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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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当たった先は(5)

 契約を交わしたルオーたちは翌日、チーム『エシュメール』の本拠の倉庫に行く。勝てる状態にするには、まず機体の性能に合わせた戦術や連携を編まねばならない。


「最悪、オレとお前だけでも勝てるんじゃね?」

「そうもいきません。レギュレーションを調べたんですが、かなり制限されます。特に僕はスナイパーランチャーも使えません」

「そら、マズいな」

「はい、ビームランチャーやブレードはクロスファイトの規格のものしか使ってはいけないそうです。あと、試合場(リング)の構造的に一般的な環境とは異なる点が幾つも」


 アームドスキン本体のスペックに制限がない分、武器や環境で選手ごとの差を埋める措置がとられている。面白半分に観ていると気づかないが、実際に参加するとなると色々と枷になるルールが多い。


「あの二人の機体をオレたちについてこれるレベルに仕上げるしかないな」

 彼らの試合を観てみると動きにぎこちないところが多すぎた。

「腕はそれほど見劣りする感じじゃないんですよね」

「機体も悪くないってチャルカちゃんが言ってたけど、あれはなんかあるぞ」

「問題を解決するところから始めないといけなさそうです」


 カフェ『エシュメール』にほど近い街外れでオートキャブを降りると倉庫が立ち並んでいる。主に本来の用途である商品の集積および発送に用いられているが、一部は作業場に使われている様子で機械音が響いていた。


「おっ、来たな」

 確認する前に中から声が掛かる。

「こちらでしたか。似たような運用されている倉庫が多くて迷いそうでした」

「俺たちと同じようなプライベーターが結構入ってるからよ。アームドスキンみたいなものを置いて整備できるスペースなんて倉庫くらいしかないし」

「だとしても、雑然としてんな」


 パトリックが指摘したとおり、倉庫の内部は資機材の山だ。どれがなにに使われるのかも当人たちにしかわからなような状況である。


「整理してる暇なんてないの。こいつらに任せると肝心なものが出てこなくなるんだから」

 チャルカが唇を尖らせて文句を言う。

「とはいえ、君の繊細な指が掃除などに費やされるのは認め難いな。人を雇うことをお勧めする」

「そんな金銭的余裕もないの」

「もっともです。これだけ揃えるのにどれほど資金を費やしたか」


 物の量が半端でない。が、アームドスキンを運用するには最低限か、足りないくらいだとルオーは思った。パトリックは以前から人任せで関心がないだけである。


「ローンでピーピー言いながらどうにかしてるの、わかってくれる?」

 主に彼女が苦しんでいるようだ。

「そのうえで勝てるような機体作りですか。難しいですね」

「もう、泣きそう」

「でも、勝たねばなりません。なにから始めましょうか。まずは見せていただきます」


 倉庫内には三機のアームドスキンが基台に収まっている。残り一機は脱退したというメンバーのものか。放置されているふうなので推察できる。


「失礼しますよ」

「あたしが説明してあげる」


 一緒にスパンエレベータに乗って上がる。一時間くらいを掛けてオーサムとストベガの乗機を隅々までチェックした。正確にはσ(シグマ)・ルーンカメラに読み込ませていく。


(僕も整備知識があるわけではないからねぇ)

 言われたとおりにしただけである。


「どうだ、俺のシュナイクは? 結構意見して仕上げてもらってんだぜ」

 オーサムが身を乗り出してくる。

「戦闘のプロの目から見て、ぼくのペルセ・トネーは改善できるんでしょうか?」

「待ってください。結果は彼女から聞いてもらいます」

「ティムニぃ」

 クーファが呼ぶと、集まったテーブル上にピンク髪の3Dデフォルメアバターが躍り出た。

『はいはーい、チェック完了ぉー』

「え、なんだこれ?」

「なになに? 可愛い」


 チャルカたちから見れば予想外の登場だろう。ルオーにアームドスキンの知識があると思い込んでいたはずである。


「ライジングサンの操船AIです。機体整備など、機材一般の運用は彼女任せなんですよ」

 事実を告げる。

「そんな優秀なAI使ってるの? さすがプロはすごい。うちのは機体改修と整備補助でいっぱい」

「ティムニは特殊ですので。そういうものだと思ってください」

「で、どうなの?」

 直面する問題が大きく、興味の的が彼女に向きすぎないのは助かる。

『面白いもの掘り出してきたんだー』

「掘り出して? 中古市場で見つけたアームドスキンだけど」

『きっとゴート宙区からの流出品。一点物の機体ねー』


 思わぬ結果に皆が驚く。空いた口が塞がらない様子で静かになってしまった。


「ほ、本当? 新宙区製って、そんなすごい機体だった?」

 チャルカは非常に嬉しそうだ。

『そんなすごくないー。あそこで一点物ってとりわけ珍しくもないからー。どっちかっていうと、そのへんの技術屋が面白半分に組み立てたようなアームドスキンがいっぱい出回ってるー。しかも、かなり古いものみたいー』

「え、そうなの?」

「期待しちゃったじゃん」

 メンバーはコケている。

『だからって悪いものじゃないー。チャルカが悪くないって言ったのもほんとー』

「そうだよね。あたしの目に狂いはないよね?」

『でも、今のまんまじゃ本来の性能さえ出てないから経験不足ぅー』


 撃沈した整備士(メカニック)をルオーは慰めねばならなかった。

次回『当たった先は(6)』 「そ、そこまですんの?」

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