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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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日向のような(4)

 夜になって店を閉めた頃にオーサムたちは帰ってきた。ケイティは歓迎するも、未だに腑に落ちない様子で会話も乏しい。


「ねえねえ、勝ったんなら喜べば?」

「んー……」

 チャルカが促している。


 クーファは嬉しげにルオーに抱きつきに行っている。眠そうな青年は微笑んで受け止めていた。


「今日の、なんなんだ?」

 オーサムがようやく口を開く。

「勝ったじゃないか」

「でもな、パトリック」

「勝ったが、今日のお前らは落第点だ。なにをすべきかわかっただろう?」

 こちらの青年は機嫌がよろしくない。

「なにをするかって」

「お前らは囮だ。相手を引き付けておくのが役割だ。ルオーが位置取りするまで受け止めておければいい。だったら、どうするんだ?」

「えーっと」

 ピンとこない様子。

「スティープルを使っての撹乱だろ? あんな真正面から受け止めてたら幾らももたん。相手を動かせすぎるとルオーのとこから狙うのもままならんじゃないか」


 それで余計に時間が掛かってしまったと言う。それを理解させるのに今日はなにも言わずにパトリックも付き合ったらしい。


「先に言ってくれよ」

 オーサムは非難する。

「言えば理解したか? 隙間を使って狙撃してくれると確信できたか? できないだろ」

「確かにそうだね」

「ストベガ、お前までもか?」

 嫌そうに鼻頭に皺を寄せる。

「考えてみなよ。あんなすごいショット見たことあるかい? 見せてもらわないと信じられないさ。だから、パトリックは苦労して二機も引き受けてくれたんだ」

「そっか」

「まったくだ。そうじゃなきゃ、オレはもっと動けて華々しい戦果をケイティとオリガとチャルカに見せつけられたというのに」

「お前が目立てなかったから不機嫌なのかよ!」


 思ってもなかった事実にオーサムがいきり立つ。ケイティは慌てて宥めないといけなかった。


「ともあれ、初戦は滞りなく勝利できたんです。祝いましょう」

 ルオーも仲裁する。

「フュリーとレンケは?」

「寝ちゃった。すごく興奮してたから疲れちゃったみたい」

「そうですか。では、大人は少しくらい羽目を外してもいいでしょう。飲みません?」

 アルコールを勧めてくる。

「いいねー。お祝い、お祝い」

「チャルカったら調子のいい」

「いいんじゃない。ほんとは材料用だけど、ちょっといいお酒開けちゃおうかな」


 オリガが厨房に入っていく。グラスとボトルを揃えてくると皆に注いでまわった。乾杯すると全員に笑顔が戻ってくる。


「スイーツに使うんだったら贅沢に仕入れてください。全部、僕が持ちますので」

 ルオーが真剣な顔で言う。

「そうはいかないでしょ」

「いえ、最高のテイストのためなら湯水のように使っても構いません」

「ルオーってほんとに美味しいものに目がないんだから」


(場が和んだ。気のまわる人がいると助かる)


 ケイティはグラスをあおる猫耳娘に慌てる青年を見つめていた。


   ◇      ◇      ◇


 ルオーが訪うと、週明けのポセの日だけあってカフェは閑散としている。すぐにケイティが気づいて彼とクーファをテーブルへと誘った。


「今日はチームのほうはいいの?」

「一日機体調整です。試合で改修後の問題の洗い出ししたんで時間掛かるでしょう」

 わからないにしても丁寧な説明を彼女は喜ぶだろう。

「そうなの。パトリックは?」

「息抜きに街へ。彼は閉じ込めておくと暴発するんです」

「へぇ、紳士なのに」

「相手によりますので、すごく」


 まだ味わっていないメニューがたくさんある。一度に食べられる量と時間は有限だ。中でもお気に入りをリピートするとなると幾らあっても足りない。


「ルオーはクゥと出掛けなくていいの?」

 気を遣われる。

「いえ、目的はあくまでエシュメールの存続です。賞金額がまだ大したことなくて援助にならない以上、僕がお金を落とさなくてはなりません」

「ここぞとばかりに落とすのぉ!」

「クゥもありがと。じゃ、どれにする?」

 メニューパネルを指し示す。

「徐々に攻めていきましょう。午後には学校が終わって援軍が到着します。それまでは持久戦です」

「フュリーとレンケが来るまで頑張るぅ。お勧め聞けないのは残念だけどぉ」

「クゥは二人と好き嫌いがマッチしてますもんね。では、今のうちにアルコールの効いているメニューから」


 ケイティはトレイで口元を隠しながら「ごゆっくり」と去っていく。楽しませられたようだ。


(ここのゆったりとした空気感が好きだなぁ)

 慌ただしさのない、今の感じがちょうどいい。

(流行るようになるとこうはいかないかもしれない。でも、現状でもケイティさんやオリガさんの負担が大きいしねぇ。機材を揃えたり人を入れたりして効率化すればフュリーたちの面倒を見ながらでも続けられる)


 彼女たちは本気で当てにしているふうではないが彼は本気だ。空気を壊さないような収益体制を整えるにはどうすればいいかと考えている。


(やっぱり、それなりに資金が必要だねぇ。試合組んでもらってもマッチ戦の賞金じゃチーム運営で消えていくだけ。トーナメントってのにも挑戦するしかないなぁ)


 いきなりは難しいだろう。彼の戦い方に慣れてもらうのもあるし、オーサムやストベガ自身も選手として強化せねば勝ち抜くのは困難だ。なにより持続性がない。


(いつまでもコッパ・バーデにいられないし)


 ルオーは時折り訪ねて最高のスイーツを味わえる環境づくりに頭を働かせていた。

次回『日向のような(5)』 「なんか、とんでもないもの見た気がする」

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