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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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旭冴え(3)

 防備を固めたモンテゾルネのアームドスキン隊が前進する。アデ・トブラの迎撃部隊は当然受けて立つ構えである。火線が伸び、戦列を組むスフォルカントのリフレクタを叩いた。


「これじゃ、今までの流れと同じじゃね?」

「そうですね。デヴォー司令はどうなさる気なんでしょう」

 パトリックの指摘をルオーははぐらかす。

「心配ありませんよ、きっと。あの方の頭の中には現状(・・)がしっかりと収まってるはずです」

「用兵家だもんな。人の使い方が上手だ。お前のアドリブにも普通についてくる」

「適材を見抜く目を持っていらっしゃいます」


 出鼻を挫くムザ隊の狙撃も本来の効力を発揮していない。防御メインの押し出しを遠距離砲撃では崩しきれない。ただし、進撃速度もさほどではなく、彼我の距離はあまり埋まっていない。


「お前の切り崩しを待ってるって」

「そんな単純じゃないと思いますよ」


 彼も遊んでいるのではない。狙点を見定めて応射するも、距離がありすぎて直撃させるには至っていない。集団戦における光学解析の限界を超えている。

 前哨による砲撃戦が始まる前に全軍が停止し、一度退く構えを見せる。距離が縮まれば狙撃が活きてくるのを見越してと思えた。しかし、そこから変化し、両翼と後衛の部隊が防備を固めた前哨を迂回して攻めに転じる気配を見せる。


「ほら、仕掛けていったでしょう?」

「お前も見せ球に使われただけか」


 するすると展開するアームドスキン隊。両翼がそのまま敵部隊の両端に喰らいつく空気を醸し、厚みのあった後衛も上下に分かれている。前哨と両翼を抑えに行けば後衛から放たれた部隊が抜けていく様相だ。


「嫌でしょうね、これ」

「なんでだ。お? 抑えに来るのか」


 隊を分けているだけに数的には大したことない。予備戦力のある迎撃側なら抜かせても対処できるくらいだ。なのに、本隊を割いて防ごうとしている。


「勝手させとけば各個撃破の的だったのに」

「抜かせるわけにいかないんです。一部でも降下するようだと無能の誹りを受けるので」

「おー」


 パトリックが理解したように心理的な作戦だ。国内で奇襲を受けた国軍のメンツは潰れている。このうえ、再び地上が強襲を受けでもすれば立場がない。

 例え、予備戦力で迎撃に成功したとしても敵を素通しさせた軌道戦力は役立たずと誹謗中傷の的になる。それが許されない心理状態なのであった。


「お前が背中に点けた火に燃料を注ごうってんだな」

「本来なら流動的な対処も可能な迎撃部隊に枷を嵌めたんです。もう自由にさせてもらえません。これでどうなるかっていうと……」


 アデ・トブラのゾフリータの陣形が崩れていく。迂回しようとする分隊全てを迎撃しようとすればそうするしかないからだ。


「ここからが本領でしょうね」

「完全にはめられたな」


 ダイナミックに動かせば、どうしても防備は薄くなる。そこを狙ってムザ隊の狙撃が襲いかかってくるも、防御を崩しきれない距離で退いていく。ルオーはその都度判明した狙点に数射放り込んで黙らせる。援護に乏しい敵は前に出てこられない。


「戦略的援護ってね。っと、オレたちも動けか」

「真正面から押すのは愚です」


 前哨の裏にいた彼らも合わせて移動する。目まぐるしく位置は変わり、退く左翼のさらに外側を巻くように前進する指示だ。追撃の気配を見せていた敵は再び受けに回らねばならない。


「押し引きをくり返していると」

「伸びてきたな」

「繊細な作業なのに見事なもんです」


 敵の陣形がピザ皮を伸ばすように薄く広がっていく。そのまま包囲しようにも、ドラスティックに変化するモンテゾルネのアームドスキンの小集団を包み込むのは不可能だ。


「これで敵の得意戦術は無効化されました」

「連中、四機しかいないもんな。これだけの範囲を網羅できるわけもない」

「しかも、従来守ってくれていた前衛まで剥ぎ取られています。どうなります?」


 狙点に一団が差し向けられる。丸裸に近いスナイパー部隊を守ろうとするのは従来の戦術に慣れているからだろう。すると、そこから狙いを変えた部隊はさらに薄くなった陣形の穴を突こうと動く。


「守ってる場合じゃなくされたな」

「フリだけで動かされてます」


 全体の広がりは保たれたまま右往左往するアデ・トブラのアームドスキン。モンテゾルネの部隊もダイナミックに動いてはいても、それは指示によるもの。疲労度が高いのがどちらかと問えばいうまでもない。


「さて、序盤戦が終わってデヴォー司令の思い描いた状態になりました」

「オレたちの出番か?」

「はい、敵陣形が動いてくれって言ってますから働きましょう」


 遊撃する頃合いである。目標は語るまでもない。ここで崩れれば致命的になる一点を目指せばいい。


「見せ場ですよ、パット」

「ほいほい、お任せちゃーん」


 相方のカシナトルドを全面に押し立ててルイン・ザを後ろに付ける。目立つ機体を狙ってスナイピングビームが飛んでくるが、迎撃してプラズマボールに変えてしまう。


「来たな、ルオー・ニックル」

「バレてしまいましたか。そろそろだと思ってました」

「貴様を討てば帳消しになる」

「そうです? 勝負は付いているように見えますけど」


 オープン回線越しのムザの言葉にルオーは現状を説いた。

次回『旭冴え(4)』 「逆転親和性って知ってるかい?」

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