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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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溺れた挙げ句に(7)

 ムザは敵スナイパーを会話で牽制し、追跡していたはずの部隊の突入を支援するつもりだった。会話の内容はどうあれ、それは成功している。なのに部隊の突入は行われない。


(なにが起こっている?)


 部隊がやってくる方向がにわかに騒がしい。視線を走らせると、そこにはレモンイエローのアームドスキンが居座っており、部隊の車両を妨害しているとわかった。


「貴様、時間稼ぎを」

 牽制しているつもりが縛られていたのは自分たちのほうであった。

「少しばかり。本気で付き合ってくれるとは思ってませんでした。でも、気付きがあったなら無駄ではなかったと思いますけど?」

「無駄だ。我々の任務を妨害ばかりしてくれる」

「そんな感じですか」


 そうしているうちに襲撃部隊が工場から出てくる。確保していた技術者を伴っているのも見えた。


(完全に失敗だ。この失態は大きい)

 焦りが募ってくる。

(このまま返すくらいなら……)


 照準をモンテゾルネの技術者に向ける。機甲部隊と違って平服の彼らは防ぐ手立てを持っていないので、狙撃すれば簡単に殺害できる。


「駄目ですよ」


 間髪入れず狙撃される。構えていたハイパワーガンが半ばから赤熱してバッテリーが暴発した。彼は慌てて放り出している。


「撃とうとしましたね?」

「貴様、どうやって?」


 照準レーザーの照射を受けなかった。それはσ(シグマ)・ルーンから展開しているレーザー可視化パネルで確認している。見えたら避けられたはずだ。


「最低です。武装してもいない人を撃とうとしたんですよ? よくも、それで現代軍人だといえますね? 軽蔑します。次は身体に当てます」

「出来もせんことを。貴様の位置はわかったぞ。我々ムザ隊の力を知れ」


 照準レーザーは見えなかったが対物レーザーそのものは見えた。狙点を確認している。即座にメンバーに共有した。


「撃て。奴を逃がすな」

「逃げたりしません」


 隊員たちが一斉に狙点のスナイパーを撃とうと狙いをつけているが、その前にアームドスキンが降ってきた。モスグリーンの機体は間違いなく敵スナイパーのものであった。


「しまった!」

「閉じ込められていた方々は返していただきます」


 モスグリーンの背中に阻まれて狙えない。その向こうでは青年がコクピットに乗り込もうとしているのがわかっていても、だ。


「ライジングサンは罪なき技術者の明日を暗闇に閉ざしたりしない」


 宣言される。振り返ったアームドスキンは左手をかざしてきた。手首の対物レーザーで狙われては敵わない。


「総員退避!」


 隊員たちは建物の裏に逃げ込むしかない。彼らの任務は失敗したが、敵の奪還作戦そのものも成功したとはいえない。首都の近郊にアームドスキンを出してきた時点で奪還は厳しくなっている。


(普通に考えれば、だが)

 これまでも眠そうな青年は状況を覆してきている。


「ムザ、あいつに持ってかれる」

「そう来るか」


 モスグリーンの機体は背中から回転してきたスナイパーランチャーを右手に携えると、反重力端子(グラビノッツ)を最大に効かせて突入車両と並走してうつ伏せに飛びはじめる。左手で車両をすくい上げ胸に抱え込み仰向けに変わった。


「市街地を盾に取る気か」


 上空には警察機が集まってきている。国軍基地からスクランブルしてきたアームドスキンもちらほらと舞いはじめた。しかし、撃つことはできない。上空から狙って外せば地上はズタズタになってしまう。


「狙われちゃう」

 イルメアは悲鳴に近い声をあげる。


 青年のアームドスキンは重力波(グラビティ)フィンを展開すると右腕一本でスナイパーランチャーを構えた。フィンで反動を殺しながら狙撃。頭部を撃ち抜かれて一時的に視界を失った警察機が迷走している。


「撃破されて市街地に落ちようもんなら大惨事だ」

 ツワラドの声にも怯えが混じる。


(不用意に攻撃できん。近づくのも躊躇われる。そうしてると)

 ムザには予想できる。


 スナイパーの機体を落としていった戦闘艇が戻ってくる。レモンイエローとモスグリーンのアームドスキンは船の防御フィールドの範囲内に素早く移動した。


「逃げられちゃいますよ」

「だからってなにができる」


 舞い上がった戦闘艇にビームが集中するが防御フィールドで阻まれる。船体の一部の装甲がハッチになっていて開いた。そこから砲門が顔を出す。


(あの形状は?)

 通常のものとは違った。


 放たれたのはスナイピングビームだ。後退しつつ撃ちまくる。次々と被弾したアームドスキンが脱落していき、弾幕も徐々に薄まっていく。そうなると彼らの逃亡を防ぐ手立てはなくなった。


「最悪」

「なんて失態だよ」

 隊員たちは見送るしかない。


 離脱していく戦闘艇は小さくなっていくばかり。追撃を振りきれば超光速航法(フィールドドライブ)でモンテゾルネに戻るだろう。まんまと技術者を奪還して。


(奴め、一機も市街地にアームドスキンを墜とさなかった)

 大破した機体が着地しているものの爆発はしていない。

(狙ったな。思いがけない位置から狙撃を受けたあのときと同じだ。戦闘艇と奴の機体は連動している。機動砲台のようなものだ)


 被害は出ておらずムザは胸を撫で下ろすが、青年の狡猾さを実感するのはのちのことだった。

次回『旭冴え(1)』 「政治家は責任を転嫁する相手を探しておられる」

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