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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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日向のような(5)

 チーム『エシュメール』整備士(メカニック)チャルカ・トレッカは練習場のスタッフブースに入ってメンバーの動き、特にシュナイクとペルセ・トネーのデータ収集をしている。録画しておいて調整部分の確認作業をあとで行う。


(できてきてる)

 目視でも反重力端子(グラビノッツ)コントロールの切り替えがスムースになってきているとわかる。


 二機の戦闘力は明らかに上がった。移動時の機敏さは普通ではあるが、当たりにはすこぶる強い。リフレクタでビームを受けてもほとんど崩されない。逆に当たりに行くと機体の重さに相手が負ける。


(そうじゃなきゃ、この前の試合も負けてた)

 二人でエースチームの三機を相手にするなど前は無理だった。


 持ち堪えたからこそ勝利したのだ。格上相手に最短勝利タイムを叩き出した。


(でも、正直ルオーがなにをしたんだかわからない)

 彼女も俯瞰映像の録画を見ただけである。

(あ、もしかして……)


 クロスファイトの考察ページというのがある。五日前のエシュメールの試合のスレッドも立っていた。中身を読む。


「なんか、とんでもないもの見た気がする」

「あのモスグリーンだろ?」

「あんなの偶然じゃね?」

「馬鹿。偶然で起こるようなもんか。連射してるでもないのに」

「一発必中ってこれのことか」

「じゃ、なんだったんだよ」


 考察ページの常連でさえ混乱していると読み取れる。


「意識してやったんだ。これ、見ろ」

「なになに?」


 公開されている俯瞰画面。そこへルイン・ザの移動ルートが描かれる。


「開始と同時に走って逃げたように見える。でも、これ見たら横にまわり込もうとしてる。狙える位置に移動しただけ」

「確かに」

「だからって、あんな隙間から狙えるか? スティープルの配置は毎日変更されるんだぜ。コマンダーが前の試合で分析してたのか?」

「エシュメールにコマンダーなんかいねえよ。弱小プライベーターなんだから」

「よく見ろ」

「はい?」

「真っ直ぐ移動してない。所々立ち止まってる。探してるんだ」


 ルイン・ザはスピードを加減しながら移動し、ある位置で狙撃体勢に入っている。


「バトってる場所が見える隙間探してたどり着いたってわけ?」

「それだって開けてるんじゃないんじゃね?」

「計算したけど、せいぜいが30cm以下って感じ。ビームが一本どうにか通る」

「正気じゃない」

「その隙間に相手のアームドスキンが来るタイミングとかどうやって計るんだよ」

「それだけは俺にもわからん」


 その後は喧々諤々と続いているものの、まともな結論は出ていない。とにかく、これまでにない異様な試合が行われたというだけ。


(タイミングを読んだ。どうやって?)


 今日のルオーは二機を的にビームを撃つ係。リフレクタで受けて、即座に反撃に移れるよう反重力端子(グラビノッツ)を効かせる練習をしている。


(練習の日、初日はうろうろしてたけど次の日からずっとオーサムとストベガの動きを見てた)

 チャルカは思い出す。

(まさか、動きの癖を憶えてた? それに合わせて相手がどう攻め込んでくるかとか、押されていくかとか予測して?)


 バディであるパトリックの動きは頭に入っているだろう。プラス二人の動き方がある程度予測できていれば、どのタイミングで相手が隙間に入ってくるか計算できるかもしれない。


(それだって、とんでもなく難しくない?)

 難しいどころではない。神業に思える。

(普段、いったいどんな仕事してるの?)


 民間軍事会社(PMSC)だ。様々な依頼があるだろう。軍事なのだから偶発的にアームドスキン戦闘にもなるかもしれない。場合によっては戦争そのものにも参加している可能性がある。


(命懸けでアームドスキンに乗ってるから?)

 命のやり取りがない試合とはわけが違う。

(生き延びるためにすごい技を?)


 逆に、それくらいできなければ生き延びていられない場所に身を置いているのだとしたら。いつもは冷淡にコクピットに座って敵機を撃破している様子を想像して背筋が寒くなる。


「チャルカさん、そろそろ時間なんで引き上げます。……チャルカさん?」

「あ、ごめん。時間?」

「ええ、データ落として合流しましょう」

「はーい」


 ストベガのリフトトレーラーに乗り込んで本拠の倉庫に戻る。つい黙り込んでしまうが、元クラスメートのチームメイトはなにも言わない。


「カフェに行きましょう。今日も夕食の準備をしてくださっているそうです」


 ルオーの物腰は出会って以降、ずっと柔らかい。とても戦場で冷徹にトリガーボタンを押しているとは思えない。


「ルオ。お帰りぃ」

「お帰り。練習頑張った?」

「大変だったー?」

 猫耳娘と女の子二人に飛び付かれている。

「駄目よ、フュリーもレンケも。ルオーは疲れてるんだから」

「全然疲れてませんよ。だって僕、スナイパーなんであんまり動きませんから」

「サボってる?」

「そうそうサボってる。って、サボってるわけじゃありません。役割分担です」


 子どもたちを笑わせている。笑顔で抱え上げてテーブルに運んでいく。それだって見た目に反して力を使う。


(あたしたちが全然知らない一面を持ってるのかもしれない)


 チャルカはそう思うが、今は暖かな日向にいるような光景しか目に入ってこなかった。

次回『日向のような(6)』 「各個撃破の危険にさらされるか。エシュメール、ピンチぃー!」

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