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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
世の中ままならない
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割り込まれて(3)

(問題ない。いつもどおりにすれば、あいつは流される)

 パトリック・ゼーガンは内心の不安を押し隠して待っていた。


 軍学校卒業を二ヶ月後に控えてルオー・ニックルが入隊契約を破棄したと聞く。彼は愕然とした。事情を聞いたかぎり理解できなくもないが計算が狂ってしまうと焦る。


(オレがゼーガンの後継として立つのはまず無理。ならば、個人として名誉を得られないとこの自尊心は満たされない)

 名家嫡男の誇りを捨てれば自身を維持できない。

(それにはルオーが欠かさざるべきだったのに軍に進まないだと? オレを輝かせてくれる最高の素材なのに逃がしてなるもんか)


 そう思ったのだが、入隊辞退を覆すのはゼーガンの家の力を用いても不可能。個人の自由を阻害する働き掛けは露見すれば猛批判にさらされる時代である。不用意なことはできない。


(どうする? 考えを改めるよう頼むか? そんなのであいつは折れないな。なにしろ一年以上もオレの誘いを拒み続けるほど頑固なところがある)

 そのくらいにはルオーを理解していた。

(だったら? 逆に考えるか。オレがあいつのところに飛び込む? それで上手くいくのか?)


 民間軍事会社(PMSC)を立ち上げると言う。普通であれば一人でどうにかなる事業ではない。個人で動くのなら傭兵協会(ソルジャーズユニオン)を選ぶ。

 PMSCを選んだということはチームで行動するはず。そこに加わるのに不自然さはないと考える。


(あいつの性分だ。最初は一員でも、徐々に主導権を握っていけば従うようになるだろう。そうすればこっちのもの。いずれはオレを中心とした会社にしていけばいい)

 新たに計算を始める。

(あいつとオレなら確実に成果を挙げて有名になっていく。そこからは簡単だ。オレが前面に立ち、脚光を浴びるのは自明の理。バイプレイヤーのルオーのサポートを得て英雄への道が拓ける)


 大きな流れには逆らわないルオーの性質を利用して徐々に浸透していく作戦にする。強引に行っても曲げない、意外な芯の強さを持つ男もなし崩しには弱い。まずは懐に飛び込むのが第一歩である。


「来た」

 頭の整理をつけたパトリックは本来の自信に満ち溢れた自分に変わる。


 いつもの眠そうな表情のまま歩いてくるルオー。肩にリュックを背負っただけの軽装に呆れる。これから宇宙に飛び立とうという覇気は微塵も感じられない。


(やはりな)

 そこからの状況は彼の思いどおりに進んだ。


 特異な操船AIという不確定要素はあったがそれもクリア。体よくライジングサンと名付けられた船内に自機のカシナトルドを収めるのに成功する。


「なに?」

 そこで驚かされる。


 薄暗い機体格納庫(ハンガー)で、隣に別のアームドスキンが同じくうつ伏せに収まっている。ルオーが仕事をするならば当然といえば当然。ただし、その機体が彼の記憶にないアームドスキンであったからだ。


(記憶にないほど旧式なのか? それにしてはな)


 パトリックは『カシナトルド』を選ぶ過程で、現在入手できそうなアームドスキンを片っ端から調べ上げた。少々値が張ろうが現時点で最高レベルのスペックを叩き出してくれる機体が欲しい。

 親とも丁々発止の駆け引きの果てにどうにか取り寄せた最新機種。それ以上のアームドスキンなど一般市民では望めないはずなのに、隣の機体は独特の空気を醸し出している。


(とりわけ凄みを感じさせるわけじゃない。なのに、なんだこれは。内に秘める力を感じさせるフォルムをしてる)


 重厚感はない。軍用機のようなシンプルさはあるが、それにしては細身に思える。もし、軍用機並みの戦闘出力があるならば、まるでパトリックのカシナトルドに似ている内部機構を備えていなければ説明できないシルエットだった。


「降り方わかりますか?」

 ルオーが機体格納庫(ハンガー)内に上がってくると内部照明が明るくなる。


 細部まで見えるようになると隣のアームドスキンの特性がわかる。一番強化されているのは頭部センサー系だろう。

 丸みを帯びた頭にはカメラアイではなくスリットセンサーが切られている。目の高さに横一文字だけでなく、斜めに頬へと下がるラインにも。そして、後頭部にも縦一本に加え、丸いレンズやアクティブセンサー用のアンテナも複数立っていた。


(まるで電子戦仕様機みたいなアームドスキンだな)

 目を細めて眺める。


「パトリック?」

 心配するような声音が聞こえる。

「大丈夫です。普通に降機操作をすれば機体センサーが重力方向を感知してシートを回転させてくれますから」

「そんなことは知っている」

「そうなんですか。僕は知らなくて困りましたので君もそうなのかと」


 コンソールパネルのアイコンをタップして降機する。ブレストプレートが跳ね上げられ、プロテクタがスライドアップするとパイロットシートが外へ。下で待つ金髪のところへと回転しながら吊り下げられていった。

 ちらりと横をうかがうと、モスグリーンのアームドスキンの背中にはスナイパーランチャーと思われるビーム兵器。見るからにルオー仕様にカスタマイズされている機体だと感じる。


「お前、このアームドスキンをどこで手に入れた?」

「ルイン・ザですか? そういえば、これってどこ製のアームドスキンなんですかね?」


(やはりアームドスキンなのか。もしかしてアストロウォーカーなのかとも思ったんだけど)


 パトリックは選択肢から抜けていた原因が一つ潰れたのを知った。

次回『割り込まれて(4)』 「僕とティムニだけって言いませんでしたっけ?」

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更新有り難うございます。 忠誠より、打算の方が調度良い?
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