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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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溺れた挙げ句に(4)

 技術者の軟禁場所の情報共有をモンテゾルネ軍諜報員と行ったルオーたちは奪還計画を練る。主体は機甲部隊であり突入を任せ、彼らはサポートをする段取りだ。


(ティムニが、少し派手に動きすぎって諜報員の行動に文句言ってたくらいだから察知されてる可能性はあるねぇ)


 単なる保険ともいえなくなった。アデ・トブラ軍の阻止行動が予想される。警戒されているかどうか確認すべきだと感じる。

 事前に設定しておいた場所に向かう必要があるものの、ライジングサンが監視されていて不用意に動けない。仕方なくクーファを伴ってグルメ散策を偽装する。バックパックに狙撃用ハイパワーガンを忍ばせて街に出た。


「ここ、当たりぃ。昨日、ハズレ多かったから満足ぅ」

「悪くなかったですね。個人ランキングでも上のほうに入るでしょう」


 スイーツショップに入ったあたりで尾行が解けた。これまで再三グルメ店巡りをくり返したのが功を奏しただろう。運び屋と勘違いしてくれたなら問題ない。


「ここの上ぇ?」

「ティムニにルートは任せてます。素通りして屋上まで行けるはず。すみませんが僕の仕事に付き合ってくださいね」

「いいよぉ。仲間外れ嫌だもん」


 機甲部隊と諜報員はレンタルした大型車両に乗り移って移動している。パトリックはライジングサンの中で待機だ。カシナトルドのコクピットに収まって待っている。いつもなら留守番役のクーファも今回は偽装に駆り出された。


「ふわぁ」

「見晴らしいいですね」


 街外れとはいえ一望できる場所に出ると感嘆の声がもれる。首都の側は高層建築も多く見通しには限界がある。しかし、郊外工場側はひととおり射線が確保できる場所設定だった。


「さすがティムニです」

『お任せあれー』


 飛び出してきた3Dアバターの頭を撫でるフリをして位置取りをする。視線を巡らせ確認してから、バックパックから取り出したパーツを組み立てに掛かった。


「手伝うぅ?」

「大丈夫です。ゆっくりしててください」


 彼女に武器を触らせる気になれない。なにかしでかす以前にクーファには似合わないと思う。純粋に光も闇も、現在の星間銀河の全てを見ていてほしいと願っている。


(その中で彼らレジット人がどう在ろうか決めるならそれでいい。例え、人類と敵対する意思を持つに至ったとしてもねぇ)


 加担するも邪魔するも、そのときの彼らの言葉を聞いてからにしようと考えている。星間銀河圏を外側から見た鏡にするつもりだった。どっぷりと浸かった彼では見えないものが見えていると思うからだ。


「それが関わると決めた僕の義務でしょうから」

「なぁにぃ?」

「なんでもないです。クゥには僕の栄養補給係を命じます」

「りょーかぃ」


 嬉しそうな猫耳娘を傍らに、ルオーはできあがったハイパワーガンを構えて伏せ撃ち姿勢をとった。


   ◇      ◇      ◇


 重要ネットワークに侵入の痕跡を確認したアデ・トブラ政府は国軍に警戒態勢を命じる。その検索ルートから技術者の奪還を目的にしていると察知し、軍はイオン駆動機工場周辺に人員を配置した。


「配置および感度確認を行う。個々に応答せよ。ツワラド?」

「ツワラド、配置完了。感度よし」


 ムザ隊も敵国の奪還作戦阻止のために配置を命じられた。σ(シグマ)・ルーンでメンバーの配置確認をする。どのルートを選ぶにしても確実に狙える位置に、バラバラに配されている。


「ナッシュ、配置完了。第三者の立ち入りも認められません」

「全員ついたな。では、待機に入る」


 軍の権限で設定した配置箇所だ。一般人の立ち入りできない場所になっている。彼らメンバーは、いつとも知れない襲撃に備えて待機体制に入った。


(長丁場になるか?)

 いつものことで慣れている。

(こっちが本来の我々の任務ともいえる)


 配置したら最後、解けるまでは身動きできない。ゆえにスナイパーは生理現象から女性が少ないのも事実だ。フィットスキンのトイレパックの容量にも限度がある。


「西側ルート、異常なし」

「東側も異常なし」


 定期的に交信することで感度確認と配置確認を行う。お互いを感じることで気晴らしにもなる。メンタルの維持には大事な会話でもあった。


「来ると思う、ムザ?」

 イルメアが尋ねてくる。

「来るだろう。軍情報部が運び屋らしき船舶の確定までしている。先ほど車両での移動も察知したらしい。尾行に入っている。作戦行動と確認でき次第対象の確保もしくは撃破が命じられる」

「実行に移ってからじゃないと実力行使できないわよね。勘違いじゃ済まされないもの」

「外資産業に悪い噂を流すわけにもいかんからな。本国の経済力ではゼオルダイゼのような強権主義は貫けまい。不安定感から国民の支持が下がるのを政府は嫌う」

 世間話に付き合う。

「国民にそっぽ向かれたらメーザードの二の舞いってね」

「ゆえにバランス感覚が求められるのだが、どうにも昨今の政治家はゼオルダイゼにおもねることばかり上手な者ばかりになってきた。かの国の工作なのだろうが、それでは困る」

「それもこれも同盟の成長が伸び悩みしているからだわ」


(星間管理局が動いているからかもしれない。ゼオルダイゼは急ぎすぎているように思える。裏側でなにが起こっている?)


 ムザは視覚に重きを置いたまま世情に思いを馳せていた。

次回『溺れた挙げ句に(5)』 「車を狙おうとしても無駄ですよ」

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