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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
犬も歩けば棒に当たる
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当たった先は(2)

 そのカフェ『エシュメール』の女性は子どもたちの母親というには若く見える。とはいえ、ルオーたちと同年代で五、六歳の子どもがいても変ではないので一概に否定できない。


「すぐに新しいものを」

 取り繕おうとしている。

「いえいえ、別のものを注文しようとしていたところなのでいいですよ」

「でも、それだと自動で決済しちゃうんで」

「構いません。とても結構なものをいただいたので、追加する気満々だったんです」


 本心から言う。クーファなど、その子に「次、どれがいーぃ?」と訊いている。彼もお勧めを尋ねるべくメニューパネルを女の子に向けた。


「僕はルオーっていいます。ウサ耳の彼女はクーファ。君はフュリーっていうのです?」

 少女に尋ねる。

「うん、フュリー。あの子はレンケ。お姉ちゃんはケイティお姉ちゃん」

「なるほど、そうなんですか。すみません、個人情報を」

「ううん、こっちこそごめんなさい。全然見知りをしない子たちなんで」


(「お姉ちゃん」ねぇ。つまり母親ではないってことかぁ)

 言葉の端から察する。


「よろしければ、このままでも構いませんでしょうか?」

 提案する。

「大変美味しかったのでもっと色々と試したいのですが、いかんせん僕の胃袋にも限界があります。彼女たちに協力していただくとより多くを味わえるんじゃないかと」

「ほんと? ご迷惑じゃなければ。この時間帯はこの子たち、暇してて」

「わかりました。フュリー、決まりました?」


 迷っている女の子に次の注文を任せ、厨房の様子を窺うもそれほど人の気配も感じられない。少女二人の親はどこにいるのかと訝しく思う。


(親類って感じもする。フュリーって子はケイティさんと面影が似たところあるし)

 推察する。

(女の子二人は別にしても、彼女のほうも屈託がなさすぎるんだよねぇ。僕がσ(シグマ)・ルーンを着けてるのを気にもしていなさそうだし)


 フィットスキンにσ・ルーンでは一目で宇宙生活者でアームドスキン乗りだとわかる。比較的、荒くれの多い職種だけに小洒落た店では白い目で見られることも少なくない。クーファが多少緩和しているにしても、全くというのは珍しい。その疑問はすぐに解決した。


「ケイティ、なんか食わしてくれよ。腹、ペコペコなんだ」

 二人の男性と一人の女性が店内に入ってくる。

「だから、エシュメール(うち)は食堂じゃないって言ってるじゃない。食事なら、そのへんの店で済ませてよ」

「いいじゃん。オリガのメシ、美味いんだから」

「そういう問題じゃない。今日はいいけど週末は避けてね」


 三人は明らかに知り合いである。常連より親密さを感じた。もっと古くからの縁なのだろうと思える。


「ああ、フュリーとレンケは今日もお客さんを捕まえてるんだ」

 こちらを見て言う。

「いつものことなんですね。だったら安心しました」

「でも、膝にまで座ってるのは珍しいかな」

「そうなんですか」


 男性二人も頭にσ・ルーンを装着している。ルオーのと同じ、パイロット仕様の高度なものだ。なので、店員の女性も子どもたちも彼に壁を感じさせないのだと理解する。


「旅の人?」

 女性が隣のテーブルに掛けながら、風体を見て尋ねてくる。

「はい、今日着いたばかりです」

「それでエシュメールを見つけるとか鼻が効くのね?」

「偶然です。僥倖を味わっていたところですよ」

 言葉遊びに彼女も笑っていた。

「ごめーん。あたし、チャルカ・トレッカ。見てのとおり、整備士(メカニック)してるの」

「やはりそうでしたか」

「こいつらはオーサムとストベガ。あんたと同じアームドスキン乗りね」


 ルオーが名乗ると、男たちはオーサム・スリバンとストベガ・ラードナーだと返してきた。パイロットが二人に整備士(メカニック)という組み合わせは変ではないが、街中でそうそう出歩いているものでもない。普通はセクションが違う。


「二人は選手なのよ」

 疑問に感じていると察したようだ。

「聞いたことない? クロスファイト」

「知ってます。そうでした。コッパ・バーデ、それで聞いたんでしたね」

「気づいた?」

 依頼を受諾したとき、どこかで聞いた国名だと思っていた。


 星間銀河圏で『クロスファイト』というアームドスキンの実機戦闘競技が大規模に行われている場所は三ヶ所。星間管理局が本部を置く主星メルケーシン。その他にピサナンと、ここコッパ・バーデである。人気にあやかって開催している国も出てきているが、それほどの規模には至っていない。


「うちのチームは名前が『エシュメール』。ここと一緒なのだよ」

 自慢げに言う。

「ご縁があるんですね?」

「宣伝目的。見てわかると思うけど、あんまり流行ってなくって」

「ひどい。頑張ってるのに。チャルカのとこだって宣伝になるほど勝ってないじゃない」

 応酬になるが、それだけ気の置けない関係性なのだと感じられる。

「それ言う? 今に見てなさい……、って言いたいところだけどどうしたもんだか」

「それなんだよな。一発当ててこの店を大きくしてやろうって算段だったのに」

「なにか事情がお有りなんですね。差し支えなければ伺っても?」


(この店が流行ってない理由とも関係ありそうだしなぁ)


 ルオーは俄然興味が湧いてきた。

次回『当たった先は(3)』 「別に。変な話じゃないし」


※ゴールデンウイーク更新を終了します。明日よりはまた一回分更新となります。

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