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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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当たった先は(4)

「ご覧のとおり、僕もアームドスキンパイロットです」

 ルオーは頭のσ(シグマ)・ルーンを指で叩いてみせる。

「実は『ライジングサン』という民間軍事会社(PMSC)を経営していまして、パイロットも兼務しています」

「うわ、社長か。オリガ、接待接待」

「わ、わ、なに食べる? なんでも出すよ」

 皆が慌て出す。

「残念ながら支援のお話ではないんです。なにせ、うちも共同経営者ふくめ三人の零細ですから」

「おー、ビビった」

「パイロットとしてならお手伝いできるという意味です。もちろん機体も持ってますし」


 チーム編成に不安があるなら協力すればいい。単純な話である。


「悪くないな。最悪、ソロに鞍替えしてそれぞれ稼ごうかと思ってたくらいだから」

 悩んでいるふうだ。

「それも厳しいって。低ランクからのスタートじゃ、マッチメイクしてもらっても賞金が大きく下がるよ」

「チームとしてなら悪くはないのですね?」

「ノービス2だからマッチ戦でも多少は色の付いた賞金になるんだ。協力してもらえるのかな?」

 ストベガが頼んでくる。

「ただし、慈善事業とはまいりません。おわかりだと思いますが、機体の運用費用も馬鹿になりませんので」

「だよな。俺たち、相場知らないけど契約料金(フィー)って高いのか?」

「出せと言っても出る金額じゃありませんよ」


 温情価格にするのは簡単でも、そういう前例を作るのはよくない。頭の回る者なら記録を漁って買い叩きに来る可能性もある。


「なので、こういう契約はどうです? 賞金の50%を提供してもらいます。成功報酬ってやつです」

 勝たないと料金が発生しない契約である。

「それで頼む!」

「ちょっと待って。それってズルくない? 成績不振であえいでいるのに契約メンバーに成功報酬しか出さないって」

「言ってもよー。オリガは固いんだよ。申し出てくれてんのに」

 パティシエは曲がったことが嫌いなようだ。

「もちろん、タダ働きするする気なんてさらさらありません。協力する以上は勝ちにいきます」

「そんなにいい腕なの?」

「そこまでは。でも、戦闘に関するノウハウがあります。コンサルタントとしてアドバイスするのも可能です」


 やる以上は勝利に向けて最善の努力をする。成功しないとカフェ『エシュメール』が存亡の危機に陥るのだ。手加減などしていられない。


「それならいいかも。学生気分でバトルゲームしてたこいつらに本物を叩き込んで強くしてやってくれる?」

 オリガも折れてくれた。

「優しいんですね」

「そ、そんなんじゃないんだから。元クラスメートとして不甲斐ないこいつらをどうしかしてくれるとありがたいなって」

「そういうことにしておきましょう」


 自身も難しい状況にありながら友人の将来を慮っている。彼らの友情が心地よくもあった。


「さて、じゃあもう一人巻き込むとしましょうか」

「パッキー、呼ぶぅ?」

 相方に呼び出しを掛ける。


 近場でナンパでもしていたのか程なく駆け込んできた。息せき切っているパトリックを手招きする。


「珍しいじゃないか、お前が美人を見つけたから急いで来いって言うなんて」

 目の色が変わっている。

「おお、でかした! お嬢さん方、オレはパトリック・ゼーガン。相棒が迷惑でも掛けたかな? 美しいお嬢さん方をデートに誘えば埋め合わせになるだろうか」

「美しいだって。えー?」

「そんなぁ」

 オリガとケイティは照れている。

「君もだ。可憐なお嬢さん」

「あたしも? うっそー!」

「嘘じゃありません。僕の知ってるかぎり、彼は女性への褒め言葉で嘘はつきませんから」


 整備士(メカニック)らしく作業用オーバーオール姿のチャルカは自分を勝手に枠外だと思っていたらしい。手の甲にキスを送られると顔を真赤にしている。


「なんだ、この色男は」

 オーサムは目を白黒させている。

「うちの共同経営者です。このとおり、女性にはだらしがありませんけど腕のほうは確かですのでご心配なく」

「マジか」

「パット、君なら彼女たちの窮状を見過ごしたりはできませんでしょう? 仕事を請けたんですが協力は惜しみませんよね?」

 念を押すまでもないような気がする。

「無論だ。なんでもしよう」

「仕事の内容は選手としてリングに上がることです」

「ほほう、勝利を捧げればいいんだな? 実にオレにふさわしい仕事だ」

「主に賞金を捧げてくださいね」


 これで四人。頭数として足りていると言い難いがどうにかなるだろう。正直、コッパ・バーデのクロスファイトの実情がわからない。


「もう一人、都合するべきでしょうか?」

 当事者に尋ねるのが早い。

「いや、四機揃えば勝てなくもないと思う。ワークスチームなんかはきっちり五人で来るけど、プライベーターは案外雑だったりするからね。三人とかそんなチームもちらほら」

「なるほど、問題ありませんね。では、勝利に向けて作戦を練るとしましょう」

「おー、本格的」

 ケイティたちも感心している。

「その前に次はこのタルトをお願いします。栄養補給しないと勝負になりません」

「えーよーほきゅー!」

「こいつら、大丈夫か? 若干不安になってきたぞ」


 オーサムの言葉を余所に、ルオーは目の前のパフェに勝利するのに全力だった。

次回『当たった先は(5)』 「問題を解決するところから始めないといけなさそうです」

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