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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
146/353

溺れた挙げ句に(5)

 諜報部がマークしていた大型車が工場へと向かう通りに入ってくる。ルートには迷彩が掛けられていたが目標地点が明白な以上、そこで待ち伏せていれば確実だ。


(交通システムによるコントロール奪取も退けられたとなると電子戦では五分か、あるいはあちらが上か)

 軍による事前の阻止は失敗とムザに連絡があった。


「いいか?」

 メンバーに周知する。

「これより周囲の車両を強制停止させての封じ込めをする。混乱するが、それに乗じて襲撃部隊が降車しての突入に移ると思われる。全ての兵員を射殺せよ」

「二、三人生かしとかなくてもいいんだな」

「かまわん。尋問は車両に残っているだろう諜報官で十分だそうだ」

 狙撃による安全確保ののちに捕縛する段取りである。

「了解」

「では、総員備え」


 σ(シグマ)・ルーンのヘッドアップ投影パネルに照準を連携させる。自動架台に置いたハイパワーガンは自動補正されてロックオンした目標を外すことはない。隊員はターゲット設定とトリガーボタンを押すのみである。


「ねえ、止まらないわよ?」

 想定地点を越える。

「まさか、交通システムも介入されてるだと? そこまで高度な電子戦能力持ってんのか」

「隊長、本部からの指示は?」

「待て。……停車させる。自分が機関の破壊を行うから兵員の狙撃を」


 転送されてきた車両の機関部にターゲットを変更。出力を上げて貫通させる設定にする。有線で繋がれたトリガーボタンを押そうとした瞬間、ハイパワーガンが赤熱して弾けた。


「なんだと?」

「すみませんが、させるわけにはまいりません」


 ムザの耳に飛び込んできたのは隊員以外の声だった。


   ◇      ◇      ◇


「来ましたね」

 機甲部隊の大型車に射線が伸びたのを確認したルオーは狙撃用ハイパワーガンを巡らせる。

「撃ちます。ティムニ、相手方の回線は把握してます?」

『してるー。場所も特定したけどいっかー』

「もう見えて(・・・)ますから。侵入してください」


 望遠にしたヘッドアップパネルでハイパワーガンが設置された自動架台を確認する。備えられたハイパワーガン本体を狙って確実に阻止する。


「すみませんが、させるわけにはまいりません」

 あとを追うように話し掛ける。

「何者だ?」

「直接対するのは初めてですね。ビームなら幾度となく交わしてきましたけど」

「お前か。お前があの敵スナイパーか」


 驚く様子が手に取るように伝わってくる。当然だろう。奪還側も狙撃手を配置しているとは思わなかったはずだ。隙を突いて、三基の自動架台に載せられた残りのハイパワーガンも撃ち抜いた。


「やられた! どうすんだ?」

「どっちを狙うの?」

 まだ混乱している。


(予備のハイパワーガンは持っているはずだねぇ。ここからが本当の勝負)

 咄嗟に伏せたスナイパー隊の面々の位置を視界に収める。


「車を狙おうとしても無駄ですよ。今度は手持ちでしょうから、狙うのは本人です。その覚悟でお願いしますね?」

 忠告する。

「貴様、よくも」

「こっちの台詞です。拉致されている技術者の方々を奪還しないと脅迫してくるでしょう?」

「それは……」


 否定できないはずだ。彼らの領分ではないが、軍や政府が次に打つ手はだいたい想像できよう。


「まずは返していただくとします」

「勝手を」


 これも想像どおりの台詞にルオーは肩をすくめた。


   ◇      ◇      ◇


(どこにいる? 反撃せんとこちらが撃たれる)

 ムザは集中する。


 ビームと違って不可視の物理レーザーは目視で確認できない。どこから狙撃されたのか特定できないのだ。


(だが、限定される)

 スナイパー同士である。ひそむ場所は見当がつく。幾つかの候補に絞った。

(あとは……)


 ヘッドアップパネルをレーザー認識モードにする。どうせ起動せねばならない。


(正確無比な狙撃だった。照準レーザーを使っているはずだ)

 視線を巡らせるがどこからも走っていない。ムザは不審に思った。

(なぜだ? 照準レーザー無しでどうやって当てられる? 一時的に切ってるのか?)


 探るが気配もない。隊員も息をひそめている。こういうケースは動いたほうが負けなのである。


「ムザ、ターゲットが」

「工場に突入を許すか。致し方あるまい」

「電子戦で負けた諜報部が悪い」

 イルメアが責任転嫁している。


 しかし、阻止に動こうにも目が離せない。いつ照準レーザーを起動して撃ってくるかわからない。先に撃たれたら本末転倒だ。


「そろそろ手遅れですね。お話に付き合ってくれません?」

「…………!」


(この口調、この声、あの青年か?)

 彼は気づいた。


 話し掛けてきた観光客のアームドスキン乗り。眠そうで、気の抜けたような敬語が印象に残っている。間違いなく当人だろう。


「貴様、あのときの」

「やっぱりあなたでしたか。銃器無しで街中を歩く気になれないのはスナイパーの性分なんですかね。でも、ハンドレーザーで十分でないです?」

「くっ、あのときに取り押さえておけば」


 後悔は先に立たない。背も低く、細身の青年だったので取り押さえるのは難しくなかったであろう。しかし、遠く離れて銃口を向け合っている状況ではどうにもできない。


(これもスナイパーの運命(さだめ)みたいなものか)


 どちらが先に当てるかの撃ち合いの状況をムザは皮肉に感じていた。

次回『溺れた挙げ句に(6)』 「あなたはなんのために撃とうとしてるんです?」

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