日向のような(3)
「がははは、敵前逃亡か!」
相手チームのリーダーに笑われる。
「負け続きで選手に逃げられ、助っ人メンバーには試合中に逃げられ、ほんとお前ら笑わしてくれるな」
「くっ、うるさい。ちょっとした手違いだ」
「手違い? 手違いであんな脱兎の如く逃げるか?」
(なんだよ、ルオーのやつ。偉そうに色々言ってたが、実は根性なしだったってか?)
オーサムは唇を噛む。
「もう一機はなかなかやるが、そう長くはもたんな」
パトリックは善戦している。
「あいつを呼び戻してくれよ、パトリック!」
「耐えろ。一分と掛からん」
「こっちのやつも一分ともたねえって言ってるぜ」
ストベガと二人で三機のアームドスキンを相手にしている。彼のシュナイクは以前に比べてパワフルで、至近距離からのビームにも耐えられた。しかし、反撃に出られるほどの余裕はない。
パトリックはリフレクタでビームの反動を逃がしつつ見事に立ちまわっている。驚くほど滑らかながら力の込もった斬撃で敵機を跳ね返してはビームを挟んでいた。しかし、撃破に至るほどではない。
(スナイパーなら距離置くのはわかるけど、狙える範囲じゃなきゃ意味ないし)
援護もない。
「また負けるの……、え?」
あきらめかけた瞬間、オーサムの前にいた機体が横からの直撃を受けて吹き飛んだ。
◇ ◇ ◇
ケイティは中継に見入っているも試合状況は思わしくない。障害物のないスペースで押しまくられている。
「これはチーム『エシュメール』、厳しいか!?」
リングアナの実況も辛い。
「このままではジリ貧だ! ……と思ったところで一撃ぃ!」
オーサムの相手していたアームドスキンが転倒する。そのまま動かなくなってしまった。
「今のはどこからー!」
吠えるリングアナ。
「横です。俯瞰を見てください」
「はいぃ? あんなところからぁ?」
「実はそうなんです。なにをしているのかと思っていたら、いきなり狙撃を始めて」
誰も注目していない場所が映し出される。
「ですが、解説のマイク選手、あの間にどれだけの数のスティープルがあるとお思いですか?」
「隙間もないほどに。なのに、実は隙間があったようです」
「そこを通したと?」
解説に入っている有名選手さえ驚きに染まっている。確かにそこには平らな金属柱に背をもたれ掛けさせたルイン・ザが両腕を突き出している。再びビームランチャーが発射されると、林立する障害物のわずかな隙間を縫って青白い光条がもう一機に当たった。
「ええっ!?」
「だから、ルオの勝ちぃ」
クーファは平然と言う。
敵が減ったパトリックが残った一機を攻め立てる。その間にもルイン・ザは次々とビームを撃ち、慌てふためく相手チームの機体を撃破していく。
「あいつは本物のスナイパーなんだよ。本物ってのはな、相手が絶対に手の届かない位置から完璧に貫いてくるシューターのことをいうんだ」
パトリックが自信満々に言っている。
彼は余裕で目の前のアームドスキンのリフレクタを持つ腕を押し退けると、左手のブレードを一閃させた。それで最後の一機が崩れ落ちる。
「チーム『エシュメール』、圧倒!」
終了のゴングが打ち鳴らされる。
「試合時間わずか一分十四秒の電撃的勝利ぃー! 驚きの復活劇だぁー!」
「凄まじいですね、あの選手」
「はい、今までに見たことのない試合展開でした。マイク選手はどう分析なさいますでしょうか?」
訊かれて言葉に詰まっている。
「あれをやられると僕でも対策はできないでしょう」
「まさか、リミテッドクラスのチーム『タイタロス』リーダー、マイク選手でもですか?」
「無理ですよ。ほぼ……、いえ、全く見えていないでしょう。それなのに、いきなりビームが飛んでくれば。来ると思っていないと防ぐも躱すも不可能に近いです」
(ルオーはわかってやってた?)
一瞬迷う。
(狙ってじゃないとできるようなことじゃないと思う。だとしたら?)
「それでは勝利チームインタビューを始めたいと思います」
何度かしか観たことないが、試合に勝たないと選手は紹介もしてもらえない。
「まずはオーサム・スリバン選手、見事な勝利でした。作戦勝ちでしたね?」
「え? あ、まあ勝てて良かったなと」
「苦戦している口振りでしたが、なかなかの演技でした。それも作戦の内ですよね?」
しどろもどろに答えている。
「ストベガ・ラードナー選手もオーサム選手との連携で相手を釘付けでした。かなり訓練なさったのでは?」
「はあ、することはしていましたが」
「格上のチームながら相手は為す術もありませんでした。努力の結果ですね?」
「ええ……」
一番戸惑っているのが二人なのは長い付き合いでわかる。なにをしゃべっているのか憶えていないかもしれない。
「で、こちらが新しく登録なさった……」
「パトリック・ゼーガンの名を忘れられないだろう、アリーナ客席の美しいご婦人方。今日の勝利は皆に捧げよう。オレの活躍と顔を目に焼き付けて帰ってくれ」
いつもの調子で華やかに笑う様子が映っている。外に姿を現すと、周囲に向けて投げキスを送っていた。
「もうひと方は、ルオー・ニックル選手」
「僕のことは気にしなくていいです」
「ですが、撃破率はルオー選手がダントツです」
「相手選手を受け止めてくれていたメンバーのお陰ですから」
(いつもどおり。あんなすごいことしたと思えない)
ケイティはあまりに緊張した様子のない青年に呆れた。
次回『日向のような(4)』 「ルオーってほんとに美味しいものに目がないんだから」