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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
160/350

当たった先は(6)

 中古市場では元々の設計図面など入手できない。実際に触れた結果の構造モデルを前に検討会をする。


『一点物のアームドスキンを組むにしたって流行り廃りがあるー』

 ルオーたちはティムニのアバターの説明を傾聴する。

『最近の流行りはライト&コンパクト。イオン駆動機の普及に合わせて軽量化で機動性を増す方向ぉー』

「理に適ってますね」

『んで、周期的に変化する流行りの中にはヘビー&タフもあったー。ここにあるのはその頃の機体だねー。同時期にはライト&シャープなんてのもあるー。だいたい八十年くらい前かなー』

 予想外に古いアームドスキンだった。

「よく、これだけ維持できてましたね」

『当時のそのまんまなのはたぶんフレームだけー。それ以外は劣化で換装してると思うー』

「うん、うちで引き取ってからも対消滅炉(エンジン)からして積み替えてる』


 安物を買い叩いたはいいものの、対消滅炉(エンジン)の規格が現在とは違ったという。なので、別口で中古品を仕入れて載せたらしい。


『駆動機周りもかなり手を入れてるんじゃないー?』

 整備士(メカニック)のチャルカは頷く。

「装甲周りは原型保ってるけど、中身はかなり手を入れてる。パイロットの要望とかバランス考えて」

『きっと、重たいを動かないと勘違いしてチューニングしちゃったー。それじゃ、ヘビー&タフのアームドスキンはまともに動かないー』

「もちろん軽量化も考えて改修していったけど。リングみたいな場所じゃ機敏に動けないと火力で圧倒される」

 動きが悪いのを軽量化で解消する方向性。

『コンセプトが間違ってるー。このタイプの機体は重くなってもいいからパワーアップしないと駄目ぇー』

「いや、だからパワーアップしても動きが悪かったんだって。試してる」

『それは腕不足ぅー。ヘビー&タフは状況に応じて反重力端子(グラビノッツ)出力を変えながら乗らないといけないのー』


 指摘されたオーサムは仰け反っておののいている。まさか、乗り方を間違っているとは思っていなかったらしい。


「そ、そこまですんの?」

 伺いを立てるように訊く。

『動きまわるときは強くして速くー、白兵戦になったら弱くして重くー。もっとシビアにコントロールしないと良いとこ出ないー』

「そんなん、めっちゃ難しくね?」

「もちろん、実戦中に機動しながらずっとそんなことするのは気がまわりませんね。でも、練習で動作と関連付けられたらσ(シグマ)・ルーンが学習します。セミオートでコントロールできるものですよ」

 普段からそういう訓練をするものとルオーは教える。

「知らなかった。そこまでするもんなんだ」

「昨今のアームドスキンはライト&コンパクトが主流なんで、そこまで気にしていないでしょう。でも、ギリギリまで突き詰めていくと必要になる技能ですね」

『ルオーもパットもそのへんはできてるー』


 搭乗訓練時のσ・ルーン学習も大切なのだ。むしろ、そこに重きを置く考え方もある。ルオーが空き時間を使ってこまめに慣熟飛行をするのはそのためである。


「だとすると?」

 パイロットはもちろん、整備士(メカニック)も考えを変えなくてはならない。

『軽量化のためのタイトシリンダは全換装ぉー。ファットタイプにしてパワーアップぅー。合わせてパワーラインも強化ァー』

「ひー。合う型式探すだけで何日も掛かる」

『型式、ピックアップするから揃えてー。手順も出したげるー』

 ティムニが作業の簡略化をしてくれる。

「そんなお金もないし」

『あれを部品取りに使うー』

「サイノスを?」


 アバターは残っているもう一機を指さしている。解体して二機に組み込むというのだ。


『脚とか下半身のを腕や上半身周りにー。足りない分は機材の山から探すー』

 今までパワーアップを試みたときのものが残っているはず。

「どうにかなりそうですね。問題は労力のほうですが」

『頭使えないのは力使えー』

「俺達のことか。はいはい、わかりましたよ」

 パイロット二人はやる気になったようだ。

「では、僕たちも手伝いますか。ティムニ、指導を。パット、カフェのほうを救うのが君の役目だとわかっていますよね?」

「ああ、彼女たちを激務から解放しなければならない。そのための努力なら惜しまないぞ」

「ええ、そうしないとデートに誘う暇も作れません」


 相方の扱いは簡単だ。本人もわかっていて動く。パトリックの女性に対する献身の凄まじさには感服する。


「頑張ってる?」

 総力戦に掛かっているとケイティがやってきた。

「もちろんだ。君のためならこの身が痩せ細ろうとも勝利を目指してみせよう」

「痩せちゃ困るから差し入れよ。みんなで召し上がれ」

「まさか、オリガさんのお手製ですか?」

 ルオーはきっぱりと作業をやめて吸い寄せられる。

「馬鹿、今放すな! おい、俺一人じゃ支えられないぜ」

「旬を逃してはならないのです。ましてや油断すれば全てクゥのお腹の中に」

「ルオはお仕事しててもいいよぉ。食べるお仕事はクゥがしててあげるぅ」

 油断も隙もあったものではない。

「待つんです」

「いや、お前が待て!」

「ほらほら、喧嘩しない。ほんと、男たちってフュリーやレンケと変わらないんだから」


 ころころと笑うケイティを余所に、ルオーはクーファの魔手からスイーツを守らねばならなかった。

次回『日向のような(1)』 「民間軍事会社(PMSC)ってそんなに儲かるのか」

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