表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
166/353

日向のような(6)

「前回のマッチバトルで話題となったチーム『エシュメール』が一週間の沈黙を破り本日登場ぉー! 再びのエースクラスとの対戦に期待が募ります!」

 両ゲートから入場したチーム同士がセンタースペースへと向かう。

「どんなバトルを見せてくれるのでしょうか。楽しみですね、解説のデラ選手?」

「同じ戦法は通用しなくてよ。見せてしまったもの。相手チームはあの深緑のアームドスキンを自由にはさせないわ。エースクラスは伊達じゃない」

「では、一発勝負の奇襲だった前回と違い、今日は苦戦するとお考えですか?」

 リングアナは試合の要点を求めた。

「プライベーターとはいえ、しっかり五人を揃えてきてるチーム『レオレッタ』のほうに分があるのは変わりない。作戦は二つかしら。一つはスナイパーを足留めする。一つはスナイパー放置で残る三機を速攻で撃破する」

「スナイパーは後回しで撃破する作戦ですね。あるいは一機になったらギブアップするかもしれませんし」

「一機でゲリラ戦も考えられなくもないけど現実的じゃないでしょう?」


 試合展開を予想しているうちに両チームが揃い、開始のゴングを待つだけとなった。アリーナも息を呑む瞬間である。


「さあ、開始直後の駆け引きはどうなるのか? ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」

 掛け声を張る。

「おや、引きましたね、デラ選手?」

「スナイパーが動く時間を稼ぐつもりかしらね?」

「衝突まで時間が掛かってしまいます。これはエシュメールの作戦でしょうか」


 ビームを受け止めつつ後退していくエシュメール。そうはさせじとレオレッタのリーダーは合図を出して速力を上げる。


「おっと、ここで反転! チーム全員がスティープルに入っていくー!」

 障害物を盾にする。

「しかし、全体の動きは消極的。同じ作戦は通用しないとわかっているか」

「当然ね。でも、中途半端。スナイパーが深めに潜ってる他は浅めに位置している。あれじゃバラバラにされたも同然」

「各個撃破の危険にさらされるか。エシュメール、ピンチぃー!」


 視界に収まっているそれぞれのアームドスキンを狙ってレオレッタのメンバーが散った。二機と三機に分かれて障害物(スティープル)内部へと追っていく。


「これは効率を求めてでしょうか」

 ターゲットと定めたエシュメールの二機に迫る。

「集団で動けば連射の的にもなりやすい。スナイパーを利さないためでもあるわね」

「なるほど、深いですね。ターゲットとなったのはシュナイクとペルセ・トネーの二機。追い詰められていきます。おっと、ここで反撃だー!」

「出てきたわね、スナイパー。でも、近すぎる。あれじゃ見えてしまうもの」

 スナイパー機が牽制砲撃を入れつつ等距離を保っている。

「撃ってくる位置がわかっていれば防げますね。これは作戦ミスでしょうか」

「空気を変えようとして位置取り間違えた可能性があるわね」

「リフレクタを叩くのみで終わります。その間にシュナイクが攻め立てられるぅー!」


 一機がスナイパーに向かって動く気配を見せて砲撃を一身に受ける。残った二機でシュナイクを落としに掛かった。


「あっ!」

 デラがつい声をもらした。

「なんと、直撃を受けてるぅー! レオレッタ機、転倒ぉー!」

「い、今の……」

「スナイパーの一刺しでした!」


 スナイパー機がスティープルの影に入り際に一撃加えている。そのショットはリフレクタの端をかすめて脚に直撃していたのだ。機能停止を受けて転倒した一機にシュナイクが斬撃を加えて撃墜(ノック)判定(ダウン)を奪う。


「レオレッタに最初の脱落者ぁー! これはわからなくなったぁー!」

 意外な展開だった。

「迷うレオレッタ。ここでもう一機が出現。エシュメールのカシナトルドだぁー!」

「強敵と避けていた相手が来ちゃったわね。厳しいわ」

「これは防戦一方ぉー!」


 スナイパーを狙っていた一機に横ざまからカシナトルドが攻撃。迷っていた分だけ反応が遅れて呆気なくビームを受ける。二機目が撃破された。


「盛り返した、エシュメールぅー!」

 優劣が反転する。

「もしかして……?」

「どうなさいましたか、デラ選手」

「あいつ、わざと姿を見せてた?」

 女性選手は瞠目している。

「わざと、とは?」

「前回、見えない位置からスナイピングを決めたじゃない? その機体がチラチラ視界に入っていたらどう思う? 気になって仕方ないじゃない」

「集中力を失ってたと?」


 今日の試合ではスナイパー機が陽動を仕掛けたというのだ。自身が見える位置にいることで相手の集中力を切らし味方の援護をする。


「いわば撃たない援護ってとこね」

 デラが言及する。

「防ぐだけで無視すればよろしいのでは?」

「そうしたら撃ってくる。また、見えない位置まで下げて狙ってくるでしょうね」

「防ぎようがないじゃありませんか」

 そう聞こえる。

「ええ、この場で具体的な対策をって問われると挙げられない」

「それでは、この試合は?」

「もうレオレッタは手玉に取られてるわ」


 トリプルエースのチーム『ブル・アックス』のリーダー、デラ・グストミンともあろう選手が明言を避ける。実況に困るが、この見事な逆転劇の試合を担当するのは彼にも誉れである。


 リングアナは軽快に言葉を紡いだ。

次回『日向のような(7)』 「たった一発で満足に動けなくなったわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ