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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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当たった先は(3)

 他のお客も()け、話し込んでいると新たな人物がテーブルにやってくる。その女性もまだ若く同年代に見えた。


「戻ってこないと思ったらあんたたち? あ、違った。お客さんもいるじゃん」

 さばけた口調の彼女はコックコートを着て、トレイに注文した品物を乗せている。

「ウチに給仕までさせんなって」

「すみません。僕がお引き止めしたんですよ。こちらにお願いします」

「もー、気を遣わせちゃってさ」

「あなたがこの店のパティシエですか。大変結構なスイーツをありがとうございます」

 感謝を述べると照れで頬を赤くしている。

「え……、そ、そう?」

「見てのとおり、方々を行き来しています。これほどの逸品にはなかなか出会えません」

「そんなに褒められると困っちゃうなー。サービスしよっかな」

「とんでもない。適正な対価でお応えしないわけにはまいりませんよ」


 お世辞を言ったつもりなど微塵もない。本心から素晴らしいと思っている。


「失礼ですが、あなたはレンケのお姉様でしょうか?」

 とても似ていた。

「あー、ちょっと違う。この子の伯母に当たるの」

「そうでしたか」

「よく似てるでしょ。いっつも言われる」

 どうやらこちらも「お姉ちゃん」らしい。

「いつもみたいにフュリーとレンケがお邪魔しちゃったみたい。妙に懐いてて。それで事情をお気に掛けてくださってるんだけどいい?」

「別に。変な話じゃないし」

「実は……」


 それほど複雑な事情ではなかった。ケイティとシェフのオリガ・ストーヴェンは幼馴染。家族ぐるみの付き合いだった。

 フュリーとレンケの両親同士も幼馴染で仲が良かったという。ところがある日、共同経営していた運送業の航宙船で事故を起こしてしまう。二人は他界した兄夫婦に代わって残された女の子を引き取って育てているそうだ。


「うちもそんなに裕福ではなかったし、国の福祉制度も親類がいるということでそれほど手厚くなくって」

 保険金があるが、そう長く持つものでもない。

「だから、オリガとわたしでこのカフェ『エシュメール』を始めたの。ちょうど彼女が夢見ていた菓子職人の修行をしていて腕前を認められてたからなんとかなるかと思って」

「あまり思わしくないと?」

「週末はまあまあなんだけど、見てのとおり平日はね」


 今日はミモニーの日。週明け二日目とあっては普通の勤め人は仕事に励んでいる時分だ。呑気にグルメ探訪などしているのは週感覚に乏しい彼らのような稼業くらいであろう。


「コッパ・バーデの風潮として嗜好品の売れ行きはイマイチですか」

 なくては困るものではないので週末の贅沢というところ。

「軌道修正すべきなんでしょうけど、このとおり小さい子を養おうとすると時間が自由にならないと困るの。いつ調子を崩すかわかんないし」

「学校任せともいかないのでしょう」

「なんか身動き取れなくなってずるずると続けちゃってて」


 子ども合わせの生活をするには女手一つでは大変だと思う。各種制度も無くはないらしいが、どうしても身寄りのない子を優先せざるを得ない。フュリーたちのように身内が面倒見れるのならば手厚くとはいかない。


「気持ちはわかります。ですが、個人的にはこの店を閉めてしまうのは反対です」

 断言する。

「これほどの絶品を出す店などそうはありません。必ずや人気が出るはずです」

「あまり人気が出ても困るのよ。現状、オリガが一人で厨房まわしてるから週末なんて手が行き届かなくて。この十席を埋めるので精一杯」

「設備をこれ以上充実させる資金に困っているのですね?」

 話が見えてきた。

「そこで俺の出番ってわけ」

「クロスファイトで一発当てるって件ですか」

投票権(チケット)でなく選手としてな。トーナメント取ったりすりゃ大きいからさ」


 オーサムとストベガ、チャルカはケイティたちのクラスメートだったそうだ。三人とも、あるアームドスキン関連の会社でテストパイロットと整備士(メカニック)をやっていたが、二人の窮状を聞くにつけ選手に転身したという。


「会社のほうで選手登録できなかったんです? 確か、企業チームも少なくないと聞いたんですが」

 ワークスチームというのがそうだ。

「どこの会社もチーム組めるわけじゃないって」

「ぼくたちのいたところのようにパーツだけを扱う会社ではチームの運営資金なんて夢のまた夢なんだ。だから、飛び出してチームを組んだんだけど」

「成績が今ひとつ振るわないでいると?」

 図星だったか顔をしかめている。

「機体は悪くないの。悪いのはこいつらの腕。だらしないんだから」

「そんなことないって。会社が引き止めるほどだったんだぜ。お願いしてもチームは組んでくれなかったけどよ」

「無理だよ。ぼくたちもアームドスキンを調達しただけでローンまみれじゃないか。返済で手一杯になってちゃ意味ない」


 そこへ成績不振に伴いメンバーが抜けてしまったのだという。チーム戦のレギュレーションは五人まで。それが四人からとうとう二人にまで減ってしまって首がまわらない状態らしい。


「待ってろ。なんとか伝手を使ってまた人数集める……」

「お手伝いしましょうか?」


 ルオーは助力を申し出た。

次回『当たった先は(4)』 「成功報酬ってやつです」

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