまで支援役です。あるべき姿じゃありません?」

 淡々と述べる。

「全体を制御してたの、あなたじゃなくて?」

「まさか。スナイパーって目立たないのが正解です。いつも逃げ隠れしながら狙えるタイミングを探してるだけですけど?」

「よく言うわ。そうね、あなたが一番自分の役目を理解してる。そう思っていい?」

 含みのある問い掛けを投げる。

「僕ってそんなに変に見えます?」

「普通すぎて変」

「ちょっと心外です」

 そう言って相好を崩している。


 冗談で一旦途切れたので頃合いだと感じる。彼はタイムキープもしなくてはならない。


「勝利チームのエシュメールでした。アリーナのお客様、どうぞ拍手を」

 締めに掛かる。

「オレはよくカフェのほうのエシュメールにいるぜ。彼女たち、会いたかったら来てくれよな」

「ダイレクトなマーケティングですね」

「チーム提携カフェなんだ。よろしくちゃーん!」


 パイロットシートが突き出されて手を振るパトリックにアリーナの一部が湧く。イケメンアピールが著しい。


 リングアナは苦笑しつつ退場を促した。

次回『ぬくもり感じ(1)』 「お父さん?」

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