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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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旭冴え(5)

 ムザ隊を要としてきたアデ・トブラ国軍のパイロットは反射的にルオーとパトリックの進撃を阻もうとする。カシナトルドが一機とブレードを交えながらもう一機のビームを躱して受け止める。

 しかし、そのときには別のゾフリータ数機がルイン・ザへと迫っている。スナイパーの弱点ともいえる距離に入っていた。それでもルオーは怖れもしない。


(この距離も僕の間合いなんだよねぇ)


 ビームにビームをぶつけて打ち消すと、反動でズレた砲口そのままに一射を入れて直撃させる。その隙に近接してきた敵機のブレードは機体をロールさせて躱した。

 逆さになったルイン・ザで通り抜ける背中に一撃。三機目のブレード突撃をスピンしつつ逸らし、左手のランチャーを忍び込ませてトリガー。爆散する前に逃げる。


「貴様、それは!」

「これが僕の答えです。ビームランチャーで白兵戦だってできるんですよ」

「馬鹿な!」


 信じられない光景だったのだろう。スナイパーに特化したがゆえに照準に集中するのが癖になる。なので、機体を激しく機動させることなど論外の行為。普段からそんな訓練などしないので実戦でも当然できない。


(ところが、なぜか僕にはできてしまう。狙うことじゃなく撃つことに集中してるからかなぁ)

 生身で一度も練習したことのない機動が当たり前に可能なのが不思議である。

(人間は空飛べないから飛行なんて実機訓練で意識付けするもんだから? でも、地上でだってできるのが説明できないんだけどさぁ)


 ルオーはシンプルに人間とアームドスキンの構造の違いから来るものだと思っている。パトリックは逆転親和性がどうとか言っていたが、できるものはできることとして受け止めていた。


「一人でできることを増やして短所を補うことにしました。進化でしょう?」

 シューターの一形態だと思っている。

「それは誰にでもできることではない」

「できますよ、きっと訓練すれば。しなかっただけでしょう? 最初からスナイパーを選ぶ人なんていません。訓練の中で長所として見つけただけです。マルチプレイヤーからの分化なはず」

「く……」

 心情は読める。

「役割の中で下に見られることが多くなる。それはわかります。ですが、そこで卑屈になってはいけなかったんです」

「卑屈だと?」

「彼らだって苦しかったんです。自分にできない狙撃(こと)をやってみせるあなた方が羨ましかった。自分を誤魔化そうと皮肉を言っただけ。人間の弱さをそのまま浴びて卑屈になったのがいけない」


 わかっていても寛容になるのは容易ではない。それでも手を携える相手を間違ってはいけない。


「無理解を耐えろと言うか?」

 ルオーの射線から機体を外しながらムザが言う。

「逃げです。手を差し出すのは前衛のパイロットでなくてはならなかったんですよ。そうでなくては成り立たない」

「無理だ。拒んだのは奴らだ」

「だからって似た者同士だけじゃどうあれ短所は残ります。穴を小さくできるだけじゃありませんか。それが事実になってるでしょう?」

 今の状況がそうだ。

「力を示せばいい。我々を守れば勝利を得られると思わせれば従えられる」

「歪んだ関係です。それでは連携なんて望めない。僕と彼の関係を見てなんとも思いません? 穴なんてないでしょう?」

「う……ぐ」

 絶句している。


 ルオーはビームランチャーのヒートゲージコントロールをしているがどうしても隙間ができる。それをマルチプレイヤーのパトリックが埋めていた。だからこそ、彼を狙撃からも守れる。持ちつ持たれつだ。


「僕が進化を望んだら、それを認めた彼が手を差し出してきた。握り返したからコンビネーションが生まれた。これが建設的な関係です」

 暗に歪みを指摘する。

「自分が短所としっかり向き合わなかったから穴が残っていると言うのだな?」

「違います? それ以外にないでしょう。なぜ色んな人がいると思います? 手を携えればより強くなれるからです」

「認めん。認められんぞ! 自分は間違ってなどいない!」


 引き返すには凝り固まりすぎたか。あるいは周りの評価が彼をそうさせてしまったか。両方だろう。

 成功体験は人を強くする。ただし、成功ばかりしていると失敗が想像できなくなってしまう。そこに停滞が生まれるのだった。


「貴様も今に思い知るのだ! 隣りにいる男がいつか貴様を裏切るときが来る!」

「どうでしょうね。たぶん、ないと思います。絆も友情もありませんが信頼だけはありますから」

「お前、悲しいこと言うなよ」


 そう言いながらもカシナトルドは至近距離でなにもできなくなったムザ隊のゾフリータを戦闘不能にしていく。中距離狙撃が周囲の敵機を一掃したので簡単なお仕事だった。

 ルオーはするりとルイン・ザをムザ機の横にまわす。重たいスナイパーランチャーを振ろうと足掻くも間に合わない。右手のランチャーが光を放って頭部を吹き飛ばし、左手の一撃がスナイパーランチャーを誘爆させる。


「拾ってもらったらちゃんと感謝するんですよ?」

「貴様、捨て置く気か!」

「穴が開いたから忙しくなるんです」


 ムザ隊の抜けた穴にルオーはビームランチャーを振って友軍を招いた。

次回『旭冴え(6)』 「それだけの力があって、どうしてスナイパーの権威向上に使おうとしない」

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