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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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溺れた挙げ句に(6)

 ムザたち隊員とモンテゾルネが雇ったスナイパーとの睨み合いが続く。イオン駆動機工場への襲撃を許してしまったが、もう取り返しがつかない。


(動けんな)

 ムザも次の段階に入ったと思っている。

(軍の機甲部隊が投入されるだろう。名目上は民間企業のままだったから兵士を置くことはできなかったが、侵入されたとあってはそれどころではない。奴に突入を邪魔させないようにせねば)


 目下の対処は牽制になる。生身の部隊同士の戦闘で技術者を奪われないようにするしかない。電子戦でも敵わないようでは敵スナイパーの狙撃を失敗させるのが目的となる。


「あなたはなんのために撃とうとしてるんです?」

 相手は呑気に話し掛けてくるので好都合だ。

「国益を守るためですか?」

「そうだ」

「今回の乗っ取り計画および、その後の開戦までの流れはお世辞にも褒められたものでないです。それでもアデ・トブラの横暴は国益に沿うことだと?」

 議論を吹っ掛けてくる。

「それは我々の考えることではない。軍人である以上、命じられた任務を遂行する」

「軍人を強調するということはそこに誇りを感じてるんですね。国益に適えば、ひいては国民を守ることになると。軍人の本懐ですか」

「違うとは言わさん」


 軍人として任務を完遂できれば国民からの税金で身を立てていても後ろめたさはない。それが国益となり国民を守ることになるかは彼の責任ではない。


「それは思考停止と違います? 本当に国益になるかどうかも考えるべきでしょう、あなたも有権者の一人であるならば」

 疑問を投げ掛けてくる。

「しかも、スナイパーとしてそれだけの能力があるのならば、もっと別の選択肢があったはずに思えます」

「自分が決めるようなことではない」

「そうです? だって、近隣国ではアデ・トブラのムザ隊といえば有名です。少なからず発言権くらいあるんじゃありません?」

 まるで政府の横暴を止めるべきだったと問い詰められているかのようだ。

「あったとしても行使すべきではないだろう。自分は政治家ではないのだから」

「命令と、将来的に生じるかもしれない結果との矛盾など知ったことではないと言うんです?」

「職分とはそういうものだ」


 決してはみ出しているとは思わない。軍人の行動としては絶対的に正しいと考えている。


「それとも、貴様が自分の立場であれば別の選択をしたと?」

 逆に質問する。

「しましたね。最終的に命令には逆らえないにしても、あまりに無法を働けば手痛い結果を招きかねないと諫言くらいはします」

「したとしても結果は変わらん」

「それでもです」

 若干被せ気味にいう。

「本当に国民を守る軍人の本懐を遂げたいのならば行動すべきです。命令がいつも正しいとは限らない。そう考えているべきではありませんか?」

「考えたところで無駄だ」

「なるほど」


 相手の声音に落胆が混じったように感じる。もしかしたら、敵スナイパーは彼を説得しようとしていたのかもしれない。


「興味ないんですね。軍人を標榜しながら国民のことなど見ていない」

 一刀両断される。

「そんなことはない」

「そうなんですよ。あなたの判断は常に自身に向いている。自身がどうあるか、どう見られるかに固執していると感じました」

「なにが言いたい」

 ひどく侮辱されているように思えて怒気が混じる。

「わからなくもありません。スナイパーゆえの苦悩ですか」

「言うな。民間のアームドスキン乗りになにがわかる」

「想像がつきますよ」

 青年はムザの過去を見透かしたかのように言う。


 アームドスキンが一般化してパイロットは二極化した。白兵戦スタイルを受け入れた者、あるいは過去の砲撃戦スタイルを踏襲した者。

 スナイパーは後者に当たり、比較的見下されがちである。敵スナイパーも過去に似た苦い経験があったとしてもおかしくない。


「余計に理解できるはずだ。我々がどれほど苦労してこのスタイルに至ったか」

 結論を突きつける。

「認めますね? あなたの照準は軍人として国民を守るためにあるのではなく、自身の権威を高めるためにあると」

「だからどうした。軍人の風上にも置けないと非難するか?」

「別に。そこまでは言ってません」

 暗に志が低いと言われたように感じる。

「ならば、貴様はなんなのだ。そうやって他者を好き勝手言って見下すために気軽な立場でいるのか?」

「いいえ、僕は僕が守りたいと感じた誰かのためにトリガーに指を掛けています」

「それこそ身勝手ではないか。なんだ? 貴様は常に正しい側にいるつもりか? 考えて動いているから正義だとでも言う気か?」


 青年の欺瞞だと思った。そこを突かれるのは一番嫌だろう。動揺を誘えるはずであった。


「正義? そんなものは僕の中にはありません。社会正義なんて、あるかどうかもわからないあやふやなものにも頼りません」

 断言してくる。

「自分を考えなしと批判しておいてか?」

「生きたいように生きると決めたんです。この能力が活きるのならば誰かを助け守ることに使おうと考えました。だから、その相手は自分で考えて選びます。それが僕の判断基準の全てです」

「貴様は……」


(此奴、今回の本国の横暴を許せなかったからモンテゾルネに付いたと)


 ムザはあまりの自由さに瞠目した。

次回『溺れた挙げ句に(7)』 「本気で付き合ってくれるとは思ってませんでした」

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