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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
泳ぎ上手は川で死ぬ
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溺れた挙げ句に(3)

 不審に思わせないよう、普通に観光してみせたルオーたちは夕方にはライジングサンに戻る。護衛に駆り出されたパトリックは帰る前に放流した。歓楽街に消えたあとのことをどうこう言ったりしない。


「お客さんはどうです?」

 自室に戻ってピンク髪のアバターに尋ねる。

『トレーニングルームでいい子してるー』

「そういうタイプの方々ですよね。僕たちが使えなくなるだけで他に不便がなくていいです」

『食料もしっかり配給されてきたしー』


 モンテゾルネの技術者奪還用機甲部隊員の話だ。二人で潜入と戦闘まで担うのは不可能なので同乗してきている。彼らに回線を渡して調査をしてもらっているが、ルオーも独自に調査するつもりだった。


(状況的に、あまり長居したいものじゃないからなぁ。身が入らないし)


 観光客を装い、それっぽい行動をしたフリで多少は楽しんだものの、機甲隊員の行動いかんでいつ動き出さねばならないかわからない。動き出したら最後、速やかな脱出は必須である。敵中ど真ん中なのだから。


「見つけられました?」

 カフェテリアに移動しクーファと夕食の準備をしながら説明を受ける。

『だいたいの目星ついたー。イオン駆動機生産工場の区画に軟禁されてるっぽいー』

「大胆ですね。まさか本国まで侵入されるとは思ってないとでも?」

『一応、改造されて出入りの管理までできるようにされてるー』


 最有力候補で当たりだったらしい。隠すつもりもなさそうな差配である。これだと早晩、突入部隊随行の諜報員も探り当てるだろう。


(早く片付きそうだねぇ。ただし、場所があまりよろしくない)


 マップに表示させると首都近郊の国軍基地のすぐ傍である。敵軍が最も早く察知し、大挙してやってくるのは想像に難くない。


「これは離脱にアームドスキンが必要になってしまいますね」

 密かには無理な相談だろう。

『入れ物用意したほうがいくないー?』

「大型車が必要でしょう。手配できます?」

『レンタルするー。そんで持ち逃げー』

 窃盗になるが仕方あるまい。

「準備はそのくらいでいいでしょう。手順はお任せするとして」

『問題は背景のほうー』

「背景ですか?」


 意外な文言に首をかしげる。アデ・トブラのやり方が、いささか強引なのは否めない。しかし、動機としては不審な点は見られないと思っていた。

 ところがティムニはそう思っていなかったらしい。ここまで強硬手段をとるのは、なんらかの背景があると感じて調査しているという。


「星間管理局の調査に引っ掛かりかねない事案なのは本当ですけど」

『失敗すると確実に目をつけられるほどだよー?』

「裏があると思うべきですか」


 そこまで深入りすべきかは考えものである。ルオーたちは単に従軍依頼に着いているにすぎない。少々依頼内容が拡大傾向だが、どちらかに肩入れするほどの思いは持っていない。


「聞いたほうがいいです?」

 ティムニは興味ないかと窺ってくる。

「どんなものでしょう」

『話が隣の宙区までいっちゃうー』

「隣ですって? オイナッセンの隣といったらベスティアじゃないですか。いくら僕でも関わり合いになりたくないですね」


 地政学的に、非常に微妙な宙域が広がっているあたりである。ベスティア宙区が面しているのはゴート新宙区の一部。そして、ベスティア外縁部と呼ばれる紛争宙域。向こうには星間銀河に属さない人類圏が存在するのだ。


(星間銀河圏でも一二を争う激戦宙域じゃないか。さらには噂の新宙区と話題には事欠かない。とても素人が手を出していい場所じゃないねぇ)


 ティムニにとっては関わり深い場所になる。そういう意味ではすでに関わっているともいえなくもないが。


「僕をそこへ誘うつもりじゃないですよね?」

 手を出せば人生を浪費する羽目になりそうだ。

『しないー。でも、ルオーがこのあたりに生まれた意味があると思ってるー。それがゼオルダイゼ同盟の存在に関わるかもー。その後ろにベスティアがいるって忘れないでおいてほしいだけー』

「ううー、ベスティアですか。取り込まれたら最後、絶対に抜けられない気しかしません」

『それは正解ぃー』

 デフォルメアバターは愉快そうにテーブルの上でくるくると舞い踊る。


 紛争宙域だけあってベスティア宙区は軍事強国が肩を並べている。その中でも中央に座す惑星国家ベスティアは星間銀河圏屈指の軍国。彼のような軍事的に特殊な才能に恵まれた者は見込まれたら終わりである。


「ベスティア、行くぅ?」

 猫耳娘が珍しく不安げにしている。

「なにかあるんです?」

(オンマ)もあそこだけは手を出しちゃいけないって言ってたぁ。レジットの支店もオイナッセン宙区までで止めてるぅ」

「行ってはいけない、ですか。確かに医療物資も一つの軍需物資といえなくもありません。繋がったら最後、徴収と称して全部持ち去られそうですもんね」


 それほどに強権が横行していると聞く。星間管理局もベスティアを制御しようとしているが、自衛を謳って軍国化するのを止められはしない。加盟国民の生存権にまで関わるためである。


(ベスティアが裏にいてゼオルダイゼ同盟を強化しようとしている? もしかして、このあたり一円の宙区をまとめてベスティア外縁向けの軍事緩衝宙域にしようとでもしてるのかなぁ?)


 ルオーにはわからない意図が動いていそうだった。

次回『溺れた挙げ句に(4)』 「クゥには僕の栄養補給係を命じます」

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